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ひとりぼっちの製造業

わたしが今やっているビジネスは、どうやら製造業(下流製造業)に当たるとされているらしい。

そういう意識は全くなく、外部からそう位置づけられてしまっているだけなんだけど、それにしたってわたしのやっているビジネスはどうにも体系づけられない雰囲気になっている。

といっても、ほとんどアウトソーシングだから、本人も製造業という意識はほとんどなく……。

でも、なぜか女ひとりで製造業をやっている(正確にはひとりじゃない)という位置づけになっているらしい。

ふつうね、起業しますって一般人が言ったらホリエモンよろしく「在庫を持たないビジネス」とか言いますけど、それそんなに重要じゃないからね。
昔ほどロットの縛りがないし、ネットがあるから受注も緩やかにきめ細かくなっているし、保管にコストがかかるとしても在庫がないビジネスがお客をゲットするコストと比べたらどっちが安いかっていったら保管コストのほうが圧倒的に安いケースもたくさんあります。

しかしこちらは新参者で技術はない。アイディアしかない。
そういうところが製造業に食い込むって、極めて難しい。
技術を持っている気難しい工場に、よくわからない小娘が「これ作ってくださーい」っていう状況自体プライドが許せない人も多いと思う。

それにきちんとものを言えるようになるには、一にも二にも実績しかない。

という、卵が先か鶏が先かというラットレースのはじまり。

しかし、わたしのいる(とされている)業界は、超絶斜陽業界なのです。
市場規模は確実に縮小している。今までが広すぎたという事もあるけど、それにしてもこの20年どれだけ減りましたかってくらいの直滑降。
それでも、一定数必要とされるものでもあるので、そこを何とかひねってシェアをつかむか、安売りでなんとかするか、みたいな泥仕合です。

それが、ある意味ラッキーだった。

ぽっと出の、出自のわからない素人でも、そこそこネットを使って売上が確保できると見せれば、超絶斜陽業界は小さな数字でも動いてくれるようになっている。
しかも、ここぞとばかり自社の技術をださないと!と前向きに対応してくれたりして、かつては大企業でないとできない事でもその気になればできる取引になっていたりする。
(もちろん大口口座をあけて、みたいな金融がらみになるとまた話は違ってくるけれど)

起業したいとか、フリーランスになりたいっていう人は、だいたい「在庫のいらないサービスの仕事」で体一つで始めてしまう。
それを「低リスクだから」という考えは、少々違うと思っている。
まずひとりでできる仕事の量なんか、限界がある。つまり収入が頭打ちになる可能性がすぐそこにある。それは中期的なリスク。
その点、在庫のある商品で単価や保管コスト、製造コストのバランスさえうまくいけば、「売れれば売れるほど儲かる」事ができるのは、製造業の強み。
だからあんまり「在庫のいらないサービス」を過信しない方が良い。
低コスト低リスクで始めるといっても、10万円は低コストなのか、1000円が低コストなのかは人によるけれど、10万円が低コストと感じるなら製造業はいけると思う。

ただし、ここで「手作り作家」になってしまうと、やっぱりそれも製造業ではなくなってしまう。最初はそれでもいいけど、販売が見込めるようになったらバッサリ工場に委託するつもりで、最初からそれが可能な構造で商品を作る方が良いと思う。
手作り作家も体一つの商売だから、ピカソレベルの芸術家として国際的な評価があるならいざ知らず、一般人が商売として作品を作るなら貧乏だけど美しい幻想はやめておいた方がいい。

もっと常識を疑おうよ。
10年、15年前ならいざ知らず「在庫を持たないビジネスが低リスク」なんていう常識を疑うくらいの力がなくてはこの先厳しいよ。
「手作り作家で好きなことをしてのんびり稼ぐ」っていうのも、だいたいそういうお題目を出しているところはそういう下心のある人を集めてお金を巻き上げているサービス業だから耳障りのいい事をたくさん教えてくれる。
そこに命を預けたらいけないんだ。

でも、そうやって起業できたとしても、それはそれでものすごくキツイ。
先輩とか、仲間がいない。相談しても、「あーわかるわーそういう事あったわー」というあるある状況がひとつも共有できない。
そして予測が全く立てられないし常にギャンブル。負けない程度のギャンブルを積み重ねて、小さな勝ちをためて「ほらうちはこれだけ売れるんですよ」って交渉のカードに変化させて、でもそのカードが有効かどうかなんてわからない。ずっとそんな感じ。

それでも、それが面白いのかもしれない。

わたしはずっとこの透明なチェスをやり続ける事が、生きる希望でもある。
うまくいっても誰にもわからないゲームをやり遂げる事が人生のすべてだと思っている。とても破滅的な思想だけども。
だから、よくある「私の体験が誰かの役に立つかもしれない」という自己顕示欲のアリバイ作りみたいなやつは、言えないよなーと常々思います…

ひとりぼっちの製造業は、多分これからも謎のビジネス展開をしていく。
なぜそれがそこに?と思われるかもしれないけど、私の中で文脈はつながっているし、お客さんもその文脈が読める人がついてきている。
だから「ビジネスのためのビジネス」という視点からは見えない展開になっていくだろう。

ビジネスモデルのお手本とかがないわけではない。
いくつか常にベンチマークというか、情報を追ってるところもある。
でも畑違いもいいところなので、なぜここが?って思われるだろうなぁ。
どっちにせよ、真似はできないから。

とにかく孤独な、ひとりぼっちの製造業。
誰にも理解されないビジネススタイル。
それでも、それしか生き延びる道はないんだろうし、それに対しもぐもぐとグチをこぼしてみてもそれこそ誰にも共感されない。(だからこういうところで書いている)

大体、ビジネスの成果は本業の売上で決まるもので、「主婦でもできるハッピー起業」とか言ってないで億と稼いでくれよって思うんだけどね。話はそれからだよ。でもそういうのに踊らされがち(読むほうだけじゃなくて、書き手もね)なのは仕方ないです。
だから、ここはグッと耐えて、送られてきた見積書の金額にくらくらしながら「こことここをこれに差し替えて、数をこれにしたらこのくらいになりませんか」などと削れるところをひたすら削る彫刻家みたいになっている。
大事なところを削ってはいけないけれど、余計なものがついているのはそれもまた未完成なのだよ!

ひとりぼっちの製造業は、今日も誰も読まない事業計画を書き直す。
銀行に持って行ってお金を借りるなんて事もないし、それを見せて何か話しがすすむようなものでもないので、適当に書いている。妄想のかたまりの同人誌みたいなもんだ。
誰にも理解されないまま、売上だけは着々と伸びていけばいい。
それで充分です。

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つよく生きていきたい。