見出し画像

もう一度アルコール依存症を考えよう

TOKIOの一件で、アルコール依存症についてもう一度ちゃんと考えてほしいってすごく思う。私はもともと精神保健福祉士という精神科のソーシャルワーカーの勉強をしていて、アルコール依存症回復医療施設で1カ月程度の実習や精神科閉鎖病棟で働いていた時期もあるので、全然知らない人よりは知っているほうだと思う。そういう視点も踏まえて、もう一度アルコール依存症について考えたい。

アルコール依存症と急性アルコール中毒は別物

まず最初に、ここを混乱している人が結構多いので、整理します。
急性アルコール中毒は、アルコールを摂取したことで体調が悪くなって、最悪死ぬ事。
アルコールは基本的に、かなり強烈な向精神物質(条件付き合法)なので、飲むと死ぬ
微量なら死なないが、身体には確実にダメージである。
急性中毒は、この物質のせいで具合が悪くなっちゃうこと。

アルコール依存症は、この薬物を常に身体に入れていないと精神状態が保てない事だとまず思ってもらえばいいかなと思う。
が、それは最終段階の状態。それよりも前の段階でもアルコール依存症といえる状態がある。

まず酒で失敗しても酒がやめられない。
これはもう、酒に対して自分の意思が通じない=飲酒をコントロールできないという事で、アルコール依存症となる。
飲酒をコントロールできない、というのがすごく重要なところ。

酒を飲んではいけない場面でも飲まないと体が動かない。仕事ができない。
こういうのはもうアルコール依存症です。

今回の山口君の「アルコール関係で入院していた」という情報は、私は詳しくはわからないけど、おそらく酒を飲み過ぎて肝臓を悪くしてそのために入院していた可能性のほうが高くて、アルコール依存症治療の入院ではないっぽい。

依存症治療の現場では「身体を治してはいけない」と言われている。ひどい言い方だけど。
なぜなら、酒が飲めるように体を治療してしまうと、また酒を飲むから。
酒が飲めない身体にしておく方が、アルコール依存症の治療としては有効なのです。

肝臓を治してしまうという事は、またアルコール依存症を続けていく事になるので。
(でも治さないと死ぬけどね)

アルコール依存症は経済共同体が共倒れする恐怖の病気

アルコール依存症は癌などとは違う。
しかし癌より、ある意味怖いと思う。

癌は、癌になった人がひとりで死ぬだけだ。
しかしアルコール依存症は、家族や経済共同体が全部破滅してしまう可能性がとても高い病気だ。

今回のTOKIOの一件を見たらそれは分かると思う。
あんなに人気の、長く続いたアイドルが、一夜にして崩壊だ。

車や機械の運転に関わる仕事だったら、一発アウト。そういう人を雇っていたという事で会社も責任を取らねばならない。
家族を養う立場の人がそうなると、お金が入ってこない。
そうでなくても酒代、病院治療費、それに交通事故などを頻回起こす事になる。損害賠償などが起きる。
また、今回の件みたいに、強制わいせつとか、器物損壊などもすごく多い。傷害も多い。
(依存症治療現場には、人を殺したことがある人も、それなりにいた)

お酒が入らなければ真面目な良い人、という印象の人が多いようだけれど、アルコール依存症は、飲酒コントロールが完全に崩壊するのが病状なので、元の状態がいいとかわるいとかはもう無関係。

インフルエンザやエボラ出血熱のように広がる感染症ではないけど、アルコール依存症を家族や経済共同体のひとりでも罹患してしまうと、その共同体は大ダメージを受ける事になる。

癌なら死ぬのは一人だけど、アルコール依存症は場合によっては関わった人全員が死ぬ。
今回のTOKIOのように。

そのくらい、恐ろしい病気。

どうしてアルコール依存症になるの?

心が弱いからとか、寂しかったからとか、いいますけどね。
違います。
規定量より多く酒を飲んだから。
これが一番大きいと言われています。

酒に強い、弱いは無関係です。
弱かろうがなる人はいます。

どのくらい飲んだらアルコール依存症になるのかは、個人差が大きいんですけど、まずお酒を一口でも飲む環境にいる人は、自分がアルコール依存症になる可能性はがっつり持っていると自覚なさることが重要なのです。

防ぐためには?
酒の量を減らす事。飲まない日を作るなど、酒の量を減らして、長い人生の間、細く長くおいしく飲む事。

まずい酒を大量に飲んだ挙句に人生ぶっ壊すアルコール依存症になる人の方が多い。

アルコール以外の楽しみ、アルコールに勝る向精神物質が脳内に出てくるような趣味を見つける事。むずかしいけど。

酒以外の趣味でも依存は起きるけど、アルコールや薬物、ギャンブルは特に身体と経済力をテキメンに壊してしまうので特別危険。
摂食障害もそうだけど、身体に入れる物=物質への依存が最も依存症では重症とされます。
物質依存(アルコール、薬物)>行為依存(仕事、ギャンブル、買い物等)>関係依存(恋愛、親子関係、パワハラ等)

全てのものに依存はあり得るんだけど、中でもアルコール、薬物、ギャンブルは二次犯罪も起きやすいし破滅一直線、おまけにコンボになりやすい。

イネイブラー

アルコール依存症は、「酒を飲んで不都合が起きてもサポートして何事もなかったかのようにフォローしてしまう周囲の人」が依存症を悪化させます。

それをイネイブラーと呼びます。

夫が酒を飲み過ぎて出社できない時に代わりに欠勤の連絡をする妻。
「それしか楽しみがないのだから」と酒を飲む金を与えてしまう親。
酔って暴力を振るわれてもジッと耐えて被害を押し隠す子供。
常に世話を焼いてくれる彼女や彼氏。

こういう立場の、一見とてもしっかりとできた人が、実は静かに依存症を加速的に悪化させていきます。

彼らがいなければ酒を飲んで暴れた後、どうにもならない状態になって(たとえば刑務所にはいるとか)、酒を断つきっかけをつかむ事になるのですが、そういう事がないまま常にフォローされて酒を飲み続けてしまうと加速的速やかにアルコール依存症は深刻化します。
回復の為には酒を飲ませている人=イネイブラーは誰なのかを特定する事がすごく重要。付き合う男がみんな酒浸りになって落ちぶれてしまう女とか、超強力なイネイブラー体質。治療機関では、患者本人よりイネイブラーとの戦いがかなりある。

治療方法

アルコール依存症になったら、唯一の治療方法は断酒です。
酒を、今後の人生で一滴も飲まない事。
これしかありません。

5年間禁酒とか、酒の量を減らすとかは無意味です。
飲んだら終わり。

なので、抗酒剤という薬があって、それを飲んで酒を飲むと急性アルコール中毒になったような死にそうな具合の悪さが起きる薬があります。
相当気持ち悪いそうです。
でも、これは「飲んだら気持ち悪くなる」だけであって、飲ませない心理的ストッパーの役割しかないんです。

もう絶対にやめる、と誓って、周りのサポートがある状態であっても、必ず数回はスリップと呼ばれる再飲酒が起きます。
どうしても飲んでしまって、暴れて犯罪を犯したり、取り返しのつかない事をしてしまう。道で寝ているとかはよくある。
スリップが起きるたびに、治療施設はざわつきます。

スリップは、特に回復したと思った人がお祝いの席などで起こしがちです。やっとまともに戻って娘の結婚式、ほんのひと口ならと勧められて、そこでまた酒乱になって暴れて……何もかも元の木阿弥どころかマイナスに落ちる。
こんな話は本当にたくさん聞きます。
断酒しかないんです。

破滅しないと回復しない

恐ろしい事ですが、アルコール依存症は、破滅する事が治療の第一歩になるのです。
イネイブラーを取り除き、酒を取り上げます。
そうすると、そこまでなんとか取り繕っていた体面は崩壊します。

今回のTOKIOの山口君の場合は、まずすでに離婚していた事で家庭がない可能性(ご実家とか、他に愛人や家庭がある可能性もあるけど)と、さらに仕事も強制わいせつ容疑によって大打撃を食らってリーダーも激おこしている様子なので、イネイブラーは取り去った可能性があります。
もう誰も彼をかばわないし、しりぬぐいもしない。フォローもしない。

これが、やっと!回復のはじまり!

木っ端みじんに破滅しないと、アルコール依存症の治療は始まらないのです。とても悲しい事だけど。

だから、ある意味、リーダーが「復帰はありえない」ってテレビでいったのはすごく重要なことで。
あれがないと、彼は回復できないんだよ。
完全に破滅しないと、回復はできない。それがもうアルコール依存症の恐ろしいところ。

酒を飲む人は全員罹患する可能性があり、なったら身近な人ほど苦しめ共倒れにさせ、経済的大打撃、社会的な死などを引き起こす。

リーダーが「復帰はありえない」と言った事こそ、私は回復の入り口になるんじゃないかと思った。
だから、だからどうかきちんと破滅して、回復してほしい。
それに10年20年かかるし、途中何度もスリップするだろうし、死ぬ事もあり得るだろうけど、とりあえず回復の為にまずここは!木っ端みじんに破滅してほしい。

その先に道は開く。

そうでなければ、こんなツラい思いをする意味がないではないか!
みんなの大好きな鉄腕ダッシュを日本国民から奪ったのだから、ちゃんと回復してくれよ!

人生後半で破滅するとホントきついからね

山口君は40代にして破滅した。
人生後半でこういう破滅はたまに起きる。アルコール依存症での破滅は中でも特に多いと思う。あと借金ね。浮気や不倫もあるかもね。

こんな大クライシスを人生の後半で受ける人は、実はけっこういる。
大体己の不注意が招いたことだけれども。
私の父も同じ感じで破滅して(主な理由は借金だったけど)、娘だった私は人生をものすごく歪められて大変だったんだぞまじ殺す。家族を持っている状態で破滅するという事は、愛する娘から殺され家族を殺人者にするような事になるのだよ。

そうならないためには、こういう大破壊は人生の最初の方で体験しておくべき事なんだと思う。
もう後半でやったら取り返しつかないから。
なるべく早く人生の前半で破滅を体験しましょう。

40代、50代での失敗は回収できないです。
被害も大きいです。
アルコール依存症は、誰でもなり得ます。気を付けてほしい。

アルコール依存症について、甘く考えている人がとても多くて、ちょっとどうかと思うのですよ。
アルコール依存症に自分はならないと思っている人の方が多いし、依存症になっている人は自分は依存症だとは思っていないんです(病識がないと表現される)。
病識のなさ、イネイブラーの存在など、とても複雑な構造を持つ病気なんだけど、とりあえずそこはあとでもいい。知ってほしいのは、ひとり罹患したら共同体全部が死ぬ可能性があるということ。
今回のTOKIOのように。

家族も、友達も、仕事の戦友も、それまでのキャリアも、ファンも、全部失う。

あんなに人気があって、愛されていたのに。

アルコール依存症かな?と思ったら

自分や、家族、職場の人など、アルコール依存症ではないかと思ったら、連絡する先はこちらです。

断酒会と呼ばれる自助組織です。
アルコール依存症当事者、その家族が中心となって結成され、医療も福祉も巻き込んで全国に網羅されています。

地方でもいくつか窓口がありますし、病院に相談に行っても医者がアルコール依存症に詳しい訳じゃないんで、まずはこちらがいいと思います。

断酒会は、アルコール依存症の本人だけじゃなくて、家族でも職場の人でもちゃんと相談してOKなのです。
気になることがあったら、こちらに連絡を取ってみてください。全国に支部があるので、ちょっと合わないなと思ったら別の地区の支部に行ってみることだってできる。
ここが最も多くの事例を持っていて、回復した人も回復途中の人もたくさんいる。そしてスリップして、二度と戻らない人も。

こういう自助組織のサポートがないと、おそらく回復は不可能です。
それを家族がやろうとするのは、あまりに無謀です。
見捨てたことになるのでは、と悩むことも多いかもしれませんが、心を強く持って「破滅こそが回復のとびら」だという事を知りましょう。
とても、とてもツラい事ではあるけれど。


そして、こういう事になりたくないのなら、お酒とはちゃんと距離を取って付き合う事です。
悪いとは言わないが、あれは条件付き合法のかなり強烈な向精神物質です。
薬物と同じです。
そういう意識を持って、付き合ってほしい。
特に家族のいる人は。

困ったら、断酒会に連絡を。

助けてくれる人がいます。


ここから先は

0字

¥ 180

つよく生きていきたい。