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服に教えてもらう

10万円の靴は私の先生だし、5万円のショートブーツは恋人で、毎日履く1.2万円のスニーカーは家族のような幼なじみの親友(でもすごく見栄えがいい)みたいなもので、8000円の防水コンバースはどうにもならない時に助けてくれるちょっとした浮気相手(悲しい時にだけ泣きついてお茶をするような)みたいなものだ。

もし1足追加するとしたら、マノロブラニクのパンプス(だけど実際にはほとんどないという33サイズ)かなーーーと思っているけれど、これはどういう存在になるのか、わからない。
もし手元に……いや足元に来て、履く中で関係性ができてくるのだろう。

いい服を着て、自分らしく装うとか、行動力をあげていくというのもひとつだと思ったけれど、なんやかんややっていくと、私は「服に何かを教えてもらう」ことを望んでいるのだろうなと思うに至った。

世の中にはこんなにパワーと知性がある服がたくさんあるのだねえ。
とんでもないぐちゃぐちゃなものもあるし、単品では微妙なのに合わせるとブワーッてくるものもある。

背負いきれない業を背負っているような服の着方をしている人もいれば(似合わないけど全身つるっつるに有名ブランドロゴのついたもので固めている人や、好きでもないだろうにテロテロのゆるフワワンピを着てつまらなそうにしている人や)、かたくなに鎧を強めていくことばかりを望んで嫌なことから逃げるという自分の力を忘れているような人(サイズが全く合っていない服をぱつんぱつんにボタンを閉めてきてボンレスハムみたいになっていたり)もいる。
いいとか悪いとか、カッコいいかダサいかの判断よりも前に、服は絶対に着なくてはいけないものなので、なんらかの「信号」を発信してしまう。

服そのものから発信されることもあれば、本人と服が合ってない事から発信されることもある。

自分に何かを教えてくれるような服は、基本的には自分にはまだ身の丈ではないものだ。
でも、身の丈ではないのに、うまい事寄り添ってフォローして、シュッとなにか一段上に引き上げてくれるようなところがある。

自分が服、ファッションにチャレンジしていく中で、今までの価値観では「ブランド名を並べ立ててすごいとかおしゃれとかいう人はあんまり信用ならない」と思っていたけど、どうしてもそこは避けて通れないなということも分かった。
ブランド名というのはそれだけでひとつの言語みたいになっていて、韓国語でしゃべるかロシア語でしゃべるかみたいな感じに少し似ている。
ユニクロなのか、コムデギャルソンなのか、エルメスなのか、ジャーナルスタンダードなのか、モンベルなのか。
言語はかなり学んでトレーニングを詰まないといけないけれど、服はサイズが合って着ることさえできれば、いきなりしゃべれるようになるみたいな存在だ。
上品な雰囲気になったり、飾らないが隙のない感じになったり、エクソシストになったり。
(私は首元が詰まったタイプの服が好きなせいか、気を抜くとすぐエクソシストみたいになる)

自分のファッションにテーマやコンセプトがあるかというと、実のところ微妙で、今は先生になるような服をいろいろ探してアタックしている。
でも本気で買う、ってなるのは、やっぱり自分が着られると確信持てたものなので、自分の輪郭を拾ったり、内面に響き合ったりしたものなのだろうなと思う。

逆に、安いからチャレンジするものは、結局失敗に落ち着くことが多い。
無印やユニクロのカーディガンを何枚無駄にしただろう……。買う時は、すごく期待して「きっとこれでは」みたいなことを思うんだけど、値段が手ごろだからいけるんじゃないかというよくわからない事が理由になっていたりして、冷静に考えれば高い方が作りがいい可能性は高いのに、なんでそう思ったん?なあ??ってなります……
(古着屋さんで買い取ってもらえなかったものは全部お店のリサイクルボックスに戻してきました。南無)

自分より強い服、自分よりエラい服、自分より格上の服を着て、服にいろいろ教えてもらいたい。服に導いてもらいたい。
それによって「だれか」から格上評価をもらうことは、あまり目的にはならない。大体、私の生活は誰かという存在がほとんど介入してこないから……。

さらに言えばもはや自分らしくなくてもいいとも思う。
服に教えてもらい、導いてもらうというのは、今の自分が考えている自分とは違う方へ進むことも大いにある。
それを現時点で想定したり、設定することはむずかしい。
ちょっとくらいはできるかもだけど。

自分でコンセプトを決める(というか人生のコンセプトというか、自分のスタイルみたいなものはもうはっきりとあるのだけど)よりも、東京という地理的優位性を活かして、とびぬけて優れた服を見に行き、試着し、手に入れて、今よりも違う、できればよりよい自分自身を見つけ出していきたいと願ってる。

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つよく生きていきたい。