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2022.1.15 ござさんソロピアノコンサート「EnVision」(昼の部)感想文

 2022年1月15日浜離宮朝日ホールで行われた、ござさんの初めてのソロピアノコンサート「EnVision」。これは、配信がなかった昼の部の雑感をまとめていたTwitterのモーメントを、2024年3月現在、noteに再編集した文章になります。
 再編集するにあたっては、コンサートを見てすぐ呟いていたTwitterのモーメントの内容を優先的に盛り込みましたが、今、ある程度時が経って必要だと感じたことについては、うっすらとした記憶を頼りに付け加えているところもあります。なにせこのコンサート記録は、普段はほとんど見ないのだけれど、何かの拍子に触れてしまうと涙腺崩壊してしまうほど大事なコンサートなのです。
 だから本当はこのまま宝石箱にしまっておきたい気持ちなのですが、このところのござさんのアーティストとしての進化がすさまじく、これから長く活動するであろうことを確信したため… さらに、新規のファンが増えているだろうことや、コロナ禍中のコンサート受容史として記録しておいたほうがいいかも知れないことを考え、noteに公開することにしました。
 そんな思い入れがあることと、時間が経っていることもあり、厳密な記録とは言えないものであることをご了承ください。


アネモネで囲んでみました

0 承前

 この日2022年1月15日は間違いなくエポックメイキングな日だっただろうけれど、歴史は断片じゃないから、ござさんにとっては昨日だってそれまでだって、日々ドラマがあっただろうと考えると、この日だけをことさらに取り上げるのはもしかして筋違いかも知れない。
 でも少なくともわたしにとって、この日2022年1月15日の特に昼の部は、記念すべきコンサートでかけがえのない宝物だ。

 ござさんの「EnVision」発売に伴うソロコンサートの告知に興奮し、1も2もなくチケット予約したわたしだったが、コンサートが近づくにつれ緊張もしていた。何しろコロナ禍以来リモートワークに慣れすぎて、職場と自宅の往復が主となり、実家にすらリアルでは帰っていなかったのだ(FaceTimeで顔を見合わせていたが)。
 コンサートから帰って来てから使う検査キットを購入し、まずはコンサート前に罹患しないように、とそればかり考えて(今から考えればおかしなことかも知れないが、当時は大真面目)、マスクは二重、休日もほとんど引きこもって備えていた。
 そのくらい、どうしてもどうしてもリアルのござさんの生のピアノを聴きたかったし、何より大きなホールでの初ソロライブを気持ちよく体感していただきたかった。
 …というのも、当のござさんは蠍座らしく「(有人コンサートに来る)ファンが本当にいるのかどうか」ということまで心配のご様子だったから。…そう、疑っているというより、心配で仕方がないということなのだ。心配だから過度な期待をしないようにと努めて自制した結果、「ファンはいないかも」と思うようにしていたのだろう。
 もちろんその前段階として2021年5月3日に「ござの日」として開催されるはずだったコンサートが、コロナ禍により無観客に切り替えられたという事情がある。
 プロデビューまもなくコロナ禍を迎え、なかなか有観客コンサートにこぎつけられなかったござさんにこそ「ファンはいっぱい実在してるよ!しかも熱烈な!」と伝えたい気持ちがあった。…いや伝えねば!という謎の使命感すら抱いていた。

 一方、職業上、あるいはご家庭の都合でコンサートに行けない人の静かな悲しみもまた、あのときのTwitterには漂っていた。だから2022年1月当時は、コンサートへの参加の可否をTwitterに書きこむこともあまりしなかったと思う。
 今回は行かない、と決めた人にも尊敬の念を抱いた。その人の決断はきっと正しいからだ。当時、新型コロナウイルス株のことはまだよくわからないことが多いながら、あの冬は一時収束を見せていたと記憶する。しかし病床が逼迫した一時期もあり、亡くなった芸能人の報道もあって慎重に行動せざるを得ない社会状況だった。そんな中で「行かない」と決めた人の決断は、自分と自分の大事な人を守る決断だったはずだ。
 夜の部は配信があったから、誰もが分け隔てなくござさんの音楽に触れられるのが救いだった。

 この感染症蔓延の世界線で、だからこそ多くの人が「あの」ござさんを見たい、音を聴きたいと切に願い、浜離宮朝日ホールに集う…そんな、なんだかまれにみるコロナ禍のコンサートだったのだから、思い出すだけで涙が出そうになるというものだ。

1 コンサート前日まで

 コンサート直前(多分1週間くらい前)に告知された「プレゼント受付」についても、Twitter上では人目を憚っていたものの、ずいぶん考え込んだ。ピアニストに差し上げるプレゼントとして何がふさわしいのか全然思いつかなかったからだ。
 でも、gaoさんが配信中に話された(2022年1月12日)ことを、いりすさんが呟いてくださったことは、わたしに大きな影響を与えた。

ライブ2日前、🐘さんのサブアカにて。

 ちょうどそのとき、わたしはござさんのファンアートで小ロットのグッズを作るという作業をしていた時期だった。Twitter上で「こんなグッズ欲しい!」と生まれて初めて言われたからだ。わたしにとっても、初めて三昧のコンサートだったわけだ。悩んだ末、結局そのグッズをござさんへのプレゼントにした。これはまあ時効だろうから、備忘録として書いておく。
 さらに、ファンの間にスタンド花の連絡が回ってきたことも特筆しておく。それぞれが、それぞれの思うやり方で、1/15に向けてござさん応援の気持ちを表そうとしていた。

アルバム『EnVision』発売が決まった頃から、イラスト描くのが増えました。これは初めてござさんのお顔を描いたもの。

 全国から、浜離宮朝日ホールに集結する足音が聞こえるような当日、わたしも、ネロが憧れのラファエロの絵画の前に一瞬立つような眩しい気分でプレゼントを包み、久しぶりの東京に発った。 
 当日の朝、仙台駅も東北新幹線もガラガラで、こんなに人のいない新幹線に初めて乗ったと思った。ドキドキし過ぎて東京まではあっという間。会場は、築地に近い浜離宮朝日ホール。そんなに大きくはないが素晴らしいホールだという前情報だけは入れていた。
 長い階段と長いエスカレーターを上る列の一人となる。これがみんな、ござさんのファンなんだなぁ…と感極まる。みなさま遠慮して言葉少なながら、ござさんへの期待がバルーンのように張り切った顔で、それぞれ待ち時間を過ごしている。

 わたしも、はやる心を抑えながら会場に着き、大好きなアーティストへのプレゼントを指定の箱に入れた。憧れのピアニストにプレゼントが届くなんて、過呼吸になるほど緊張するものだ。リボン結びが曲がっていないか、カードは入れたか、自分のアカウント名は書いたか、念のため確認した。
 そこからも引っ込み思案のわたしにとっては緊張が続いた。何人か、Twitterでやりとりのある方にお会いした。むろんみなさん初めてお会いする方々なので、本当に会えるものなのか心配だったが、お互いに気持ちよくお話できる方ばかりでほっとした。「わー○○さんっているんだー」という気持ちは、結局のところござさんに対する気持ちと同じであり、ござさんがファンに対して思っているのとそう大差ないだろう。
 わたし自身もわたしの絵が好きだと言ってくださる方に初めてお会いしたコンサートなのだった。みなさん時節柄ほとんど話をせず、静かにそれぞれの気持ちをもってコンサートの開始を待っている、そんな雰囲気であった。

1 会場のようす

スタンド花を見ただけで感無量…

 さて、そんなこんなで静かに浜離宮朝日ホールに入る。男性客もたくさんいらしていて、それがとてもよかった。ござさんの幅広いファン層に触れた気がする客席だった。若い方もいたし、お着物の方も2人はお見かけしたがファンも気持ちが入っているのがよくわかり、こちらもニコニコになる客席だった。もちろんグリーン率は高い。わたしも、さみどり色の入ったセーターで行った。2023年24年は緑色がトレンドだからたくさんの緑が街にあふれているが、その時は緑色が流行っていたわけではなかったから、会場に集う様々な緑色、その一つひとつはそれぞれが探し出した心入れのみどりなのだ。

 さて、浜離宮朝日ホール。クラシック向けのホールだからなのか、客入れSE(曲)はなし。ホール内は電波抑制されていてTwitterなどできないので、スマホを見ることなく静かにそのときを待つ人々。会場はそこはかとなく緊張感に満ち、シーーンとしている。それまで色々なコンサートに行ったが、あんなシーンとした待ち時間は初めてだった。コロナが、というよりも楽屋にいらっしゃるだろうござさんの緊張感をそのまま共有するような時間だった。祈るような気持ちと、(ほとんどの人は)初めてござさんに会える緊張と、それ以上に期待が満ち溢れていたのだとおもう。いい雰囲気ながら、緊張マックスの中、2ベルが鳴る…

2  ござさん登場

 その緊張感の中、ついにござさんが登場。長い長い長い、割れんばかりの拍手の渦。ござさんがびっくりした顔をして、それから嬉しそうにされているのを拝見しただけでもう、「ここに来た甲斐があった」と思った。アーティストが入場しただけであんなに割れんばかりの拍手…それは本当にいろいろな思いのこもった出迎えの挨拶なのだった。待ってたよ、長かったね、がんばって、っていろんな気持ちのこもった拍手。声の出せない現状でもどうにか心を伝えようとする観客の、民度と誠実さだと思う。
 それに対してござさんは二階席まで深々と素朴なお辞儀を何度も何度もしていた。全然洒落てない、素朴で律儀なお辞儀。そんなとこにも心打たれた。

 この日の衣装はベージュの、襟の前立がワインのツートンになっているてろんとしたシャツに、ベージュの綿っぽいパンツ。インナーもベージュでワントーンのおしゃれスタイル。羽織っていたのはグレージュのてろんとしたロングジャケットで、後ろでリボン結びにしてある。椅子に腰掛ける時、長い裾をファサッと後ろに流して座り、それから弾き始めたことを覚えている。昼の部は、夜の部に比べるとヘアアイロンがもうちょっとウェービーな感じだった。

夜の部のMCから。もう息が上がるほどの緊張感の中、手をぎゅっとして一生懸命ファンに説明するござさんの姿にうたれた。

 ところで昼の部はちょっとしたハプニングからスタートした。ピアノの後ろにござさん用のマイクスタンドがあったのだが、ござさんはピアノの前に座るより早くスタンドに向かって、寝ていたペットボトルを立てたのだった。ストローを刺したペットボトルが「こぼれないもの」と思ったスタッフさんがペットボトルを寝せて置いていたようで、ストローからつつつつ…と水が漏れていたのだそうだ。
 「うわーーーーびっくりしたーーーー」的な慌て加減のMCからスタートし、その説明で、いきなり場がほぐれた昼の部は、ござさんご自身の緊張もさることながら2ベルまでの観客の緊張感もかき消す効果があった(もちろんペットボトルはスタッフさんが替え、拭いてました。会場の板が濡れなくてよかった)。
 すごいのは、その後の楽曲が全て完全暗譜の完璧な演奏であり、ござさんの思いの丈を伝えるに充分だったことである。…ハプニングを強みに変える、ござさんらしい一コマであったし、ペットボトルを置いたスタッフさんは気が気でなかったと思うが、コンサートの成功に胸を撫で下ろしたのではないだろうか。

3 セットリスト(夜の部と同じ)

 一応セットリストなるものを書き記すが、1曲1曲の感想は当時は書いていないため、曲の紹介と短い感想に留める。

0 華麗なイントロ
  イントロを聴いただけで涙腺崩壊するほどの美しさ。
1 清新の風
  初の有人コンサートの1曲目にふさわしい広がりのある曲。ともかく丁寧に丁寧に弾いていらしたのが印象的だった。聴いていて本当に心地よく、…それなのに感極まって泣いてしまった。でもそれはわたしだけではなく、かなりの方が泣きながら聴いていたと思う。MCは下手側に立ったまま、結構長め。
2  シチリアーノ
3 海の見える街
  この2曲は跳ねるリズムにござさんらしさが溢れる楽曲で、このコンサートの序盤にこれらを持ってくるところにござさんの本気を感じた。特にヨーロッパの硬質な石畳を感じる海の見える街はアルバムでは2台ピアノだったはず…!これが一番の難曲だと配信の中でおっしゃっていたのではなかっただろうか。
4  アネモネ
  生のアネモネ、泣きながら聴いていた。アネモネってまず最初の一音に不思議な魅力があって、安らぎと生きる喜びを感じてどうしても泣いてしまうのだ。

  昼は1曲1曲でMCを入れていたからどこでかは定かでないが、ロングジャケの裾を直すと見せかけてポケットからリングメモを取り出し、「自然な流れでカンペ出しますけども」とMCをしていた。鍵盤を拭いていたハンカチは紺のチェック。
5  ショパン「Impromptu in A flat major. Op.29」
  アレンジも曲のジャンルも幅広『EnVision』であるが、クラシックがやや不足すると判断したのかどうか、夢のように美しいクラシック曲を。
6  All The Things You Are
     ござさんらしい軽やかなジャズ。いきいきと弾いていらしてよかった。
7  花
8  どんなときも。
  この曲には特別な思い入れがある。曲に入り込むように弾いているござさんの姿に「消えたいくらい辛い気持ち抱えていても鏡の前笑ってみる」の歌詞が被り、美しく複雑な和音に揺られながら心地よく泣いた。
9  月のワルツ
  アルバムよりもややスローにして、ジャズワルツのアクセントを充分に聴かせるアレンジ。ござアレンジのマジックに酔いしれる1曲。
10 葛飾ラプソディー
11 夕さり
  多分この回の「夕さり」は厳かさのあるアレンジだったと思う。即興っぽいところがあるから、会場の雰囲気を察してそういうアレンジになったのだと思う。
12 secret base〜君がくれたもの〜
13 Danny Boy
  昼の部もだが、この時の夜の部のDanny Boyは本当に心を打つダニボだった。昼の部の感想ではないけれどどうしても書き記したいことだ。

 1曲として気を抜かず練習に練習を重ねてきたであろうコンサート。夕さりから後ろは感極まってずっと泣いていた気がするが、それはわたしだけではなく多くの人がハンカチを目にあて啜り泣きながらこのコンサートを聴いていて、ござさんのあの耳には、啜り泣く声がきっと届いていたはずだと思っている。観客に呼応するように持てる力を全て出し切って弾いてくださったのがよくわかったから…
 コロナ禍で声を出すのは控えざるを得ない状況だったあのとき、最後いの一番にスタオベしたらござさんと目が合った気がする… きっとわたしたちみんなの気持ちがござさんに感応していたのだと信じている。

 それにしても、ござさんはどんなにか緊張しただろう… 昼の部は、前半からけっこう飛ばしてた感があった。いや、配分は考えていたはずであるが、心地よいホールでよく響くスタインウェイだったから、気持ちよくってガンガン弾けちゃったのだと想像する。そのせいか、夜の部の最後はもう死力を尽くしてる感じがしたが、そんな一生懸命で初々しさのあるコンサートで、だからこそあの1日は尊いのだ。

 アルバム『EnVision』を聴き込んだわたしたちファンを楽しませるかのような、明らかな進化を見せた本コンサート。イントロ、パッセージまで存在感があって、全身でピアノを弾く姿からダイナミクスコントロールがすごいし、細部までこだわった曲づくりを感じた。
 一方、メモを見ながらのMC(カンペは、昼夜とも公平にお話できるようにという、ござさんの配慮だと思ってる)や水を飲む姿にはござさんの愛嬌が溢れていて、客席とのやりとりもあって好ましかった。昼は3曲4曲続けて弾いたから「続けて弾くので、お辞儀はしませんけどすみません」とござさんらしい気遣いし過ぎの前置きも「うふふ…」という感じ。好意のやりとりというか、非常にポジティブなオーラの、コールアンドレスポンス。心地よい空間だった。
 昼の部は立ってのMCだったから、途中片脚に重心かけた立ち方になり即座に「態度が悪くてごめんなさいね」と謝ったり、MCの最中どんどん下手側に寄っていくのに自分で気がつき、「あっ、真ん中で(話さないと不公平)…… あっ、座ります!」ってなったり、そんな姿も彼らしく、同時に教育が行き届いてる感じがした。夜は都度MC入れたのは、曲ごとに拍手をしたい観客のためにではないだろうか。

 ところで昼の部のMCについては夜の部とほとんど同じだったのだが、少しだけ言い回しが違っていたところがあるがここでは触れない。言えるのは、生のござさんがとても緊張しながらも観客やスタッフや自分の運命というものに感謝をしているのがすごくよく伝わってきたということ。   
 GAOさんの披露してくださったエピソードもそうなのだが、周囲への感謝を忘れない礼節の人、というござさんへの第一印象は今も続いている。だから、そういうのをすっぱ抜くようなことはわたしは好まないし、その内容はあまり重要ではないと思う。
 何度も何度も、何度も深いお辞儀をしていたことが、すべてだと思う。

4  最後に

 これが2022年1月15日にわたしが体験した、ござ「EnVision」コンサート(昼の部)の記録だ。夜の部は配信もアーカイブもあったため、きっと多くの方がご覧になり記憶に留めていらっしゃるはずなので、楽曲一つ一つについては触れず、当日の会場やござさんの様子を中心に書き記しておいたものだ。
 同時にこれはコロナ禍でのコンサート受容史でもあるのではないだろうか。アーティストも観客も、話さず声を出さずに心を通じ合わせるコンサートができた…そんな記録としてお読みいただけたら幸いである。

 あれから2年以上が経ち、この春2024年5月1日に、ござさんは2枚目のアルバム『Fantasia』の発売を控え、そのお披露目のコンサートも決まっている。わたしはといえば相変わらずござさんのファンであるが、仕事が激変しイラストを描くのも文章を書くのも困難になってきている。だから、果たしてこの記事のような記録が取れるかどうかは怪しいのだが、少しでもござさんの『Fantasia』の応援になればと思い、改めて当時の記事を編集したものである。
 ござさんの益々のご活躍を祈りつつ、稿を閉じたい。

大好きな手。健康を大事に、いつまでも楽しくピアノを弾いていただきたいです。

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