Summer Piano Junctionの感想文(ござさん中心)
これは、2023年7月23日。初台オペラシティホール「Summer Piano Junction」(菊池亮太さん、ござさん、瀬戸一王さん、米津真浩さん、ぶどうさんご出演)を聴きに行ってきた個人的感想文です。
わたしは音楽関係者でもピアノ実演奏者でもない、音楽の好きな一般人であり、まったくの個人的趣味で記事を書いています。少しでも現地の空気感をお伝えできればと思ってはいるのですが、わたし個人がござさんの重篤なファンであることと、特にクラシックの知識が皆無であるため、全ての曲目について記述するのは無理だと判断しました(ERAちゃんのキャスを聴いている方はお分かりだと思うのですが謙遜ではなく事実なの)。
そのため自分がいくらか語ることのある曲目についてのみ書いておりますこと、どうぞご寛恕いただきたく思います。また間違い等がありましたら優しくご指摘いただけますと幸いです。
長い文章ですので、必要がないと思われる方は次の「目次」から読みたいところに飛んで、そこだけお読みください。
1 オペラシティコンサートホール
初台「オペラシティ コンサートホール」。クラシックに馴染みにないわたしでもその名前だけは聴いたことのある音響にこだわりのあるホール。直前にも、界隈でお馴染みのピアニストさんも弾いていらした。
コンサートのことを書く前に私事だが書いておきたいことがある。
コンサート前日、かねて闘病中だったわたしの職場の同僚がとうとう昏睡状態となった、と彼女のお父さんから連絡をもらった。わたしよりずっと若い同僚の危機に急ぎ見舞いに行くと、昏睡からちょうど目覚めた彼女と少し話をすることができた。彼女は自分の状態を掴みかねていた。賢明な彼女には見たことのない、あっちとこっちを行き来しているようなふわふわした思考と口ぶり…その彼女を無理やり此岸に引きずり戻すように明るく声をかけると、彼女のシナプスも繋がったような十数分があった。
「全然記憶がないんですよ…ずっと看護師さんたちがなんかしていたのに」と自分の状況を語って、ふと「ここにゆうかげさんと自分だけみたいな気がする」…
そんな生と死の間を行き来するひとの言葉を噛み締めながら、それでもコンサート会場に向かう。わたし自身がよりよく生きるために、どうしても必要なものがある…と自分に言い聞かせながら。
木の温もりのあるコンサートホールの高い天井を眺めながら、芸術というものの美と陶酔が一瞬であることをわたしは思う。このコンサートは配信もないから、本当にほんのいっとき。いや、芸術は形として残りうるから、人の命のほうがいっときなのかもしれない。そのわずかな一生のうちに、ひとは確かに誰かを繋ぎ、誰かを思う。ライブ芸術が一瞬の煌めきであったとしても、やっぱりアーティストも、何かを思い、誰かを励まし誰かを繋いで永遠の美を生み出すのだけれど、ひとがそれに立ち会えるのは僅かな時間に過ぎない。それは短い此岸のなかの美しいひとときで、実にかけがえがないひとときなのだ。
今日は(いつもだけど)精一杯ござさんの音を浴びたいなぁと考えながら一期一会の開幕を待つ。
2 ぶどうさん
こんな大見出しをつけても、語れることがほんの僅かで申し訳ない… 印象だけで書くのをお許しいただきたい。
オープニングピアニストとして颯爽とぶどうさん登場。白のフリルにスパンコールがキラキラの優雅なシャツ、整った顔にかかるウェーブの長い髪はハーフアップ。黒のパンツ。身長もあって見栄えのするピアニストさん、わたしは初見。ホールの音の良さをトークで熱く語った(全く同感)あと、英雄ポロネーズ。
そもそもオープニングアクトは、大御所が出演する前に場をほぐす意味と照明や音響やステージングのあたためという意味があると思うが、ぶどうさんの緊張が初々しくて音楽の神様もほっこりされたのでは?という気がする。加えて「Junction」(接合点)という今回のコンサートの意味から考えると、ややポップスによりがちな出演者に、もう1人クラシックの演奏者を加えてバランスを取ったのかもしれない。
いずれにしても、あまり会場からは宣伝されなかった?このコンサートだけれど、主催者様が実力者を集めて力を入れて取り組んでいる強い思いが伝わってくる布陣だと思う。そしてその意図は当たったと言える。
ぶどうさん、トークは緊張が感じられたけれど、下手側のピアノの前に座ると背の高さと腕の長さもあってか、音の伸びの良さが感じられる演奏だった。天井の反響板のことについては写真のキャプションにも書いたが、高い天井の9枚の正方形が組み合わされた反響板から、キラキラした音が降ってくるような跳ね返りの良さ。その音をいの一番に浴びるかのように、上を見ながら表情豊かに弾いていた姿が印象的だった。
続いて「献呈」。夏=Love、ということで!とトークで語っていたが、その明るくて豪快そうなトークと相反するように、弾く前にポケットからハンカチを取り出し、手の汗を拭う仕草は繊細そのものだと思った。開口一番は緊張するだろうなあ…
ダウンライトがすうっと降りる先で、ピアノを弾くぶどうさん。音が立ち昇るのが見えるような素晴らしい絵面だったので、恒例のブレブレの暗闇メモを置いておく。
3 米津真浩さん
ここで、米津真浩さん登場。手にはiPadを持って、上手側のピアノの譜面台に置くと、上手側でトーク。
ご自分のデビューがこのコンサートホールだったので感無量だということや、Youtube配信者としては駆け出しだけど、クラシックもいいなと思っていただければ…というお話を、流れるようにされていた。ピアノを教え、配信の中で悩み相談を受け、Youtubeも週3でアップとな?!(筆者注:しかもコンサートの晩に振り返り配信までしていて拝見したけど、バイタリティがあるんだな〜とその八面六臂の活躍にびっくりした)イケメンで愛嬌があり、黒のシュッとしたスーツと、キリリとしたシャツがお似合いだった。
ぶどうさんと米津さん2人でコラボしたラフマニノフのピアノ協奏曲第2番については、米津さんのYoutubeに動画がアップされているので、そちらをどうぞ。米津さんはあまり大柄でないものの、ダイナミクスコントロールが効いていて、華やかで迫力ある低音を出されるのに驚いた。ペダルワークなのかどうか、ぶどうさんはキレがあり、米津さんは余韻を曳くタッチで、全然違うんだなあと思って聴いていた(わかんない)。
ぶどうさんが舞台を去り、米津さんは続けて
・スクリャービン 練習曲作品8−12
・ショパン ノクターン第2楽章
・ショパン スケルツォ2
・ドゥーセ ショピナータ
を演奏されたけれど、語れるものがなくて申し訳ない… Twitter(と言い続ける)等で有識者のかたが語っておられるのでそちらをご覧いただければ…(弱気)
ぶどうさんのときは長い腕が印象的だったけど、米津さんはそこを体全体で弾くことで補っているのだろうなあと思う身体の使い方が印象に残った。
音の減衰が少ないように感じたのはペダルワークなのだろうか。とても響きがいいホールだったので、結構音が残って興味深かった。
それから、米津さんにピアノをお習いしていると聞いた、有名なジャーナリストさんも客席においでだったことを付け加えておこう。米津さんはもちろん、ござさんも見てくださったであろうことがうれしい。
4 瀬戸一王さん
米津さんが舞台を去り、代わって瀬戸一王さんが登場。
瀬戸さんは真っ黒のシャツに真っ黒のパンツ。もともとスリムなのにさらに絞られて、手足の長さが際立つようなスタイル。トークもそこそこに下手のピアノに座ると、いきなりゲーム音楽メドレー。ERAちゃんのキャスでこの辺り興奮気味に語られているのでぜひお聞きあれ!(合言葉は、その後を引き継いだゆうかげキャスと共に我らが推しの誕生日4桁で統一してます)
瀬戸さん、最初のトークで「Junction」の意味の話をしていらした。接合点という意味づけの中で自分の位置を確認するような選曲にした、と言って始めたゲーム音楽メドレー。それが本当に素晴らしかった!俺はこれでいく!という宣言のような、アイデンティティの言挙げのような、そんな17〜18曲で、持ち時間ほとんど使っていた。
選曲については、ゲーム音楽に全然通じていないわたしは本当の有名曲しかわからなかったが、ともかく迫力と勢いがすごい。おそらく弾き方やペダルに工夫があるはずだが、どうピアノを弾いてるかまったくわからないほどの音数と音圧。
権利関係を気にしないでもいいという気楽さと、やっぱりこのホールの響きの良さに、満足しながら弾いていたのではないかという気がする。ノってきた感じがありありとあって、キレキレな演奏だった。
ところで瀬戸さん、その後ネピサマにもご出演し、そこでもゲームメドレーをたっぷり弾かれたので、Junctionで見られなかった分まじまじと見た。ともかく指も腕もリーチが長くて、ござさんとは違う見どころがあった。姿勢もシュッとしていて、弾く指が美しい。
さらに瀬戸さんはネピサマの振り返り配信でたくさん面白いことを語っていた。コード進行の美しさに惹かれることやスケールの面白さ。ゲームメドレーはある場面でループして使われることもあるから、「解決」しない曲もあるという話には、ああ!と膝を打った。そうかそれかぁ… 知らないことが多いわたしにとってとてもためになった。
瀬戸さんは理系なので、理論的なこと、コード進行やスケールに含まれた曲の意味(真意)を読み解く知的な面白みも含めてゲーム音楽が好きなんだろう。きっと料理も知的に合理的に作られているんだろうな…
Junctionに戻る。素晴らしいゲーム音楽メドレーを弾き終わり、「せっかくなのでこの方と一緒にコラボしたいと思います」と瀬戸さんに呼ばれて、ついに我らがござさんが登場!
ご「すごい大作でしたね!」とおっしゃるござさんもニコニコ嬉しそう。袖でウキウキ聴いていたんだろうなあというような素直な感想。
ご「コラボする曲は昨日急に決まりまして」
瀬「ござさんが僕の趣味に合わせてくださって」
ご「ダイヤモンドパールから シロナ戦です」
という2人の掛け合いに、思わず観客もどよめく。わたしはわたしで「コロブチカ」かなあと思っていたから驚きを隠せない。
2020年9月13日の事務員Gさんの配信(下にリンク済み)で、初音合わせで完璧な演奏を見せた2人の、お互いへのリスペクトと信頼感が現われた選曲だと思った。
(この配信前後における、ござさんのトイピアノ使いこなしの天才性よ…音の減衰やリバーブまで使いこなした音色遊び!なんか歌っちゃうのも最高だし、楽しそうな笑い声聞いてるだけで幸せでご飯いけます)
シロナ戦。キャスの中でうみいぬ(@2JK1sy491yvLmRL)さんが思い出して言っていたように、上記配信の中でござさんは「ゲーム曲を合わせるには2人がすごい精度で覚えていないと」と仰っていた。
本当にその言葉のままの演奏で、2台の音の密度がすごい。いや、密度とまとめてはいけないのは、それぞれの役割の音の疎密が完璧に組み合わされているのを感じたからで、それが「精度」ということなのだろう。磨き上げられた木組みの「継手」を組み合わせるかのようなキッチリした構成の中で、それぞれが役割を果たしている、ハイレベルな演奏で、本当に素晴らしかった!
瀬戸さんの1人でもメインを張れる演奏に、ござさんが原曲の電子ピアノパートの豊かな装飾音を乗せて、ユニゾンになり裏メロになり、少しキレキレの跳ねる音が組み合わさって、世界観に奥行きがあって本当に素晴らしかった!
わたしはねぴふぁびのときのコロブチカも好きだったけど、ゲーム使用楽曲ではあるもののあれは珠玉のござアレンジだったから、瀬戸さんがこだわったと思える「接合点」として「シロナ戦」という選曲が出てきたんだと思った。そのくらい、瀬戸さんの楽しげな輝いた音の粒が立っていた。これを提案したのは2人のうちのどちらかなのか、事務員Gさんなのか(絶賛してらしたから)わからないけれど、GJだった!
しかも曲に入る前、瀬戸さんが「気が付いたんですけど、靴が同じなんですよね」と足を揃えて見せてくれたの嬉しかったなぁ。Twitterの写真にも載せてくれて感謝しかない。
5 ござさん
(1)ござさんソロ「軽めの夏メドレー」
休憩後、再び三方に深いお辞儀をしてござさん登場。
改めてお衣装確認すると、ござさんは5月の「ござの日」に着ていらした、襟にビジューが一列に並んだ黒の細身のスーツに、青のチーフを入れたおしゃれスタイル(事務員Gさんありがとうございます!)。白Tもお似合いで7月のコンサート組みに備えて襟足を短くしてすっきりした髪も夏らしくてよかった。
ござさん下手ピアノに座り、すぐ演奏。「茶摘み」から。まるでいつものござさんの生配信のスタートの軽いジャズの雰囲気。1周目、和音が軽やかでおしゃれな茶摘みから2周目転調し、かわいらしくコロコロと転がるようなトリル。そこにしのばせる「summer」+「茶摘み」。前半と会場の空気が入れ替わるのがわかる。
そこに「green tea farm」。後で気がついたけれど「お茶→お茶」の流れだったのね。この後のトークで「軽いお茶受けのようなメドレー」と言っていたのがこのこと。さらに「炭坑節」が混じってまた「summer」「炭坑節」をジャズで。
こういう、隠れテーマみたいなものを持った演奏スタイルは、吹奏楽部時代からジャズバンド時代まで、自分たちで選曲をしてきたところに由来するのかもしれないなと想像する。純粋に「音楽」のことだけ考えているアーティスト目線を感じるセトリというところに新鮮味がある。広告主や新譜発売タイアップなどでセトリが狭まったりすることがない、この自由さ、軽やかさ、創造性。ああ好き。
(2)ござさんソロ「JAZZメドレー」
トークの開口一番「いやービビりました!」笑
それまでの演奏のガチ具合を、袖で聴きながら、自分はライブの流れ上、軽めスタートがいいな、という判断だったのだろう。
オペラシティの豪華なホールで、自分の持ち曲のうち一番エモい一番「映え」る曲を弾きたい!というのはアーティストなら当然考えると思うのだが、ござさんはどんなホールでも「自分が弾きたい曲」より「観客が聴きたいだろう曲」を弾くというスタイルを変えない。加えて、こういう軽やかなメドレーを持ってくるお茶目さ。
次の曲もJAZZと言いながら「なに弾こっかなー」とピアノに向かう。初めてみた方はきっと驚くだろうなあと思いながらニマニマ見守っていると、華麗なリフからジャズメドレーが始まった。
1周目「My favorite things」右手が自由に遊ぶ感じからウォーキングベースがビーンと響いてくる心地よいサウンドのバランス!2周目が「Fly me to the moon」、右手の高いところでのアドリブがめちゃくちゃかっこよくて天井に軽やかに音が登っていくみたい。3周目にはなんと「津軽海峡冬景色」!出た笑!右手のメロディの利き具合を確かめているみたいに左手も対位的作曲法だったかな?記録違いかもしれない…(メモが読めない)突然の冬のど演歌ジャズに、会場がうふふ…という抑えた笑いに包まれる。耳のよいござさんにも当然届いているだろうこの観客の反応こそが、ござさんの愛され具合を示している。
ウォーキングベースのテンポをぐっと落として(難!)マイフェバとフライミーを振り返り。後奏まで「ござベース」が止まらなかったのはエモかった。
(3)ござさんソロ「映画音楽メドレー」
最後は「映画音楽メドレーです」と言ってスタート。
既に何度も書いているように、このホールは非常に音の反響がいいホールで、隣の人がメガネをすちゃっ、と上げる音すら響くほどのホールだ。だから…かはわからないけれど、この映画音楽メドレーのイントロも「Terminator」のデデンデンデデン!を通奏低音にして、それを伏線に全ての楽曲がつながっているメドレーだった。
このデデンデンデデン!に導かれて、勝浦、初台と来たわけだが、この通奏低音は次のFUJIROCK、ネピサマ2023へも引き継がれる、いわばデロリアン(笑)…
「He’s a Pirate(パイレーツオブカリビアン)」「Part of your world」「ロッキーのテーマ」「キャラバンの到着」「My favorite things」「Another day of sun(ラ・ラ・ランド)」「Over the Raibow」「I will always love you(ボディガード)」「Terminator」「Raiders March(レイダースのテーマ)」「Flying Theme(E.T.のテーマ)」「Hedwig’s Theme(ハリーポッター)」「STAR WARSメインテーマ」…
叙情たっぷりの前半、後半のJ.ウイリアムズメドレーとも、老若男女問わず、きっと誰もが一度は聞いたことがある有名曲ばかり…しかも名曲揃い。うっとりするほどのつなぎで、まるで最初からそういう曲だったかのように、高い天井にござさんの美しい音が響いていく。ござさんは、まるでその上っていく音符たちが天使か何かでもあるかのように、それを見送る顔で心地良さそうに弾いてらした。
それを見ながら、わたしはというと、このメドレーの後半のJ.ウイリアムメドレーから、なんだか宇宙にたゆたっているような不思議な気持ちになっていた。曲の編成も壮大な上、なにせ美しい音がキラキラ✨舞い降りてくる夢のようなホールなのだ。キャスの中で「どんなに小さい音も拾って増幅する装置」とこのホールのことを言ったけれど、もうちょっと言うと「自分宛」に音が調整されて降ってくるものだから、どうも内省に向いている気がしてならない。内的思考も増幅される装置のようで、わたしは昨日同僚に言われた言葉が思い出されて仕方なかった。
「ここにゆうかげさんと自分だけみたいな気がする」
生きる焦点が狭まって、点と点の僅かなつながりになっていた命の終わりに、わたしができることはあっただろうか。少しでも生きる支えになるような、少しでも大きい点を、わたしは準備できていただろうかと反省することが多かったが、あの言葉は、彼岸と此岸を行き来する彼女の、最後の優しさだったんじゃないか。…
そう思ったら、もうござさんのピアノの中で泣くしかなかった。とんでもないホールでとんでもない音楽を聴き、わたしは心の整理をつけていた。…
しかしそのカタルシスだけでは終わらないのがござさんメドレーのすごいところだった。
「20世紀FOXオープニングファンファーレ」が鳴り、ああ…終わった…と思ったところに静かな間をおいて響く「ニューシネマパラダイスのテーマ」!!!
そうなのだ… あの大宇宙を感じさせる壮大なJ. ウイリアムスメドレー、あれですら、いわば「映画の中のこと」という入れ子構造の曲組みなのだ。映画を見ているときは映画に夢中で、そこで一定のカタルシスを感じる。しかし映画館が明るくなったときそこに優しく微笑む人がいる現実が確かにあって人生は続いていくのだ。それが人生…
ござさんの「ニューシネマパラダイス」は、そんな、続いていく人生を優しく後押ししてくれる凛とした強さを感じさせる。石井琢磨さんがあれほど海外でも弾いてくださっているのも、世界に共通する音楽の力があるからではないだろうか。文化や美に枯渇する人々に楽しくワクワクする映画を準備して心を浄化させ、その上で人生を肯定してくれているみたいに。
こう考えたとき、映画メドレーの最後に付け加えられる優しい「ニューシネマパラダイス」の入れ子構造の意味がわかった気がした。
組曲だ! 「ござ映画音楽組曲」なんだ…
…コンサート1週間後の日曜日、友人は静かに息を引き取った。わたしは葬儀の手伝いやら弔辞を準備したりやらバタバタ走り回ったが後悔はなかった。音楽に救われることがある、そんな話である。
(4)ござさん&菊池亮太さん「ファランドール」
ここでござさんが菊池さんを呼んでコラボ。菊池さん、ここまで2時間お待ちかね。駆けつけ1曲がござさんとのコラボとはすぐに体が温まりそう。ござさんは上手ピアノ、菊池さんが下手ピアノでビゼーの組曲「アルルの女」から「ファランドール」を。
「ファランドール」は2023年1月の「ねぴふぁび」でも(多分他でも)弾いた1曲。
ただ普通のファランドールでは終わらないところがこの2人のすごいところ。多分アドリブで別のクラシック曲(「熊蜂の飛行」とか)を1人が入れれば即座に相手が対応、ファランドールを弾きながら別の即興対応しているにも関わらず、あの有名なキメが完璧に揃っているのがともかくすごい。
③で「追いかけっこ」と書いているのは、セカンドがずっとベース音を保持している間にプリモが四連符のメロディーを弾くところで、あの2人は16小節?でグリッサンドして上下入れ替えるという離れ技をやっていること。菊池さんは床を踏み鳴らしてグルーブ感を盛り上げ素晴らしかった。いいホールでいい音楽を聴くのは(弾いている方も多分)心地よさ感度が抜群すぎる!!!
(メモに「複調」と書いてあるのはよく覚えていない。有識者の方、お願いします!)
なお、2023年8月現在、配信等でござさんのこの高速上下入替が見られるのは、「ねぴふぁび完全版」のジェイコブさんとのコラボの「クレオパトラの夢」だけかも知れない。気になった方はぜひe-plusさままで。
(5)ござさん&菊池亮太さん「everything」
続いてこの2人の2台ピアノの代表的名アレンジ「everything」!これをこのホールで聴けるなんて…と感無量だけれど、このホールでこのアレンジを弾きたかったのは演奏者様も同じかもしれない。キメキメのグルーヴ満載のファランドールの後のこの選曲も最高すぎる…
everything、と言ったそばから出だしは菊池さんの「Amazing Grace」。祈りを感じる美しいイントロに、ござさんがキラキラふりかけをまぶして華麗に。ここからトリル合戦?でキラキラの効果を楽しむよう。
最初はござさんが上。ござさん下のときの和音もエモくて心に響く。菊池さんは途中からラテンのリズムを作って曲調をチェンジ。これは相棒への信頼感がないとできないだろうと思われる。ござさんは常に菊池さんを見ながらノールックの演奏で、耳に全神経を集中しているのが音からも仕草からもよく伝わってくる。この人が聴覚を優位にした時のこの集中したところが好きだ(FUJIROCK公式写真にもそんな1シーンがあった)。
アドリブは菊池さんから。キャスでも言ったように、菊池さんはござさんとのコラボにおいては努めてベースを弾くようにしている気がするのだが、菊池さんがハンドルを握った時の牽引力… 曲調変化にしてもアドリブにしても…は抜群で、むろん音楽的にもだがエンタメ的にも盛り上げてくれるのが菊池さんだと思っている。
それにしても、この2人の「everything」は何度か聴いているが、今回の出来は出色だったと思う。それくらい、菊池さんの大サビのベースがすごくて、わあ…♡と観客が皆引き込まれる音が聞こえるほどだった。ところが、その直後のござ大サビがまた一層素晴らしかったのだ…!こうなると、本当に自分の知識と語彙力のなさが悔しい。
もちろんいつもエモい和音でサビを迎えるということは当然としても、この下の楽譜の矢印部分、ここでいつもはセカンダリードミナントコードから下がっていく?気がするけど、この日は微妙に違うコードから下がった気がする…ルートが違ったのかな?わからない。 誰か解決を…
さらにすごかったのは、このエモ和音の直後のござベース!菊池さんのメロディに裏メロ入れながらのベースが言葉にならないくらい素晴らしかった!語れる語を持たなくて悔しい限りだが、おそらく菊池さんの素晴らしいメロディとここまでの構成に刺激されてのアドリブだったのだと推測する。本当に素晴らしかった。あのまま公式に売ってほしいほどの す ご い ピアノだったということだけはどうしても記しておきたかったので、自分の無知を晒すのを顧みず、ここに記した。有識者の方、お願いします!
6 菊池亮太さんソロ
ござさんが袖にはけて、菊池さんのソロ。トリなので、「非常〜にやりにくい!」と笑いを誘ってから「ムーンリバー」。
ピアノの前に座って、弾き出したイントロは「あの夏へ」笑 そのイントロを数小節弾いてからまたマイクを握り直し「夏っぽいムーンリバーです」
そして弾いたのは、右手があの夏へ、左手がムーンリバーという!そのほかにも色々混ざっていた超絶ムーンリバー。菊池さんも本当にピアノが好きなんだなあと思った。オペラシティという大舞台で、臆せずこうした演奏ができるというのはすごいことだ。
アウトロまであの夏へを菊池混ぜにする凝りよう。
2曲目、自作「パガニーニの主題による変奏曲」
3曲目、ラフマニノフ 絵画的練習曲「音の絵」
を弾いた菊池さん。パガニーニは激しくノリノリで、客席を見て拍手を促すような仕草も見せた。エリーゼのためにやsummer time、ねこふんじゃったが混じる菊池さんらしい変奏曲!fffの壮大な響きも素晴らしかった。…
実はこのとき、舞台袖で米津さん、ぶどうさんに対して「菊池アレンジ」の構成を語っていた(という)ござさん。なんてぜいたくな舞台袖なのだろう。黒子になって、その話逐一聞きたかったなぁ…
米津さんは、「4200曲弾ける?どゆこと?」と語ってらした(笑)。「鼻歌歌えれば、コードは弾けるから基本的に弾ける」などのござ謎伝説や、菊池さんの楽曲を解説していたというお話の一端を、下の配信で副音声としてぜひ。
ここで菊池さんが観客にアンケートをとる。こういうエンタメ性は、菊池さんといい石井琢磨さんといい本当に上手いなあと感心する。しかも勝浦と同じ「挙手制」。これ、クラシックを普段聴かない筆者などには気持ちが切り替わるし主体的に関わることで音楽が「自分事になる」という点でありがたい。その結果はどうあれ、聴者として積極的になるからだ。
選択肢は「オペラ曲がいいか、クラシックがいいか」の2択。結果「オペラ曲多めのクラシックやります!」と言ってクラシックメドレー(オペラ多め)。これについては、当該ホール「オペラシティ」というところを充分に考えての選曲だと推察され、菊池さんのセンスだなと思っている。
多分12〜3曲弾いたんだけど、有名曲しか分からず本当にごめんなさい…
運命、魔王、トッカータとフーガ、ソナチネ、カルメン、トゥーランドット(ってうみいぬ〔@2JK1sy491yvLmRL〕さんが言ってたからそうだと思う)、戦メリ(笑)…など。
7 ベートーヴェン「悲愴ソナタ」第2楽章
菊池さんが舞台袖にはけた後、あらためて5人が登場。ござさんが司会(おつかれさま)で、5人だから二手に分かれる旨の説明。「悲愴組」が菊池さんと米津さん、「革命組」がござさん、瀬戸さん、ぶどうさん。
ご「悲愴組に丸投げしていいですか?」と言ってるのが面白かった。
米津さんが上手ピアノ(セカンド)で「悲愴」を弾いているのに、菊池さんが下手ピアノ(プリモ)で装飾音や内声を美しく。
8 ショパン「革命のエチュード」
「チームレボリューションのみなさん」と米津さんに紹介された3人。
ぶどうさんが下手ピアノ(プリモ)で革命を弾くパターンは、「ねぴふぁび」における石井琢磨さんもそうだったけれど、ぶどうさんは2人のチャチャに負けず、いい音量バランスで弾いていたなあと思った。ござさんは瀬戸さんとの連弾。ござさんはぶどうさんをしっかり見ながら下を弾き、瀬戸さんが上。ござさんと瀬戸さん、顔見合わせつつ弾いてるんだけど、靴も同じだから本当に兄弟みたいで微笑ましかった(曲のことじゃない)。
9 おわりに
今回のコンサートは曲数も多くご出演者の方も多いのに、本当にござさんのことばかり書いてしまい、恐縮している。しかしコンサートを観客の目線から語ることでスタッフ様のご労苦をいたわり、ご出演者様方を称えるという気持ちには嘘偽りのないところである。個人的にいろいろなことはあるけれど、そういう万難を乗り越えていく先に、感動のステージがあるわけだから、わたしも自分の心とからだを大事にしながら、ずっと好きな演奏を聴いて応援していきたいという気持ちでいっぱいだ。
いつもいつもファンの気持ちを汲み取ってくださり素敵なコンサートを工夫してくださるスタッフとご出演のみなさまに心からの感謝を表して、この文章を閉じたい。
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