#35 石窯パン ハル
こんにちは。be-en代表のゆうかです。
蔵元巡り第35弾は、長野県内に2店舗を構える石窯パンハルさんを訪問しました。
お店はご夫婦で経営されていて、奥様の里美さんが製造を、旦那さんは主に経営を担われています。
今回は、製造担当の里美さんに、パン屋を開業された経緯、石窯パンハルが目指すパン作りについてお話を伺いました。
専門性を身につけるために食の道へ
里美さんは、学生時代にライターのアルバイトをされていたご経験があり、その経験を生かして新卒で地元紙の広告媒体を作る会社に入社されました。しかし、もっと専門性のある仕事をしたいとの思いから会社を退職し、昼間はアルバイトをしながらフードコーディネーターのスクールに通われたとのこと。スクール卒業後は都内のベーグルカフェに入社し、アルバイトスタッフのマネージメントや接客、ベーグル工場での製造などを経験されたそうです。
一方、旦那さんは外資系酒類メーカーのレストラン事業部の新規開発に携わっていたことから、経営やマーケティングに興味があり、お店を作りたいという思いがあったそうです。
東京でのベーカリーカフェ経営
そのような背景があり、2003年に東京都豊島区で、ご夫婦でベーカリーカフェをオープンさせました。当初から「おいしくて、元気になる食事」というのがコンセプトでしたが、選ぶ食材やメニューは、マクロビオティックとの出会いをきっかけに変わっていきました。マクロビオティックを実践してみると、旦那さんの肌荒れが改善し、本当に日本人に合った食事とは何か、認識を改めることになったそうです。
マクロビオティックの出会いと同じころ、カフェとして代々木公園で開催されていたアースデイマーケットに出店するようになり、地方の有機農家さんから直接野菜を仕入れるようになりました。有機農家さんには、より良い環境を求めて都会から地方へIターンした人も多く、春野さんご夫妻も東京を離れて、小麦や野菜の産地で地産地消を実現するお店の在り方を模索するようになりました。
長野県で移転オープン
知り合いの農家さんの元を訪ね、移住先を検討した結果、パン屋として地産地消が実現できそうな長野県上田市に、2012年に移住。ベーグルの製造販売に特化した「ベーグル屋ハル」をオープンさせました。
当初は無農薬の地元産小麦は作り手が少なく、手に入らなかったため、畑を借りて無農薬の小麦栽培にもチャレンジされたそうです。しかし、パン屋と農作業の両立は体力的にきつく、無農薬で小麦を栽培してくれる農家さんを探し始めました。
試行錯誤を経て、青木村の自然栽培農家である宮入さんに、小麦栽培を打診。当時宮入さんは、ヤーコンとケールを主に栽培されていましたが、試しに育てた小麦で春野さんがカンパーニュを焼いたところ、宮入さんがその美味しさに感動し、そこから本格的にタッグを組み、さらに地元の農家さんやパン屋さん、お菓子屋さんへと輪を広げる自然小麦の会「KOMUGI365」を設立する運びとなったそうです。
KOMUGI365では、小麦収穫体験やピクニック、マルシェなど様々な活動をされています。小麦は、無農薬栽培自体は無理なくできる作物ですが、収穫や小麦の選別などのために、ある程度の設備投資が必要であり、手間暇もかかるわりに農協の買い取り価格が安いため、栽培する農家さんが減りつつあります。そのため、KOMUGI365では小麦の買い取り価格をオーガニック小麦市場の相場価格に設定し、パン屋さんが農家さんに必要分を伝えて栽培して頂くことで、持続可能な関係性を築いているとのことです。
100年続くパンを作りたい
「石窯パンハル」が目指すのは、100年続くパン。
春野さんは、2019年に、「ベーグル屋ハル」を改め、遠赤外線効果でパンを焼くことができる富士山溶岩窯を導入し「石窯パンハル」にリニューアルさせました。それは、広島の「ブーランジュリードリアン」田村陽至さんの著書「捨てないパン屋」を読んだことで、パン作りの本質について思い至ったことがきっかけだったそうです。
石窯パンハルで製造しているパンは「消化しやすいパン」とのことですが、その秘密はパンを発酵させることでグルテンがある程度分解されるから、とのこと。グルテンは消化器系の不調を引き起こす原因の一つと考えられていますが、そもそも伝統製法のパン作りでは、サワードゥで時間をかけて発酵させることにより、グルテンをある程度分解させグルテンの毒性を弱めていたというのが田村さんの仮説です。里美さんも、さらに資料や論文を読み、分解こそがパンの発酵の意味であり、パン作りの本質だと考えるようになったそうです。また、ドリアンさんの見学を通し、窯の重要性も強く感じたそうです。
石窯パンハルのパン作りで使用している発酵種「サワードゥ」は、有機レーズンで起こした酵母エキスに、ほぼ毎日小麦粉と水を掛け継いで作られています。4年前、上田市が主催し、筑波大学山岳科学センター・菌学研究室と地元の発酵食品に携わる職人さんたちのコラボで「発酵食品の世界講座」が開かれましたが、その時の研究室の調査によると、石窯パンハルのサワードゥ1g中には、酵母菌が1千万個、乳酸菌が6億個いるとのことです。また、市販酵母を使い短時間で発酵させたパンと比較し、ひと晩じっくり発酵させたハルさんのパンは、小麦成分の一部がアミノ酸などに分解されているため、旨味が格段に強くなっています。
地元の小麦を使い、微生物の力を借りて、「発酵」の本質をとらえた、理にかなったパン作りを大切にする里美さん。ぜひ、「発酵食品としてのパン」を召し上がって頂きたいです。
それではまた次の記事でお会いしましょう!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?