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新橋のサラリーマンは蒸留家になれるでしょうか -蒸留所を巡る(開聞山麓香料園/指宿)-

水曜に書こう、は長く続きませんでしたね。

書きたい日に書く、も違う。

朝起きていろいろやっている中で「あ、今日書くか」となった日に書くことにします。ペースは上げます。月に5本くらいのペースじゃないと、半端なインプットがどんどん散らかってきて頭の整理にならないことがわかってきましたので。

お酒をつくらない蒸留所へ

さて、大山甚七商店に続いて人生2度目の蒸留所です。

と言ってもお酒をつくる蒸留所ではありません。花や草木から香り成分を抽出して香料をつくる蒸留所。

ここは開聞山麓香料園。

地図見ながらやってきましたが本当にここであっているのか不安になるほどの、森、森、森。鬱蒼と生い茂るとはまさにこんな様子を言うのだと思います。

車の通った跡を頼りに森を進みます。ジブリ作品のオープニングのシーンによくありますね、この感じ。結界を越えて別世界に足を踏み入れるアレです。

ありました。

全く飾り気のない、機能を形にしただけにも見えるその出で立ちがむしろ逆に厳かな印象を与えます。
同時に、本当に稼働してるのかなと思ってしまったのは内緒です。

園内


ひと通りぐるっと園を散策して、園内の小さなショップへ。
ここいろいろ教えてくれたお二人が実は親子で、この香料園の代表であることを知り、話をしているうちに「それでは蒸留所見ていきますか?」となり、普段は公開していない工場内に案内いただけることになりました。

園内には香料の原料となる様々な植物が。


香料をつくる蒸留設備

初めて見る香料をつくる蔵の内部。
目を引くのは大人の背丈ほどの蒸留機です。
ここにあるのは500kg入りの蒸留機4機。お酒用の蒸留機に比べるとコンパクトで、直線的で非装飾的なザ・機能美という立ち姿です。
内側はステンレス。

冷却方式は、お酒の蒸留では一般的な蛇管式ではなく多管式と言うそうで、冷却性能はこっちの方が高いみたいです。サイズが小さい蒸留機だと冷却部も小さいので、高温蒸気をいっきに効率よく冷却すると言うのが1つの課題で、この方式を採用しているとのこと。

香料の蒸留工程は↑の通りです。聞いてメモした内容よりこの写真見る方がわかりやすかったのでね。手抜きというなかれ。

「精油」という文字から分かる通り、香気成分は油分に溶けた状態で抽出されます。原料の重さに対して油分がどれくらいあるかを「油率」と言いますが、植物や部位によってかなり差があります。

芳樟??

この開聞山麓香料園の代名詞とも言えるのが「芳樟(ほうしょう)」。
見慣れない&聞きなれない単語ですが、"樟"の字はクスノキという読みがあり、その名の通りクスノキの仲間です。日本に生育するいわゆる一般的なクスノキに比べて、いい香りとされる成分(リナロール)の割合が多く、中国や台湾に多く自生している種です。
かつてこの芳樟を大陸から持ち込んでこの地で育て始めたことが香料園としての始まりだそうです。

年に何度か園内の芳樟を収穫(?)してまとまった量を蒸留するそうで、その時は一般の方も蒸留体験ができます。

「ところでどこに芳樟はあるんですか?」

と聞いてみたところ、
「そのあたりにあるのはだいたい芳樟ですよ」と。

「!?」

ほんとだ、あった。

70年以上前にこの地にやってきた芳樟がこんなにも力強く根を張っていることに果てしないロマンを感じるとともに、そこまでさせてしまうこの木の魔性の香りがますます気になりますよね。

ちなみに芳樟の葉の油率は約1%。100kgの葉から抽出できる精油は約1kgということになります。根や枝はもっと油率は高いのですが、リナロールは葉の方が多く含まれているということで、主に葉を蒸留しているみたいですよ。
毎年毎年蒸留のために根を掘り返していたらそりゃ大変ですよね、、

ここでつくられた精油は園内のショップで売っているので、ここぞとばかりに品定めをしていたところ「オンラインで売ってますよ」とご丁寧に教えてくださいました。
きっとオンラインショップとかないだろうな、と勝手に決め込んでいた自分に喝です。
開聞山麓香料園のオンラインショップはこちら
精油はもちろんハーブティーや芳香蒸留水もあります。

蒸留=酒じゃない

蒸留というとどうしてもお酒だけをイメージしがちですが、沸点の違いを利用して特定の成分を取り出すのが蒸留であって、その成分をどう生かすかと考えれば、製品としての形はお酒だけに限らないわけですね。
そもそも中学校の理科の実験で蒸留といったら、決してアルコールではありませんでした。懐かしいなあ、リービッヒ冷却器。

水に溶ける成分。
油に溶ける成分。
アルコールに溶ける成分。

香りの性質を考える上で、官能評価よりもまずその成分の物性を理解することから始めるのが、蒸留を目指すということの1つのスタートラインなのかもしれません。

化学を真面目に学び直そう。酸化還元反応、酸塩基反応、無機物性、有機化学、、、大部分は記憶の彼方に行ってしまったけど、受験だけのために無理やり詰め込んだと思っていた知識は、かけらになっても今につながっているんですね。
私は日本の詰め込み教育にそこまで批判的ではありません。

次回の芳樟の蒸留体験は9月だそうです。興味深い。

敷地を出たところで見つけました。看板。
ちゃんとありましたね。

次回はまたお酒の蒸留所の見学記かな。

#39歳の転職活動
#蒸留
#蒸留酒
#calvados

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