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新橋のサラリーマンは蒸留家になれるでしょうか -蒸留所を巡る(大山甚七商店/指宿)-

GWは何も書けませんでした。その理由は鹿児島で蒸留所巡りをしていてアウトプットする心の余裕がなかったから。
インプットしながらアウトプットできないのは自分の情けないところですね。徐々に克服していかないと。

大山甚七商店へ

まずは指宿にある大山甚七商店さん宮ヶ浜蒸留所へ。
「薩摩の誉」などの焼酎で知られる創業147年の老舗です。

まず気になっていたのは昨年から取り組んでいるジン。
去年導入した蒸留機は焼酎蔵の隣の建物に設置されていました。傍らには蒸留を待つさまざまな醪が。
「緑茶」や「金柑」など気になる文字がたくさん。
蒸留器のサイズは500L。やはりこれくらいのサイズが自分にとってもイメージしやすいサイズですね。
でね、肝心の写真、撮り忘れました。何やってんだか・・・

初めての焼酎蔵へ

日本酒蔵とワイナリーの訪問経験はあるものの、焼酎蔵は実は初めてです。
そんなんでよく蒸留を目指すとか言えたもんだなと自分に焦ってしまいますが、この歳で挑戦したいものが見つかったことが何よりありがたいので、どんとこいって気持ちでスクラッチからの学びです。

蒸留といってもまず醸造を行います。
芋を洗う。芋を蒸す。米麹を作る。蒸した芋と麹と水を甕に入れて酒母を作る。大きなタンクで発酵させる。これで芋の醸造酒が完成します。
期間としては、酒母で1週間&仕込みで1週間とのことで日本酒の半分くらいで完成するイメージ。

これは仕込タンク


黒砂糖があるのはラムを作るため
発酵中の黒砂糖。砂糖ですからね、どんどん発酵します。

酒母に使うのは和甕

また写真撮り忘れたのですが、酒母用のタンクは「和甕」です。
サイズは人の身長くらいでしょうか。半分くらい床に埋まっていますが、少しずんぐりとした独特のフォルムに愛らしさを覚えます。

「この和甕は創業から100年以上使っていますが、もう日本で作っているところはないので、壊れても新しいものは入手できません。」

「!?」

なんかさらっと重大なこと言ったぞ。
そうなんです。和甕は絶滅危惧種。その名の通りかつては日本で作られていました。今はもう国内での生産はないそうです。
理由はいろいろあると思いますが、大事に使えば100年以上使えるものだということが分かってしまい、新規の生産体制が恒常的に必要ではなくなっていったということもありそう。複雑ですね。

そんな和甕。もし増やそうと思ったら他国で作られている"似たようなサイズ感の甕"があるそうです。中国製とか。
もちろん「国産だから正解」というわけではありませんが、もし和甕の製造技術は失われていないのであれば、復活を目指すのもひとつのチャレンジかもしれません。

日本酒や醤油の世界では「木桶」を復活させる動きが加速しています。仕込みに使うような大型の木桶は日本では1社残るのみで風前の灯だったところ、志ある作り手やエンジニアが集まってその技術を吸収し、木桶需要を再開拓していきながら、木桶文化をもう一度取り戻そうというものです。

もしかしたら和甕にもそんなロマンの兆しが見えてくる日が来るかもしれませんね。いやむしろやりたい。

麹づくりが日本酒と違う

「これで麹をつくります」
そう言って見せてもらったのがこの機械。

製麹機。

麹室じゃないんだ、、、
日本酒の麹づくりは、蒸した米を専用の室に引き込んで、種麹を振って、切り返したり温度管理したり枯らしたりしながら約2日で完成します。
焼酎は違うんですね。こういう事は現場を目の当たりにしないと学べないものです。
この金属製の円筒形の中に米を入れたら、この中で米が蒸されて麹菌が増えて米麹になります。日本酒とは違いますが、これもどっちが正解とかではなくて意味があってこの製造方法なんだと思います。
(焼酎用の米麹、食べてみたいな。。)

ちなみに麹の種類も日本酒と焼酎では異なります。
前者が黄麹なのに対して後者は白麹。白麹の特徴は「クエン酸」を多く出します。レモンのような酸っぱさのあるあのクエン酸です。
焼酎は日本酒よりも南の地域で作られているイメージがありますが、暖かいエリアでも安定的に発酵ができるのは、このクエン酸で酒母や醪が腐敗しにくいということも関係しているんですね。

一方で、そのクエン酸に負けないような「耐酸性の酵母」が焼酎用の醪では使われるとのこと。なるほど。
蒸留前の醪は飲んだことないですが、もしかしたら疲れが吹き飛ぶような心地よい酸味があるのでしょうか。気になってきました。

蒸留方法もイメージと違った

蒸留器。ジンの蒸留器よりは一回り大きい。

いよいよ蒸留器です。
私の素人考えでは、醪の入ったタンクの部分を直火や電気などの熱源で温めて温度を上げていくのかと思っていましたが、これもまたイメージと違います。
中の醪に直接高温の蒸気をあてているそうです。芋の醪はドロドロしているので焦げたり温度の不均一を防ぐためにこの方法を採用するそう。
つまり蒸留と同時に加水(水じゃないけど)しているということなのか。

貯蔵&熟成タンク。蒸留されて焼酎になった神々しい液体たち。

蒸留されてできあがった焼酎のタンクを覗かせてもらうと、若々しくも上品で甘美な香りが鼻をくすぐります。芋からできたことが直感的に感じられ、「エッセンスを抽出する」という蒸留の本質に浸ることができた瞬間でした。

初めての焼酎蔵ということもあり、知らなかった工程を数多く知ることができましたが、興味深かったのは「蒸留後の焼酎をキンキンに冷やす」こと。こうすることでわずかに残っている原料由来の油分を析出させるのだそう。油分は製品の白い濁りにもつながるそうで、大事な工程なんですね。

他にも、大きいタンクの方が熟成スピードは早い説など個人的にすごく興味深い話が目白押しでして、そりゃアウトプットする余裕なくなるわけです。

チャレンジの機会は逃さないということ

大山甚七商店でつくる焼酎はすべて芋焼酎でした。
冒頭のジンをはじめ、プッシュ式のビターズ、さらに今後ラムにもトライするとのこと。
老舗のチャレンジと一言で言ってしまうことも簡単ですが、お酒造りは国税庁管轄で税制・規制・免許制度など法令でビシッと固められている世界でもある訳で、新製品や別事業への取り組みに対して自由度が高いとは言えません。
ラムへのチャレンジも「焼酎の色規制撤廃」という大きな転期を追い風にするための判断で、チャレンジするならタイミングを絶対に逃すなよってことだと勝手に解釈しました。

目の前は鹿児島湾。向こうに見える大隅半島。

初めての焼酎蔵訪問。
心臓が踊り始めるんじゃないかと思うほどの興奮と学びの連続で、蒸留というこの壮大な世界にまたひとつ脳内麻薬の発射スイッチが増えてしまいました。

中でもドーパミンで脳内窒息しそうになったテーマ「ラムと黒糖焼酎の違い」については、次回ちゃんと整理したいと思います。

なお、今回のGWは5蔵に訪問したので、備忘としてそれぞれちゃんと書きたいなと。

では。

#39歳の転職活動
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#蔵見学

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