【前編】高校野球「新時代」~センバツ2024の注目ポイント~
みなさんこんにちは、遊撃です。
球春の到来を告げる選抜高校野球大会がいよいよ18日に開幕します。開幕を前に、前後編の2回に分けて「センバツnote」を投稿したいと思います。今回はその前編になります。
今大会の一番のトピックはなんと言っても「新基準バット(低反発バット)」の導入。投手の危険防止の観点から導入が決まり、公式戦ではこのセンバツから初めて使用されることになります。
昨秋も一部の学校が公式戦で使用するケースもありましたが、使用しての感想はさまざま。「打球が飛ばず、野球が根本から変わる」という声もあれば、「さほど変わらない」と話している高校野球関係者もいるようです。
とはいえ、各地区の好投手が集い、浜風の影響を受ける甲子園で行われるセンバツでは、ある程度の「変化」は見られるのではないかと考えています。そうした観点から今大会の注目ポイントをまとめ、大会の展望を記していきたいと思います。
なお、具体的な優勝予想やベスト8、勝ち上がりの予想などは【後編】で行います。そちらもぜひお読みください。
高校野球とバット
新基準バットとは?
改めて「新基準バット」で何が変わるのか、おさらいします。
直径が小さくなった分、バットに当てるのが難しくなる。また、金属の厚みが増した分、「トランポリン効果(へこんだ部分がトランポリンのように戻ってボールをはじき返す)」が抑えられ、従来より打球が飛びにくくなるとされています。高野連が行った試験では、打球の初速と平均速度は従来より3%以上遅くなり、飛距離も5、6メートル落ちる見込みとのこと(“飛ばない”バットで高校野球が変わる!? | NHK | センバツ 高校野球 より)。
直径の最大を64㍉としたのは、現在の木製バットの主流が64㍉で、できるだけ木製に近づけるためとの意図があるとのこと。ただ、スイングスピードの上昇で打球速度が上がることを防ぐため、重さは従来通りです。
一方、木製バットは900グラム以下でも使用できるため、新基準の金属バットよりもスイングスピードを上げられる可能性があります。そこで、どうせ飛ばないのなら…と木製バットの使用を検討する学校もありますが、金銭面での負担が大きいことが課題となっています。
バットの変遷
高校野球において金属バットが使われるようになったのは、ちょうど50年前の1974年。木製バットの使用による経済的負担を減らすためという理由でしたが、高校野球の大きな転換点となりました。
それまでは出塁すれば犠打で走者を進め、どうにかして1点をもぎ取る。少ない得点をエースが守り抜き、ロースコアで勝ち上がっていく…というのが典型的な「勝てる野球」でした。ところが、1980年代に池田高校(徳島)が金属バットの効力を最大限に活用した強力打線「やまびこ打線」で新たな風を吹かせると、PL学園の「KKコンビ」の登場などもあり、大会本塁打も増加。ついには「打球が飛びすぎる」ということで、2001年の秋以降、昨夏まで適用されてきた基準(900グラム以上)が設けられました(甲子園での使用は2002年春から)。
気になるのは「移行元年」にどう変化したのか。そこで、1974年と2002年、そしてラッキーゾーンが撤去された直後の1992年。この3カ年の前後数年間の大会総得点数、ホームラン数の推移を見てみようと思います。
「移行元年」の変化
金属バット導入(1974年)
まずは金属バットが導入された1974年の前後数年を見ていきましょう(数字が多いので、面倒な方は以下に添付するグラフをご覧ください)。
グラフで見ると、以下のような感じです。
特にセンバツが顕著ですが、導入元年に総得点、本塁打数ともに大きな変化があります。その後の推移を見ても、「打低」から「打高」へと移る転換点となっていそうな気がします。
ラッキーゾーン撤去(1992年)
続いてはラッキーゾーンが撤去された1992年を見ていきましょう。
こちらもグラフで見ると、以下のような感じになります。
センバツも夏の甲子園も、本塁打の数で顕著に変化が現れています。総得点も「撤去元年」は減少していますが、93年からは復調傾向。センバツに関しては撤去前を上回る数字となっています。ラッキーゾーンについては、撤去されたことで「ヒットゾーンが広がった(二塁打、三塁打が増えた)」ことも総得点が大幅には減らなかった要因かもしれません。今年も、「従来なら本塁打」の打球がフェンスに当たるなどして、二塁打や三塁打の数が増える可能性はありそうです。
金属バットの基準変更(2002年)
最後に、金属バットの基準が昨夏までの「900グラム以上」に変わった2002年です。こちらは今回と似たような変更になるので、もう少し長いスパンで見てみましょう。
この9年間は春も夏も「打高投低」の傾向が強いですね。2002年の「移行元年」は大きな変化がありませんが、03年以降は春はやや低調気味。夏は年を追うごとに得点も本塁打もぐーんと伸びています。バットの基準が変わったとは言え、「900グラム」をしっかり振れる選手が多かったのだろうなと推察できます。一方で、まだ体も技術も成長途上の春にはやや影響が出ていたのかもしれません。この傾向は、今年のセンバツでの影響を考える上でも参考になりそうな気がします。
グラフを見れば分かる通り、特に金属バット導入の1974年には目に見える変化がありました。今回の新基準バットも飛距離が5~6メートル落ちること、また移行に向けた選手の準備期間が短く(秋以降の半年弱)、まだまだ対応が不十分である可能性が高いことを考えると、この年ぐらいのドラスティックな変化があるのでは…と思っています。
新基準、先行事例は?
実は昨年、高校野球よりも一足早く「低反発バット」を導入して行われた大会があります。中学硬式日本一を決める「ジャイアンツカップ」です。こちらはかなり大きな変化が現れました。
この大会で使用されたバットは高校野球の「新基準」よりも反発係数が抑えられていない(飛ぶ)そうですが、これだけの変化がありました。中学生は筋力が少ないため、より顕著に数字に出たのかなとは思いますが、裏を返せば高校野球でも「フィジカルの差」がこれまで以上に試合結果に反映されるということではないでしょうか。「長打」が今まで以上にアドバンテージとなりそうです。
センバツ、どうなる?
投手有利、負担軽減にも
長い前置きもここまで。以上のデータ等を踏まえて、今年のセンバツがどんな大会になるのか予想していきたいと思います。
2002年のバット基準変更の際は明確に「投低打高」でした。現在のような球数制限や休養日もなく、投手は体力的にも厳しい状況にあったと思われます。そのため、バットの変更が大きな変化にはつながらなかった(「打高」がやや落ち着いた程度になった)のではないかと推察します。
それに対し、現在は「打高」ではありますが、決して「投低」ではないと思います。また、準々決勝と準決勝の翌日に休養日が設けられた上、複数投手制も確立されてきて、投手の疲労が比較的分散されるようになっています。よりフレッシュな状態で投げられるようにもなり、高校野球自体が少なからず「投手有利」に変わってきています。
新基準バットの導入が投手のさらなる負担軽減につながる可能性もあります。実際、昨年のジャイアンツカップでは1試合あたりの球数が減少していますが、打球が飛ばなければ、バッテリーとしても思い切った攻め(大胆な配球)ができる。するとヒットや本塁打はもちろん、四死球の数も減少する可能性があります。そうすると球数は減りますし、走者が出なければ精神的にも体力的にも余裕が出てくるなど、投手有利な要因がさらに増えます。これらを勘案すれば、(ありきたりではありますが)総得点は減り、ロースコアの試合が増える可能性が高いかと思います。
となると、勝ち上がるために好投手の存在は絶対条件にはなると思いますが、(昨年の山梨学院・林投手のように)日程に恵まれてさえいれば、「複数投手」は必ずしも勝ち上がるために必要な要素ではないかもしれません。また、安定感さえあれば、これまで甲子園優勝に導いてきたエースたちほど「突き抜けた」投手である必要もないのかもしれません。
増すフィジカルの重要性
続いては攻撃面の考察です。打球が飛ばず、四死球も減れば、走者がなかなか出せない展開になるでしょう。
常々言っていることではありますが、野球は3つのアウトを奪われるまでに4つ進塁して点を取る「陣取りゲーム」です。新基準バットの導入で投手有利となり、アウトになる確率が高まった時に何が勝敗を分けるのか。小技や足を絡めた攻撃も手ですが、やはりアウトを奪われずに2つ以上の塁を奪える「長打」の数が勝敗に大きく関わってくるのではないかと思います。
ジャイアンツカップのデータから推察するに、反発が抑えられたバットで長打を放つためには「フィジカル」がもろに影響しそうです。もちろん、バットに当たらなければ意味がありませんが、フィジカル面で優位に立つチームが力を発揮するのではないかと思います。逆に、昨秋の打率は高くても、フィジカル的に弱いチームはセンバツでは苦しむ可能性が高いのではと見ています。とはいえ、小技で打開してくるチームもあるかもしれないので、そこは注目したいポイントです。
得点が減れば必然的に「1点の価値」が高まり、守備のできも勝敗に直結します。新基準バットでは打球音と実際の打球の感覚にズレがあるとの声もあり、特に外野手の大きなミスに繋がる可能性もあります。とはいえ、新基準バットによって打球速度が下がる+出塁機会が減る(可能性がある)ことを踏まえると、特に内野手は最低限の安定感さえあれば、例年以上に重視するべきポイントではないのかなと思っています。もちろん堅いに越したことはないですが…
出場校の個人的評価
投手力
・安定感のある投手の存在(最低1人…K/BBが4以上を一つの目安に)
→八戸学院光星(森田)、作新学院(小川)、関東一(畠中)、愛工大名電(大泉)、星稜(佐宗、道本)、敦賀気比(竹下)、大阪桐蔭(森)、京都国際(中崎)、報徳学園(間木)、近江(西山)、創志学園(山口)、高知(辻井)
・制圧できる投手の存在
→八戸学院光星(洗平)、作新学院(小川)、健大高崎(佐藤、石垣)、星稜(佐宗)、大阪桐蔭(森)、広陵(高尾)、阿南光(吉岡)
打撃力
・フィジカル面での優位性
A評価(背番号1桁の平均体重が75㌔以上)
→八戸学院光星、青森山田、作新学院、健大高崎、大阪桐蔭、阿南光
B評価(同73㌔以上)
→北海、常総学院、関東一、山梨学院、愛工大名電、日本航空石川、星稜、敦賀気比、創志学園、広陵、明豊、神村学園
・高打率
A評価(昨秋.380が目安)
→健大高崎、関東一、豊川、愛工大名電、広陵、神村学園
B評価(昨秋.350が目安)
→宇治山田商、敦賀気比、京都国際、近江、阿南光、明豊、東海大福岡
守備の安定感
ノックや秋季大会の戦いぶりから判断。
→関東一、星稜、京都国際、報徳学園、創志学園、阿南光、熊本国府、東海大福岡
総合評価
優勝候補A:健大高崎、阿南光、星稜、大阪桐蔭
優勝候補B:八戸学院光星、作新学院、広陵、関東一、愛工大名電
力のある左右の2枚看板を有し、フィジカルでも優位性を持つ健大高崎が頂点に近いか。成功するかは別として、「仕掛け」の引き出しがあるのも楽しみな点。阿南光もエース吉岡を擁し、フィジカルでも他の強豪校に引けを取らない。神宮覇者の星稜は、今年は守りで安定感があるのも強み。大阪桐蔭はなんと言っても過去に類を見ない投手層の厚さが売り。
優勝するには…?
上記を踏まえ、優勝するには「好投手の存在(複数ならなお良し)」「長打力(フィジカルの優位性)」がカギになりそう。今大会は組織力よりも、投打において「個の力」が求められ、鍵になる大会になりそうな気がしています。どんな大会になるか、今から楽しみです。
なお、こちらは対戦相手や日程は加味せず、チームとしての力を見ての評価になります。組み合わせを見ての優勝予想やベスト8予想などは後編で公開したいと思いますので、そちらもぜひご覧ください。読んでいただき、ありがとうございました。それでは後編で!
(ヘッダー画像は高校野球 センバツ甲子園 【詳しく】山梨学院が初優勝 山梨県勢で初 | NHK | センバツ 高校野球 から引用)
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