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英雄の生きている国

One murder makes a villain.
Millions a hero.

1人を殺せば殺人者だが
百万人を殺せば英雄になる 


チャップリン

だがその1人が百万人の力を持っていたら。

「演じてみたい役」

ミュージカルでいつか演じてみたい役は?

という質問に対しkpopアイドルBTOBのチャンソプは

「 안중근 의사(安重根義士)」
と答えた。


「もう少し年齢を重ね、機会があればやってみたいです」


安重根、享年30歳。
インタビュー時、チャンソプの年齢と安重根の死期はほぼ同じ年である。
童顔でもない彼が「年齢を重ねれば」と言ったことに対し違和感を感じた。

日本で人気のアイドルがその名を言うことに対して私は特に違和感を覚えなかった。

英雄は何者か


朝いつも通りSNSを開き韓国ミュージカルの情報を見る。
目に入った「영웅(英雄)」の文字

韓国創作ミュージカルで今年の5月29日からの公演で15周年を迎える人気作品だ。

『安重根』
テストのための勉強しかしてこなかった私は
「安重根」「伊藤博文」「暗殺」の3ワードのみを記憶している。
《なぜ》も《その後》も何も知らない。
一度は覚えていた知識なのかさえ定かではない。

以前韓国語の先生に
「日本ではどう言われてる?あなたのイメージは?嫌な気持ちにならないから聞いてみたい」と言われた。

私は言葉を濁した。

気を使ったのではない。


知識も意見もなにも、私には何もなかったのだ。



エンタメと歴史

もちろん彼は日本において英雄ではないだろう。

だが知識のない私にとって歴史上であろうが作品であろうが安重根が英雄として扱われていることに何も感じないのだ。

真面目な学生生活を送っていれば何か変わっただろうか。



創作ミュージカルの多い韓国では時代を知らなければ楽しめない(≒理解できない)ものが多い。

作品を存分に楽しみたい私は足りないなりに作品背景を調べる。
だが薄っぺらいながらもその時代を知った私は毎回居場所がなくなるような気がするのだ。

いかに良い作品に出会っても触れてはいけないその時代を描いていれば感想を語り合うことは出来ない。

せっかくできた韓国のミュージカルファン仲間との距離がわからなくなった。

私が語れば無意識に誰かを傷つけることを知ってしまったから。


ミュージカル《英雄》

暗殺者は時に英雄になる。
だが未来を生きる私は「安重根が伊藤博文を殺した後統治時代に入る」という事を知っている。

それでもなぜ《英雄》なのか。

歴史の知らない私は敢えてあらすじも調べず、日本語訳も介さず真っ白なままこのミュージカルを見てみたいと思った。

今の私が作品を通して何を感じるのか気になった。


「そりゃぁ日本では受けないわ」と思うのか。
「これぐらいで反日?過剰反応じゃない?」と感じるのか。

この作品は映画化もされているが日本では配信されていない。それが現代の日本における【答え】なのだろう。


今をときめくアイドルが演じたいと言ったのは
歴史か、それとも生き様か。

英雄=ヒーローはいつだって誰かの憧れだ。
私たちはそれを否定できない。



私が初めて韓国に行った日。
人気ドラマのロケ地に壁画があった。

異国の地でどこか見覚えのある顔を見つけた私は少し嬉しくなり指を刺しながら大きな声で

「誰だっけこれ。すごく見たことがある気がする。」と言った。

人通りは多かった。

帰ってそれがその国の《英雄》であると知った時、しまったと思った。

私はこの後悔を一生忘れない。

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