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1分が永遠に感じた。秒針が止まっているように見えた。【灼熱地獄】

「つめてぇ~。生き返る」

ボクらは、出し切った。

何度も、この場を立ち去ろうと思った。
何度も、ドアノブに手をかけそうになった。
何度も、額の汗をぬぐった。
何度も、深いため息をついた。

それでも、ボクらは、耐えた。
そして、限界を迎えたボクら。

意識が、どこか遠くの方へ行ってしまいそうだった。
足元がフラフラして、ボクの見る世界は回っていた。

だけれども

そんな世界で飲む水は、この世のモノとは思えないほど美味しく
そんな世界で入る水は、ボクに安らぎを与えてくれた。

すがすがしい気持ちになったボクらは、外に出る。
そして、寝転がった。
夜風に涼みながら見る空は、吸い込まれそうなくらい美しくて
ボクの意識は、はるか彼方へと飛んで行きそうだった。

「はぁ~い。それでは、今日の授業はこれまで。みなさんお疲れ様でした。週末に入るワケですが、外も、少し肌寒くなってきたので、寒暖差で体調を崩さないように気をつけて過ごすこと。以上」

「急に涼しくなってきたよな」
お調子者のケントが、やってきた。

「たしかに、過ごしやすい季節になってきたな。」
自分探しにハマっているタケルは、季節を肌で感じていた。

「今までは、自然に汗が出てきたけど、汗もかかなくなってきてるよね」

「汗をかかないようにみえて、涼しくなっても汗はかくそうだ。しかし、暑い季節よりかいているかどうか?それは、ワタシにも分からない。だからこそ、涼しい季節は、意識して水分を補給する必要がある。汗をかいていないと思って・・・」
自分探しのタケルは、涼しい季節こそ、水分補給が必要であることを、教えてくれた。

「そうなると、意識的に汗をかく必要があるってことだ!」

「まぁ、そうなるのかな」

「じゃあ、今週末に行く場所は決まったな」

「どこ」

「サウナだよ!」

「あぁ。たしかに、夏より汗をかくね。」

「だろ!サウナなら、10分入ったら、それだけで滝のように汗をかけるだろ」

「たしかに」

「そうと決まれば、週末は銭湯に集合だ」

「分かった」

そして、翌日。
銭湯に集まったボクら。

「みなさん。本日は集まっていただきありがとうございます。いきなりですが、最近いつ、汗をかきましたか?・・・なんと!?『全然、汗をかけなくて困っている』ですって。分かります。その気持ち。そんなあなたにピッタリなのが、こちらになります。そう。サウナです。」

「通販か、なにかか」

「辛い日々もあったことでしょう。苦しい日々があったことでしょう。そんな思いを、流しましょう。汗と一緒に。キレイさっぱり」

「いつまで続ける気だ」

「それでは、行こう!そして、出し切ろうではないか!」

「やっとか」

ボクらは、中に入り、いよいよサウナへ。

「体はちゃんと洗ったか?水分補給は大丈夫か?」
自分探しのタケルが、最終確認をする。

「大丈夫。」
ボクらは、答える。

「だれが最後まで残れるだろうか。この灼熱地獄に。」
ケントがニヤニヤしていた。

「別に勝負する気はないけど、とりあえず入るか」

そして、扉は開かれた。

ムワッとした空気が押し寄せてきた。
体中に熱気を感じながら、ボクらは灼熱地獄に足を踏み入れた。

はたして、何分が経っただろうか?

体中から噴き出す汗。
呼吸が苦しい。

「そろそろ、いいんじゃない」
ボクは、ボソッとつぶやく

「オレは、まだまだ」

「ワタシも、まだいけるな」

「あっ。そ。ボクも、いけるけどね」

別に勝負をしているワケではない。
たぶん。そのはず。

灼熱の部屋に置かれた60秒を示す針は、『本当にその速度か』と疑ってしまうほど、進んでくれない。

「フゥー」
深いため息が出る。

「やべぇ。無いわ。」

「何がだ」

「かく汗が」

「そろそろ、ギブじゃね」

ボクらは、お互いの顔を見合わせる。
誰も目の焦点が定まっていない。

「ムリだぁ」

ボクらは、一斉に立ち上がった。

意識がもうろうとしながら
足元をフラフラさせて、水風呂に突撃した。

「ぷはぁ~。生き返る」

ボクらは、出し切った。
嫌な気持ちを出し切ったかどうかは、分からないけど。

今は、とてもすがすがしい気持ちだ。

「外出るか」

「だね」

水風呂に入ってスッキリしたボクらは、外の休憩スペースに寝転んだ。

夜風を体中に感じて見上げる空は、キラキラと輝いていた。


汗で全ては流せないけど
それでも
汗を流すと、少しだけ軽くなる気がする。
そして
すがすがしい気持ちになれる。

だから、ボクは、今日も汗をかく。
夜風を感じ、空を見上げ、『気持ちいい』と感じるために。

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