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夢でもし逢えたら

最近はあまり見なくなった夢がある。
16年一緒に暮らしたミニチュアダックスフンドのラブ。
亡くなってもうすぐ2年になる。

よく見ていた夢は、実家の居間。
ラブがいてこっちに寄ってくる。いつもみたいにおやつ箱へ勧誘してくる。
小さい頃はブラックタンの黒い毛の犬だった。
夢の中では亡くなる前のグレーの毛。
夢の続きは、誘導されるままおやつ箱の前でおやつをやって。
いつものように自分だけソファーに戻って座って、終わり。
目覚めてから「あれ、ラブは、もうなくなってるんだったけ」なんて思った。寝室から居間に降りて、空いた犬小屋を眺めた。
何度かその夢を見る内に、夢の中で「もう亡くなってるんだった。」って気付くようになって、「会いに来てくれたのかな?ありがとうね。」って話しかけるようになった。

夢で誰かに会うと、「自分が相手を思ってる。」と思うんじゃなくて「相手が私を思ってる。」と考える。
高校の古典の授業で、平安時代にはそういう風に思われてたんですよ素敵ですねと聞いた。
それ以降、夢での出会いは平安説を採用している。

最近は会いに来てくれなくなった。
きっと天国で忙しいんだろう。そう思ったほうが都合がいいから。
心理学の授業で、夢分析の話を聞いた。そんなことは忘れた。
きっと天国での生活に慣れて来たんだろう。
おやつ確保に精を出しているんだろう。

数ヶ月前にTwitterで読んだ漫画。
わんこたちが亡くなって、集まって何かの手続き。
「あなたのお名前は?」と聞かれると「わかんない」「わかんない」。
その中で一匹が、「“かわいい”って呼ばれてたよ。」。
そしたら他のわんこも「僕も」「僕も」。

後から後から響いてきて、いいねはしたと思うけれど、そのツイートはどこかへ行ってしまった。
また読みたい。
みんな愛されてたんだねぇと、じーんとした。
今膝の上にいるこの子はきっと「僕の名前はふうたかわいいね!」だと思ってくれているだろう。

ラブはどうだったんだろう。16年呼ばれた名前を覚えていてくれるだろうか。
かわいいね。よりもデブだとか臭いだとかそんな言葉の方が記憶に残ってしまっているんだろうか。
夢でもし逢えたら、改めて名前を呼んであげたい。君の名前はラブだよ。
ちゃんと愛されてたし、今でも思ってるよ。

出会った場所は薄暗いペットショップ。
港区の、トタン板でできた倉庫みたいなペットショップで、お母さん犬と兄弟と一緒にガラスケースにいた。
出会った時からトイレを覚えている天才犬だった。お母さん犬から教えてもらったのだろうか。
我が家に来てからも、トイレはすぐ覚え、ハウス(「ハウス」と言ったら小屋に入る)もすぐに覚えた。賢い子だった。

ブラックタンのワイヤーヘアーだった。
ダックスの体型にシュナウザーのような顔、おじいさんみたいで可愛らしかった。
毛は抜けないから、シャンプーが必要だった。
洗面台に入る内は、毎週のようにシャンプーした。濡れると顔が半分くらいに細くなって、その顔もキュートだった。

弟の幼稚園へ向かいに行く、母の自転車の前かごにいれられて、ラブもお迎えにいってたんだとか。
南知多の浜辺へ行ったり、どこか山のペンションへ旅行にも行った。
祖父母と家族とラブとで伊豆にもいった。
ラブは楽しかったんだろうか。きっとそんなにだったんだろうな。
車は嫌いじゃなさそうだったけど。
夢なら会話できるかと思いきや、一度も会話したことはない。
夢の中くらい、都合よく言葉を発して、感想を聞かせてくれないだろうか。

何年そんな生活をしたか分からない。
お出かけの記憶が途切れたのは、僕らが中学生になって、土日も部活が当たり前になってからだろうか。
それまでは、毎週土日は家族で過ごしてて、わんこたちともお出かけをよくした。

ラブは、とても人付き合いの悪い犬だった。
とても天邪鬼で、呼んでもこない。自分の来たい時だけ、腹の減った時だけ来る子だった。
そんな可愛げのない犬に、最初はあんなに可愛がってた母も、可愛がる様子を見せなくなった。
ずっと足元にはいるけれど、ずっとパソコンをいびっていた。
遊んでよと、訴えはしないけれど、床のフローリングがハゲるほどには床を舐めていた。
母が四六時中いたパソコンの足元で。
今でもラブのさみしい傷跡はそのままだ。

ラブは僕の足を舐めるのが好きだった。ふくらはぎから足首、足の甲、指も裏も、家に帰ると一心不乱に舐めてきた。靴下を履いていると前足で下ろそうとしてくるくらいには好きだった。
年を取って口が臭くなった。小さい頃は歯磨きをしていたのだけれど、いつからかしなくなっていった。
舐められっぱなしになったのは僕だけだった。たまに今いる部屋犬が足を舐めてくることがある。そのたびにラブを思い出す。
あれはどういう気持ちだったのか。聞いてみたいものだ。

伸ばした脚の間に挟んで、仰向けに寝かせて、おなかのでべその辺りに手を置いてあげると寝る子だった。
前足をきれいに折りたたんで、脱力して、信頼しきった姿で寝るのがかわいかった。
夢の中で、そうやってあげた記憶はない。またしてあげたい。
それがラブの好きな体勢だったかはわからないけど、気持ちよさそうに見えた。

食卓で夕飯をしていると決まってフンをする子だった。てめぇこの野郎!と思いながら拾っていた。早く拾わないと食う子だった。いろいろ手を尽くして、フンをしたらおやつをやるようにしたら食べなくなった。
代わりに、おやつを貰うために小出しでフンを何回もするようになった!
Twitterで同じ事例を見て安心した。
ただラブは、決まって食事時にするから、当てつけか、嫌がらせをしてきていたんじゃないかと思っている。
夢で逢ったら問いただしたい。今だから聞くけどって。

そんなある日、外犬の二代目で仔犬がやってきた。
ゴールデンレトリバーの仔犬。といってもラブよりはでかい。
僕はそもそも反対していた。ラブがいるじゃない。今でもそんなに相手してないラブが、寂しい思いするんじゃないか。

結局、弟と父のゴリ押しで仔犬がやってきた。
その時ラブは10歳を超えていた。
今まであんなによってこなかったラブが、僕の膝に飛び込んでくるようになった。
父も弟も大型犬がずっと飼いたくて飼った。母は仔犬が好き。
飛び込める相手は僕しかいなかったのかもしれない。

そんなある日、ラブがゴールデンの鼻先を噛んだ。
一緒に室内で過ごしたのは数週間だったかもしれないけれど、ラブは感じの悪いばあさんだった。
仔犬が寄ってこれば追い払う。エサもおもちゃも奪いに行く。仔犬が眠ると、ちょっと匂い嗅ぎに行く。
仔犬はラブに追い払われると決まって食卓の椅子をガジガジした。
そんな姿を見て、父弟、母までもラブを少し嫌った。そんな中の出来事だった。

しばらくしてゴールデンは外へ。部屋にはラブだけになった。
家族に「性格悪いばあさん」だもんなって印象を残して。
かわいそうなことをした。きっと感じていただろうね。

年を取って、目やにが出るようになった。
放置すると目が開かなくなる程度には目やにがでた。
どれだけ目薬を処方されても良くならなかった。
原因は目ではなく、歯肉炎からだと言われた。
歯磨きは当初チャレンジしていた。嫌がって嫌がって。
いつしかやらなくなった。
思えば確かにぼろぼろの歯だった。ごめんね。
あの頃は家族みんな知識も根気も足りなかった。
歯磨きせずで長生きするとこんなことになるなんて。

ラブが倒れた。
僕が人生初の海釣りに行って、釣れた魚を両親が捌いて食べた晩だった。
うまい魚と介護の始まり。忘れもしない日曜日の夜。
掛かりつけ医に電話をかけたが当然繋がらなかった。
休日救急に電話したけど、かなり遠かった。
途方に暮れて、様子を見ているとしばらくして起き上がりよたよた歩きだした。
そんな時に掛かりつけ医から折り返し電話が来た。なんていい医者なんだ。
飲み会だったらしい。飲み会なのに折り返しくれてありがとう。
翌日診察に行くことになった。

診察に行くころにはピンピンしていた。食欲もあるし、普通に歩く。
高齢で、悪いところははそこかしこにあるけれど、治療は難しいといわれた。
16歳だ。犬の16歳は人間の80歳に当たるらしい。今調べた。
今の日本人女性の平均寿命は87歳だけど、犬と人は医療が違うからね。
かなり高齢だった。見るからに。
ふわふわしてた毛もまばらになってた。黒い毛はいつの間にかグレーになってた。
太りすぎ。運動は難しいかもしれないけど、少しやせた方がいいかなー。

一か月経って、また倒れた。
出社直前の朝だった。先月はウウッと一声あげて突然倒れた。
今回は苦しそうにうめいて、吐くようなそぶりをしつつ何も出ないのを繰り返していた。
前回倒れてから、家族会議をしていた。もし、次倒れたらどうするか。
そのまま逝かせてやるのがいいんじゃないか。
無理に治療しても、辛いだけなんじゃないだろうか。
けど今回は、今がとにかく苦しそうだった。
結局、父が仕事を休んで、病院に連れて行った。

いつからかデブ犬になっていたけれど、それ以上におなかがパンパンに膨れていた。
腸がよじれてガスがたまっているといわれたらしい。手術をしても体が耐えられないかもって。
一晩入院はして、何とか峠を越えた。翌日、ヨロヨロになって帰ってきた。
動けるだけましか。

それ以降はあまり動かなくなった。
犬小屋から外に引っ張り出して、居間にあるラブのクッション。
その上が定位置になった。長い胴をぐるっと丸めて。丸かったまま。
餌とトイレの時は歩いてくれるから助かってた。
前回倒れてからちょうど1か月後に倒れたから、次も1か月後に倒れるかもしれないって思っていた。

2か月経った辺りで、食欲がなくなった。
歩いていてコケるようになった。
ああ、いよいよ死んじゃうんだなって思った。
トイレが出来なくなった。トイレに行く途中に漏らすようになった。
本格的な介護が始まるんだって思った。あまり動かなかったから、掃除は楽だった。
名前を呼んでも顔をあげなくなった。

餌を食べなくなった翌週、平日休みがあった。
休みの前日、目ヤニで目が固まっていたのに気が付いた。
明日休みだし、ちゃんときれいにしてあげようかな。
母も賛同してくれて、目ヤニをきれいに取った後シャワーに入れた。
久しぶりのシャンプー。小さい頃はよく入った。
前に飼っていたわんこは苦手だったから、小さいころから慣れさせようとよく入れていた。
おかげでラブは慣れたもので、右足を洗おうとすれば右足を上げる。もちろん左足も。
この日もよぼよぼながらも、いい子にシャンプーされた。

風呂から帰ってきたら、いつも歩かないくらいに歩いた!
最近はずっとクッションの上だったのに、居間の中を一周した。
よたよた歩いて、小屋から玄関の方へ。そのまま歩みでバックして、くるっと回ってよく舐めてたパソコン横の床へ。
くるくると巡っていった。壊れたおもちゃみたいなギコギコした歩みで。
シャンプーで身体温まったのかな。綺麗になって動きたくなったのかな。母とそんな会話をした記憶がある。
なぜだろう。ラブとの記憶に父と弟が出てこないのは。
記憶にないだけではないはず。
この場面は二人と一匹しかいなかった。どこにいたんだ彼らは。

翌朝。弟が起こしに来た。
「ラブがもうダメかもしれんー。」
自分は朝食も食べ、通学準備ができてから様子を初めて見たらしい。
もっと早く様子見ろ?
大急ぎで駆け付けると、また倒れていた。ふんも漏れていた。
母がふんを処理してる間に、ラブを移動させた。
まだ息してる。
家族で取り囲んで、みんなで撫でて。抱いて。声をかけた。
みんなに囲まれて亡くなった。

このnoteを書き始めたのが1月末。
今が3月6日。ほったらかしにしすぎて、何が書きたいかわからなくなっちゃった。
ここまでで一旦投稿してみる。
note始めて分かったことだけれど、いろいろ題をつけて文を書きだすのだけれど、完成しきれず下書きのままになってる。
向いてないのかもしれない。
(4840 文字)

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