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それでも生きていく

過去を振り返って、随分と穏やかに生きているなあ、と思うことがある。
今は傷を作って痛みで気を紛らわせなくても生きていられる。泣き疲れて眠る夜も減ったし、一睡も出来ずに迎える朝もなくなった。笑顔が増えた。好きなことができた。
でも、やっぱり生きるのは怖い。生き続けるのが怖い。
先が見えない不安と誰にも言えない孤独。
世の中の人たちはみんな、こんな孤独を抱えて生きているのだろうか。

染色体の異常と診断されて8年が過ぎた。無数にある染色体にできた1つのエラーは、どこにも同じ症例がないのだという。前例がない以上は予測のしようがなく、この異常が原因になって何か起きても全くおかしくないと主治医は言った。
体に足りないものを薬で補い始めて7年目。一般的には5年目以降に色々な病気のリスクが上がるそうだ。それでも、薬がなければ日常生活もままならない上に病気のリスクは跳ね上がる。薬の副作用で半月の間は人並みになることすら難しくなるけれど、それでも死なない方が大切だからと治療をしない選択肢は用意されなかった。

世界中でたった一人。とんでもない籤を引いた。確率なんてあてにならない。ほぼ確実に起こらないことが降りかかってきたら、“0ではない”なんて“十二分に可能性がある”と同義になってしまう。
これを怖いと思うのは私が臆病だからではないと思いたい。

この病気は一生治らない。たとえ異常がなくなったとしても、おかしくなった臓器はもう元に戻ってくれない。
どうにもならない現実を諦めることしかできない。見つかった時点で既に私の身体は壊れ始めていたのだから。壊れきってしまわなかったのが不幸中の幸いなのかもしれない。

「慢性疾患を持って生きる人は、多かれ少なかれ潜在的な鬱状態にあります」と学校の先生が言っていた。
これがそうなのだろうか。重くて苦しいこれを、これからずっと抱えて生きていかなければならないのだろうか。途中で荷を下ろせるとしたらいつになるのだろうか。

泣きながら、もがきながら、私は今日まで生きた。そして明日からも生きていく。怯えて、泣いて、それでも生きることをやめられずに。
どうか何も起こりませんように。苦しまずに、穏やかに過ごせますように。

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