椿柄の銘仙と一冊の雑誌が繋ぐ、かつて少女であった彼女の記憶。ほしおさなえ 著『琴子は着物の夢を見る』
時折、幼い頃に母の実家で見た着物のことを思い出す。あの日、いつも通り玄関の引き戸を引くと、普段とは異なる光景が広がっていた。目に飛び込んできたのは、和室に並べられた鮮やかな着物の数々。近づいてよく見ると、それぞれの着物に、花や蝶、鳥など美しい模様が施されている。
「すごい……」、と思った。今であればあの時の気持ちを、もう少し繊細に表現できただろう。しかし、当時の私にとって「すごい」が、美しいものに対する精一杯の褒め言葉だった。
その記憶が、ほしおさなえ氏の『琴子は着物の夢