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本にまつわるエッセイや書評を中心に。
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コンプレックスを抱えて生きる女性の心を、温かなひと皿が解きほぐす。『初恋食堂』古矢永塔子 著

漫画や小説において外見にコンプレックスをもつ主人公は、比較的見かけることの多い設定ではないだろうか。そして、ストーリーもまったく同じではないが、定番の流れが存在するように感じる。読み始める前、古矢永塔子さんの『初恋食堂』(小学館文庫)も、そのような流れで進むのではないかと予想していた。しかし、その予想は物語の序盤に大きく覆される。予想外の展開に、思わず「そっちなの⁈」と声が出てしまった。 本書は、第1回「日本おいしい小説大賞」受賞作である、『七度笑えば、恋の味』を改題、文庫

楽しさもあれば不安もある。おひとりさまの暮らしを、6人の女性作家が描いたアンソロジー。『おひとりさま日和』

今や、生き方のひとつとして現代に馴染みつつある「おひとりさま」。一括りにおひとりさまといっても、その生き方を選んだ、選ばざるをえなかった理由や経緯は人によって異なる。『おひとりさま日和』(双葉文庫)に登場する、6人の女性もそうだ。 本書は、ひとり住まいにおこる出来事を題材に、6人の女性作家が書きおろした短編小説集である。おひとりさまの楽しさだけでなく、不安要素にも触れており、たんに、おひとりさまの良さを描いた一冊ではない。とはいえ、本書にはひとり住まいの魅力もたっぷりと描か

染織を通して「生」と向き合う。ほしおさなえ著『まぼろしを織る』

「生きる理由」と呼べる何かを、もっているだろうか。特にない、と答える人もいるかもしれない。一方で、夢や目標などをそう呼ぶ人もいるだろう。生きる理由は、人生に不可欠というわけではないが、あると日々が輝き辛い出来事も乗り越えられる存在だ。 だが、必ずしも良い影響を与えるとは限らない。たとえば、生きる理由を自分ではなく他者が決めたことにより、生きづらくなることもある。ほしおさなえさんの『まぼろしを織る』(ポプラ社)を読んで、改めてそう感じた。 本書は、主人公の槐(えんじゅ)が、

吉田篤弘さんが紡ぐ、優しい物語の世界。そっと手渡したい5冊。

今年の3月に『鯨オーケストラ』と出合い、優しい物語と言葉の選び方に惹かれ、吉田篤弘さんの作品を好んで読むようになった。 X(旧Twitter)に投稿している読書記録も、吉田さんの作品が大半を占めている。もしかすると、鶴田の投稿に対して「またかーい!」と思った方もいるかもしれない(好きになったらトコトンな性格のもので……)。 でも、投稿するうちに「気になったから読んでるよ」や「気になるから、最初に読むならコレ!という本を教えてほしい」などといった、嬉しい言葉をもらうことも増

「書くこと」を通して人や思いをつなぐ物語。三浦しをん著『墨のゆらめき』

歳を重ねるにつれ、「もっと知りたい」と思える相手に出会えた時ほど、近づくことを躊躇してしまう人は多い。人によって理由は異なるが、その根底にあるものは、傷つくことへの恐怖心ではないだろうか。さまざまな人と出会うなかで、自分の過去や気持ちを理由に相手が離れていったり、表向きは受け入れてくれたように振る舞っていたが、本音は違うことに気づいたり。このような傷ついた経験が、人を臆病にするのかもしれない。 しかし、怖がりながらも少しずつ距離を縮めていき、お互いを受け入れ合うことができた

吉田篤弘 著『鯨オーケストラ』から得た気づき

ひとたび夢中になると、その熱が冷めるまで求めてしまうタイプなのは自覚している。そんな私が、今夢中になっているものが吉田篤弘さんの小説だ。きっかけは、本屋で偶然見つけた『鯨オーケストラ』という題名の本。 主人公はナレーションや朗読など、声の仕事をしている曽我くん。担当するラジオの深夜番組で、17歳の時にモデルをした絵の行方が分からないという話をしたら、視聴者から一通の手紙が届いた。その手紙をきっかけに、物語は始まる。 そして、私がとても印象に残っている箇所が、曽我くんが吹き

美しい日本語を美しいまま。

塩谷舞さんのエッセイ『ここじゃない世界に行きたかった』を読んでいて、気になるところがあった。 塩谷さんが短期留学で、アイルランドのダブリンを訪れた際の出来事だ。アイルランド人の女性講師に、日本には西暦の他に"和暦"というものが存在すると説明している部分。 アメリカ人に同じことを話した時は”面倒なシステム”と言われたと書かれている。だから、アイルランド人の彼女も、似たような反応をするだろうと予想していた。 でも、その予想は大きく裏切られる。 彼女は「なんて素晴らしいの!

【読書】だから私はメイクする

普段は漫画をあまり読まないのですが Twitterで見かけて気になり購入。 シバタヒカリさんの『だから私はメイクする 』 劇団雌猫さんの小説をコミック化したもので短編の物語が全部で6話。 地味目な主人公が綺麗になるっていうお決まりパターンかなぁと思って読んだんだけど。 読んだんだけど……!笑 もう世の中の女子とメイク好き男子は絶対読んでほしい! アイプチと出会って変わることのあまりの楽しさにハマり気づいたら厚化粧に。千○ジュニアみたいなすっぴんを見られて彼氏にフラれ