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本にまつわるエッセイや書評を中心に。
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染織を通して「生」と向き合う。ほしおさなえ著『まぼろしを織る』

「生きる理由」と呼べる何かをもっているだろうか。特にない、と答える人もいるかもしれない。一方で、夢や目標などをそう呼ぶ人もいるだろう。生きる理由は人生に不可欠というわけではないが、あると日々が輝き辛い出来事も乗り越えられる存在だ。 だが、必ずしも良い影響を与えるとは限らない。たとえば、生きる理由を自分ではなく他者が決めたことにより、生きづらくなることもある。ほしおさなえさんの、『まぼろしを織る』(ポプラ社)を読んで改めてそう感じた。 本書は、主人公の槐(えんじゅ)が染織を

それぞれの過去が重なり合い、やがてひとつの物語になる。吉田篤弘 著『鯨オーケストラ』

書店でさまざまな本を眺めていると、その黒く品の良い装丁が目に留まった。そして、ページをめくり少しだけ物語の世界に触れた時、「この方が選ぶ言葉がとても好きだ」と感じたのだ。それが、筆者と吉田篤弘氏の物語との出会いであった。 そんな筆者にとって、記念すべき一冊目となった『鯨オーケストラ』(角川春樹事務所)は、声優や朗読など声の仕事を生業にする青年、曽我哲生(そが てつお)の視点で描かれている。ある日、担当する深夜のラジオ番組で、17歳の時にモデルをした絵が行方知れずになっている