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奪われるモノ④

 誰かに危害を加えるのには
 それなりの理由がある事が多い。

 そしてその理由が
 “寂しさ”だったり“哀しみ”だったり“怒り”だったりする。

 それを人は、“負の感情”と呼んだり
 “マイナスエネルギー”と呼んだりするのだが

 しかし結局は
 そういう想いを抱えるだけの、何らかの出来事が過去にあったのだ。

 そこを見ずして、ただ相手を非難する事など、誰でも出来る容易たやすいこと。

 しかし、裏側の成り立ち(理由)があることをってしまったからには
 そこから目を背ける事なんて、そうそう簡単には出来はしないのだ…。

 レイさんと一緒にいたい。

 大夫たゆうの心からの望みが、この口から溢れ出た。

 そのための方法…大夫たゆうのエネルギーを奪っている石を、別の石に移し変えること。
 そしてその石を、レイさんに持っていてもらうこと。

 アキが、大夫たゆうと根気強く話したお陰で、どうやら解決策が見えてきた。
 後は、レイさんにそれをお願いするだけである。

 しかしこのまま、ただ大夫たゆうのその望みを叶えるだけでは、治らない。
 誰もにとって最善であるべきが、本当の解決なのだから。

 アキは、
 分かった
 と大夫たゆうに向かってうなずいたが、次には

「けどね、それを叶えてあげるためには、条件があるよ」

 と、大夫たゆうに言った。

『…何…?』

 大夫たゆうが少し不安そうな目をする。
 そんな大夫たゆうに向かって、アキは言葉を選ぶようにゆっくりと話す。

「まずは、ね。
 レイさんが、大夫たゆうと一緒でも良いかどうか、聞いてみないと分からないし
 代わりの石を、レイさんに準備してもらわないといけない。
 これらをね、レイさんが承諾してくれることが、まず1つ目の条件ね」

 そうアキが言うと、大夫たゆうは、うん、とうなずく。
 それを見て、更に

「2つ目は…大夫たゆうは、レイさんが幸せに生きれるよう、何かお手伝いしてあげれるかな?」

 と続けた。
 大夫たゆうはすぐに

『それはもちろんだよ』

 と嬉しそうに答えた。
 そして、

『オレはね、一緒に、静かに、暮らしたいだけなんだ』

 と言った。
 やはり大夫たゆうは、本来悪意を持つだけのエネルギー体ではない。
 日々が穏やかに過ごせることが幸せなのだと、ちゃんと分かっている。

「じゃあ、レイさんと一緒にいる、他のヒカリエネルギー体たちと仲良く協力して、レイさんのためにお手伝い出来るね?」

 と、念を押すようにアキが言うと…
 大夫たゆうはまた、不安そうな顔をしてから、

『それは…無理だよ…』 

 と言う。

「え、何で」

 とアキが聞くと、

『だって…アイツら、オレのことを嫌ってるもの…』

 と項垂うなだれた。
 しかし、アキはそんな大夫たゆう

「大丈夫。嫌ってるのは、今までの大夫たゆうのことでしょ?
 レイさんの幸せのためにだったら、みんな喜んで、一緒にしてくれるよ」

 と笑って見せた。

『…そうかな?』
「そうだよ」
『お前がアイツらに言ってくれるの?』
「言っとく、言っとくよ」

 大夫たゆうの不安気な反応に、アキは少し笑って返事をする。
 大夫たゆうは少し迷ったようだったが、

『オレはね、独りだったから、ずっと…他のヤツと一緒にする、って言うのが、よく分からないけど…レイと一緒にいられるなら…
 うん、いいよ…やってみる』

 不安は完全には拭えない様子ではあったが、大夫たゆうは決心したようだった。

 大夫たゆうのその言葉にアキは、よし、とうなずいた。

 その後大夫たゆうに、レイさんに買ってもらう石はどのような物が良いのか教えてもらい、ようやく話がまとまった。
 最後にアキが

「じゃあ、俺からレイさんにお願いしてみるから。少し待っててね」

 と大夫たゆうに言うと、大夫たゆうは少しだけ口篭くちごもってから、

『それまでオレはどうしてたらいい?』

 と聞いてきた。
 素直に、どうしたらよいのか、と思ったのだろう。

「レイさんには、大夫たゆうに話しかけてもらうように、俺からお願いするから、向こうに帰って大人しく待っていてくれるかな?」

 アキは優しく大夫たゆうに言った。
 大夫たゆうは、

『分かった…大人しくしてる…』

 と静かに答えた。
 ここへ来た時は、随分と捻くれた感じだったのが、今はまるで違う。
 なんとも可愛らしい反応だ。
 そして大夫たゆうは、

『早くしてね。
 オレの力は、ちょっとずつだけどどんどん使われてるから…』

 そう言って、

 お願いだよ
 絶対だよ

 と、アキに念を押す。
 アキが、分かったよ、と返事をすると、大夫たゆうは、じゃあね、と言って向こうへ帰って行った。

 その後は全てが速かった。

 アキはすぐに、レイさんに大夫たゆうの事を話した。
 すると、レイさんは大夫たゆうと一緒にいる事を快く承諾してくれて、しかも

「私、元々パワーストーン好きなんです」

 と言って、大夫たゆうの為に新たに石を購入すると決めてくれたのだ。

 こんな話をして、正直、受け入れてもらえるか、微妙なところだと思っていたから、こんなにすんなり受け入れてもらえたことに、私は心から感動した。

 石だって、タダ無料ではない。
 大夫たゆうが指定した石は、そこそこの金額がする種類の物だったし、
 何ならこちらで買って、レイさんに贈ろうか、とも考えたくらいだ。

 アキが事と次第を話したすぐ後に、レイさんは、ネットで見つけた幾つか条件に当てはまる石をピックアップして、写真を送ってくれた。

 私はそれを見ながら十花とうかを呼んで、1つ選んでもらい、それをレイさんに伝える。
 すると、10分もしないうちに、
 購入しました!
 と、メッセージが届いた。 

 なんて行動力のある人だろう。
 エネルギー体が好むはずだ、と妙に納得してしまった。

 それから数日後。

 レイさんの元に購入した石が届いた、ということで、私たちはネット上で話をすることにした。
 十花とうかが、石が届いたら直接レイさんに話がしたい、と言ったからだ。

「こんにちは」
「いつもお世話になってます」

 と挨拶を交わしてから、早々に石の話に入る。

「これです」

 そう言って、レイさんが見せてくれた石は…
もちろん、画面越しではあったが、写真で見たものより透明感があって、とても綺麗だった。
 キラキラと、静かな輝きがある。

 十花とうかを呼ぶと、彼はレイさんに石を画面上に映るように持ってもらい、私も体を使って何やらぶつぶつと、呪文のような、神道の祝詞のりとのようなものを唱え始める。
 自分の口から出てはいるのだが、何を言っているのかは、さっぱり分からない。
 決して日本語ではないし、どこか他の国の言葉にも聞こえない。
 私たちはコレを“宇宙語”と呼んでいる。

 その宇宙語で、十花とうかが私の口と、手を使って儀式のようなものをひとしきりして

『いいよ』

 と言って、いつもの十花とうかに戻った。
 そして、

大夫たゆうのエネルギーを奪ってる石から、手元のその石に大夫たゆうのエネルギーが流れるようにしたから。
 で、徐々に、元の石を介さずに、直接その石に大夫たゆうのエネルギーが送られてくるようにしておいたから』

 と説明した。
 少し混乱しそうだが、要は今、目の前にあるレイさんが購入した石と、大夫たゆうとを繋いだ、という事だ。
 横で聞いてたアキが

「お前…すごいな」

 と感心したように十花とうかに言うと

『オレはすごいよ』

 ふふん、と少し自慢げに返事をした。

 これで、レイさんの周りについては、一先ひとまず落ち着くだろう。
 その後、十花とうかは石の今後の扱いについて、レイさんに説明する。

『何か聞きたいこと、ある?』

 話し終えた十花とうかがレイさんに問うと、

「あのう、実は」

 と、レイさんが思い出したように口を開いた。

「実は、その…大夫たゆうがエネルギーを取られている石、っていうのに、何となく心当たりがあって…」

 そう言うと、2枚の写真をアキのスマホに送ってくれた。
 早速、その写真を開いてみる。

 1枚目は、どこかの学校の校庭らしき隅っこに、黒いゴツゴツした石が写っていて
 2枚目は、どこかの民家の塀の中から、上の部分だけ見えてる、庭によく見る石の写真だった。
 どちらも、1mくらいの高さがある石だ。

 私は、1枚目の写真をアキが開いた時に
 ジリジリとした、嫌な感覚を覚えた。
 その画像を閉じると、すう、とそれが引いて無くなる。

 1枚目の方かな…
 そう思っていると、アキが

十花とうか、これどっち?」

 と聞いた。
 するとすぐさま

『1枚目の方だね』

 と十花とうかが答える。
 やっぱりそうか、と思っていると、レイさんも

「やっぱりそうなんだ…」

 と、ぽつりと呟いた。
 どうやら1枚目の石は、何でこんなところに置いてあるんだろう、と思うような場所にあるのだそうだ。
 退かした方が邪魔にならないのになぁ、と前々から思っていたし

「…何だか、妙に気になってたんですよね…」

 と言った。
 その妙な気配を、レイさんもずっと感じていたようだった。

 十花とうか
 それじゃ、またね
 と帰って行った。
 続けて私たちも

「それでは、よろしくお願いします」

 と、挨拶を交わし、ネットの接続を切った。
 アキは、ふう、と大きく息を吐き出すと、

「これで大夫たゆうも、良くなるといいね…」

 と独り言のように呟いた。
 私も、そうだね、と答えて、ほ、と息をついた。

・つづく・

*実話を元にしたフィクションです。
*エンターテイメントとしてお楽しみください。
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