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生き霊②

 その日。
 私はアキと2人で、パソコンの前に並んで座っていた。
 目の前の画面には、映像が3カットに分かれていて、上下にバランス良く、きちんと並んで映し出されている。
 そのうちの1つは、私とアキだ。

「それで?お腹具合は治ったの?」

 画面の向こうの女性が話しかけた。

「一応…あの後、すぐ治ったんだけど…」

 アキはその女性に、そう答えた。
 先日の、アキに憑いていた“生き霊”の話だ。

「それ、誰だろうねぇ?
 話からすると、
 私たちの知ってる人みたいだけど…」

 もう1人の女性が、そう言った。
 この時の“話”というのは、“生き霊がいる”と教えてくれた、エネルギー体から聞いた話のことだ。
 2人は、アキと同様、個人で仕事をしている人たちである。
 経営というのは、やる側が全ての責任を自分で追わなければならない。
 しかし、いつも1人でやっていくにはとても大変な訳で
 こうやって、同じ環境に身を置く者同士で集まっていろんな話をすることで、スムーズに物事を進めていく。
 一緒に、切磋琢磨して高みを目指す。
 そのような、アキの“仲間”の人たちだ。

「ナミさん、視える?」

 そう、1人が言うと

「うーん…あの人がなんとなく…
 視えるかな…」

 と、ナミと呼ばれた女性が言って
 ミエさんは?
 と、たずね返すと、

「あー…私もそうかなー、って思った」

 と、もう1人の女性が答える。
 そう。
 こんな話は、誰彼構わず、出来るものではない。
 この面子でなければ、こんな話にはならなかっただろう。
 2人とも、いわゆる“視える”人たちなのだ。
 その上、見えない世界に対して多くの知識があり
 沢山の経験をしてきた2人だ。
 だからこそ、私とアキが安心して、“口貸し”の能力も包み隠さず話が出来る。
 数少ない友人の内の2人だ。

「え、あの人?」

 アキがそれを聞いて、苦笑いをする。
 …その言い方からして、どうやら心当たりがあるらしい。

「うーん、多分ね」

 そう言われて、
 そうかー
 とアキは頭を抱えた。

「…今度、
 カウンセリングを頼まれてるんだけど」

 ポツリ、アキが呟く。
 それを聞いて、

「あー…」

 と、2人は画面の向こう側で、苦笑している。

「それだから、余計じゃない?」

 ナミさんが、笑いながら言う。

「どういうこと?」

 アキが聞くと、

「それ、それ、って思ってるから。向こうが。
 あの方、念(エネルギー)が強そうだし」

 と、ナミさんが言った。

「そんなもんなの?」
「まぁ、ね」

 全く納得がいっていない様子で、アキは不満気に言うと、
 ナミさんが軽く答える。

「何とかならんの?」

 そういうアキに、

「こればっかりは、ねぇ」

 と、私がアキに言ったように、ミエさんが言う。

「来たら、浄化は出来るんだけど…」

 そう、ミエさんが言葉を続けようとした時。
 急に私は、自分の口元が、ムズムズし出したのに気がついた。
 何か来た。
 そう思った次の瞬間

『知らない人がいるー』

 私の口が、勝手に動く。

「えっ」

 急な出現に、アキがこちらを見る。

「来た?」
「生き霊が?」

 画面の向こうの2人が、同時に声を上げた。
 アキが、

「知らない人…って、この前と同じ人?」

 とたずねると、

『うん!』

 と、それは元気よく答えた。

「わ、本当だ」

 ミエさんが、少し驚いたように言った。
 そして次の瞬間
 ねえ、アキさん
 と、とても嫌そうにして

「お腹に穴、空けられてるよ…」

 と、言った。

「えっ?どういうこと?
 お腹に穴?穴が空いてる?って?」

 初めての事態に、アキも動揺を隠せない。
 ミエさんが、
 なんかねー
 と、嫌そうにしながら話を続ける。

「赤い…エネルギーで…お腹にね、
 穴を空けて、入ってるんだよ、今」

 それ以外に、説明の仕様がない。
 ミエさんは暗にそう言って、うーん、と唸った。

「あー、それで、お腹の調子が悪くなるんだ!」

 と、ナミさんが言った。
 それを聞いて、
 なるほど!
 と私は思う。

「…そんな事、あるの…?」

 恐る恐るアキが聞くので

「…あるみたいだねぇ」

 と、私も独り言のように答えた。
 すると、

「とってあげようか?」

 ミエさんが言った。
 そんな、救世主のような申し出に、アキは喜びつつも

「とれるの?」

 と聞く。
 ミエさんは

「とる、というか
 まあ、浄化してあげれば、帰って行かれるから」

 と言ってくれた。

「お願いします!」

 アキが喜びの声を上げる。
 ミエさんは
 じゃあ、ちょっと待ってね
 と言って、画面から姿を外した。
 その時、生き霊の存在を教えてくれた者は、まだ私の顔を使っていて
 アキの肩越しに何かを視ているようだった。
 そして、ミエさんの姿が見えなくなって、すぐ
 私の顔は
 おー…
 というような表情に変わる。
 何かに驚いている様子だった。
 私の目線は、アキのすぐ肩越しから、次第に遠くへと移されていく。
 そして、
 ぱっ
 と明るい笑顔になって、
 アキにニッコリと笑って見せた。

「どう?」

 ミエさんの声が、スピーカーから再び聞こえてきて、その姿が映し出される。
 私の顔が、パソコン画面とアキの顔を代わる代わる見ながら
 うんうん
 と、嬉しそうに頷いてみせている。

「いなくなったみたい」

 その、エネルギー体の嬉しそうな様子に、アキが返事をした。

「…うん、変なモノ、視えなくなった」

 ナミさんが言って、
 ミエさんも

「うん、いないね」

 と言った。

「良かったー」

 ホッとして、アキが大きく息を漏らした。

「いやー、今のはちょっと…
 困った感じになってたよ」

 ミエさんそう言った。
 そしてやはり

「浄化はしたけど…
 多分、またくると思う」

 と言って、表情を曇らせた。

「どうしたらいいの〜?」

 アキが2人に、
 何かいい方法ないの?
 と聞く。
 すると
 ナミさんが、何か思いついた様子でニコッと笑って

「そうだ!
 アキさん、ミエさんに弟子入りしたら
 どう?」

 と言った。
 それを聞いて私は
 その手があるか。
 とアキの顔を見た。
 アキは、というと

「えっ…とそれは…どうかな…」

 と、目を泳がせていた…。
 私は、アキの心が読めた気がして、クスッと笑ってしまった。
 オレに、そんな能力(霊能力)は、無い。
 そう信じている人だから、
 いくらミエさんに弟子入りしたとしても、きっと身につける事は出来はしない、
 そんな風に思っているに違いなかった。
 しかし、そんなアキをよそに、

「大丈夫、大丈夫!
 ちゃんと教えてあげるから」
「そうだよー。
 そうしたら、自分で対処できるように、
 なるよー」

 と、2人は盛り上がっていた。
 ははは…
 アキは力なく笑って
 いやー、無理だと思うよ…
 と、弱々しい抵抗を見せていた。

 そしてその夜
 私は夢を見た。

つづく

*実話を元にしたフィクションです♡
*エンターテイメントとしてお楽しみください♪
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