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生き霊①

 今日もとにかく賑やかである。
 アキと一緒にいる時間になると、アイツらは次から次へと話しかけてくる。
 もちろん、アイツらは私の口を使って喋るし、その相手をするのは私のパートナーのアキだ。
 まともに話があるヤツはほとんどいない。
 ただ、私たちと“関わりたい”とやって来るヤツばかりだから
 私たちにとってはどうでもよい情報ばかり話しては、『じゃあねー』と言って、さっさといなくなってしまう。
 だが、そんな中

『知らない人がいるー』

 急に、そう言い出した者がいた。
 もちろん、私たちには、何のことか分からない。
 こういう時、それが何を意味するものなのか、まとを得た質問して、答えを引き出すことになる。
 アキが

「知らない人…って…宇宙にいる存在?」

 と聞く。
 その者は
 ううん
 と首を横に振る。

「地球の者?」

 この質問にも
 ううん
 と首を横に振った。
 (ちなみにこの時の「地球の者」とは、自然から生まれたエネルギー体(精霊)のこと)

「…人間?」

 アキがそう聞くと
 うん
 と大きく頷いた。

「人間?亡くなってる人?」

 と聞くと
 ううん
 と、ソレは首を横に振った。

「え?生きてる人?生き霊?」

 少し驚いて、アキが言う。
 なぜなら
 “生き霊”というモノがここにいる、という話は、この時が初めてだったからだ。
 だから、私も驚いた。
 ソレは
 うんうん
 と、何度も首を縦に振ってみせた。

「え、どこにいるの?」

 という問いに、返ってきた答えを聞いてアキは少し動揺を見せる。
 なぜならそれが

『アキの後ろー』

 というものだったからだ。

「…え、と、ちょっと待って」

 一瞬、絶句して、頭の中を整理するように

「え、それって…
 オレに憑いてるってこと?生き霊が?」

 と、確かめながら聞く。
 ソレは
 うん
 と頷いた。

「マジか」

 と、アキは顔をひきつらせて呟いた。
 あらー。
 アキと同時に、私も声を洩らして苦笑した。
 正直、“カウンセラー”という仕事柄、アキは他人からの念(感情)を飛ばされやすい。
 飛ばされていると気づかないだけで、以前から普通にある事だと、私は知っていた。
 それに…その念が、私の方まで飛び火することはこれまで何度もあって、正直、私にとっても迷惑以外のなにものでもない。
 ただ、私はそれを、あまりアキに言ったりはしなかった。だから、アキにとっては初めての事態である。
 アキは半笑いで、頭を抱えながら、まるで独り言のように言った。

「道理で、
 急にお腹具合がおかしくなったんか…」  

 私は思わず…爆笑した。
 確かに、“憑かれる”といろんなところが痛くなったり、気分が悪くなったりする。
 自分がそうなるのは、いつも通りだけど
 まさかアキにも、そんなに顕著に出ることがあるなんて…
 よっぽどだし、ちょっと、面白い。

「え、何、お腹、痛いの?」

 私が笑いながら聞くと

「急にねー、おかしくなって…実はお昼過ぎ頃から、何回もトイレに行ってるんだよね…」

 と、少し情けない声で言う。

「そうなんだ。それは…ちょっと困ったね」

 笑ってしまったけれど…これは、何とかしないといけないな。
 そう私が思った時、アキが私に向かって

「ユウ、何とかしてよ〜」

 と嘆いた。
 私は、うーん、と少し考えた。
 生き霊、ってヤツは、本当に面倒くさいもので。
 たとえ今、ここに来ている生き霊を浄化した、あるいは本人に返したとしても、相手が生きている以上、再びやって来る。
 本人には“飛ばしている”という自覚が無いし、
 例え誰かに「生き霊、飛んでるよ!」と注意されたところで、簡単に止める事は難しい。(まあ、そんな事を注意する人は、皆無だろうが)
 何故なら、人は常に何かを考える生き物だからだ。
 考える、という事は、結果的に、相手の人に念(エネルギー)を送る行為となり
 そして人は「考えるな」と思えば思うほど、考えてしまう生き物だからだ。

「…という事で
 相手が、アキ以外に気になる相手ができるか
 あるいはその人(生き霊の本体)が、他人が気にならないくらい幸せな人生を手に入れてくれる事を、願うしかないんだけど…」

 アキの“何とかして”の、私の答えを聞いて

「そんな〜」

 と、ちょっと情けない声を出す。

「まあ、だけど」

 私は続けて

「効くかどうかは分からないけど…
 ちょっと、やってみようか」

 そう言った。
 アキは

「はい!お願いします!」

 と、体を起こし、そのまま正座をする形で改まった。

「じゃあ…目を瞑って」
「はい」
「深呼吸してー」
「すー…はー…すー…はー…」
「…はい。今一番に思い浮かぶ人は、いますかー?」
「…いた」
「その人は、どんな顔をしてますか?」
「…何か…険しい顔してる…」
「では…その人を、キラキラした光で、包んであげましょー。キラキラ、させてくださいー」
「…え?キラキラ?…キラキラ…」
「綺麗な光ですよー。美しい、光ですよー」
「…出来た」
「今、その人の表情は、どんなですか?」
「…柔らかくなった」

 よし。と心の中で思う。
 さて、仕上げは…

「では、その人とさよならしましょう。バイバイ〜」
「バイバイ〜」

 ふー…。
 2人で大きく息を吐いて、目を開けた。

「…帰っていった?」

 私がそうアキに聞くと、

「帰っていかれた!」

 と、嬉しそうに言った。
 あまり良くないエネルギー体(霊体も含む)がやってきた時、私はコレをやる。
 すると不思議な事に、エネルギー体の発する質が、良いものに変わるのだ。
 生き霊に対して、使えるかどうか分からなかったが…。

『いなくなったー』

 生き霊の存在を教えてくれた者がそう言っているので、どうやら効いたようだ。
 それを聞いて、アキも安堵している…のだが。

「…けど、まあ」

 喜んでいるところ、水を差すようで悪いけれど。

「また、その人、来るからね」

 そう告げると、

「えー」

 とアキは、嫌そうな顔をした。
 それはそうだ。
 その度に、お腹を壊していたのでは、たまったものじゃない。

「とにかく、これでお腹具合が治ったのであれば、次また痛くなったら、さっきのをやってみてよ」

 私は、こう言うしかなかった。
 それを聞いて、
 分かったよ…
 とアキは力無く言った。
 今後も、このような事はあるだろう。
 もうそろそろ、アキも自分で何とかする方法を、身につけなければならない時期が来たのかもしれない。
 そんな私の思いをよそに、

「ちょっと!誰か!何とか出来るヤツ!
 いないの?」

 と周囲に向かって叫んでいた。
 これは…周りにいる、エネルギー体たちに言っているようだ。
 しかし…

「反応、ないね」

 私の口は、ピクリとも動かない。
 時計を見ると、そこそこいい時間になっている。
 仕方がない。その日はもう、寝る準備に取り掛かるしかなさそうだ。
 アキのお腹の具合の方は、というと。
 次の日聞いてみると、あれ以降治ったようだった。
 そして…
 何故、お腹が痛くなったのか。
 その理由が、後日判明することになる。

つづく

*実話を元にしたフィクションです♡
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