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生き霊③

 そしてその夜
 私は夢を見た。
 小さな光る人型の者たちが、横に幾人か並んでいる。
 それらは両腕を、前にいっぱいに伸ばしていて、その手の先からは光が溢れ出ていた。
 まるでみんなでそうやって、光の壁を作っているようだ。
 それを見て
 私は思っていた。
 ああ、これは、我が家に来るあの子たち(エネルギー体たち)が
 アキのお腹の穴を塞いでくれているのだ
 と。
 これで塞がったー。
 これで、大丈夫ー。
 夢の中で、そんな言葉が響いていた。

「生き霊、どうやらあの後
 ナミさんところにも行ったらしいよ」
「え、そうなの?」
「ナミさんもお腹具合、悪くなったって」
「そうかー」

 オンラインで、生き霊の話をしてから数日後、私たち2人はそんな会話を交わした。

「大丈夫かな」

 とアキは少し心配そうにしたが、

「ナミさんだから、大丈夫だよ」

 と私は返した。
 それを聞いて、アキは
 そりゃそうか
 と安心したように笑った。
 ナミさんは、マイナスエネルギーへの対処法をちゃんと知っている。
 私たちが心配するまでもないのだ。
 一方
 我が家の方は、というと
 アキの望んだ
 “生き霊を何とか出来るやつ”
 が、どうやら来てくれたみたいである。
 2、3日前辺りから、急に

『食べていい?』

 と聞いてくる存在が現れた。
 何を?
 と聞くと、

『知らない人』

 と言う。
 それを聞いてアキは大いに喜んで、

「いいよ!食べて食べて」

 と言っている。
 ソイツはそれを聞いて、とても嬉しそうに

『いただきます』

 と言って、いなくなるのだ。
 それが、ここのところ毎日、1日1回はやって来る。
 あんまり多いので、
 そんなモノ(生き霊)食べて、その存在は大丈夫なのかな?
 と心配になったが、
 私がそれを思ったすぐ後に
 海外には、悪いエネルギーを食べて浄化して、土に還す女神がいる
 という情報をキャッチした。
 こういう、偶然にしてはタイムリー過ぎる情報の時は、私への必要なメッセージであることが多いので
 我が家にやって来る、生き霊を食べる存在は、女神ではないにしても
 多分そういう系統の存在であるのだろうな、と私は思って、気にしないことにした。
 しかしそうなると
 今度気にかかるのは、逆に生き霊を飛ばしている方の人だ。
 こんなにエネルギーを食べられて、(本体の)身体具合は大丈夫なんだろうか。弱ったり、していないだろうか
 と。
 何のかんのと、気がかりは無くならないが
 とりあえず
 今のところアキのお腹具合は順調のようで、それだけは少し安心していられそうだ。

 それにしても
 その生き霊を飛ばす人、ある意味すごいな
 と、私は密かに思っていた。
 よっぽど強いエネルギーの持ち主ではないと、こうも次から次へと生き霊を飛ばすのは難しい。
 私の横にいたアキは、何やら考えていると思ったら、

「…ねえ。そんなに簡単に
 生き霊って飛ばせるの?」

 と、まるで独り言のように聞いてきた。
 私は、そうだなー、と少し考えて、答えた。

「…少し相手の事を思ったくらいじゃ
 普通は飛ばないよ。簡単にはね。
 ただ…」
「ただ?」
「そもそも持ってるエネルギーが強い人は、どうしても飛ばしやすいのかもしれないね」
「そうなの?」

 私の説明に驚いた顔をして、アキが声を上げた。
 私は、うん、と頷いてから

「生き霊っていうのは
 相手に対してかなり強い感情(念)を抱いてないと、飛ばないのよ、本当は。
 対象を、強く、強く想うことで、相手に想いの“念”が飛ばされる。
 それがいわゆる、“生き霊”ってやつ。
 けど、そもそも持っているエネルギーが強い、ってことは、想いの感情も強く持てる、ってことだから
 人よりも…なんていうのかな、想いの強さが無意識に強いから、飛ばしやすい、って感じかな」

 という風な説明をした。
 そうなのか…
 と、それを聞いて、アキは複雑な顔をした。
 この顔は
 “理論上、理解はできるけど
 簡単に全て受け入れるのは難しい”
 といった顔だ。
 そんなアキの様子に気が付いてはいたが
 この話を受け入れる、入れないはアキの自由なので、放置することにして

「だからさ」

 と、私は思っている事を口にした。

「もったいないんだよねー。
 せっかく、そんなに強いエネルギー持ってるのに、それをマイナスな方へ使ってるの」

 私の言葉を聞いて、アキの意識がこちらへ戻る。
 私の顔を見て、

「どういうこと?」

 と聞いてくる。
 アキの興味を引けたようで、私は少し満足して話を続けた。

「つまりさ
 その、“想い”が
 相手の幸せを願うものなら“祈り”になるし
 不幸を願えば“呪い”になる。
 持ってるエネルギーの種類は違うかもしれないけど、
 “想い”というエネルギーには、変わらないからね」

 そこまで言うと、アキは
 ああ、
 と頷いて、

「…ということは…」

 と、先へと話を促す。
 この説明で、私が最終的に何を言いたいのか分かるところは、さすがアキだ、と思ってしまう。

「うん、そう。
 その人の想いのエネルギー、
 つまり“念”の力を、ポジティブな方に使えば、
 大きくて強い“祈り”になるわけ」

 だから、と続けようとすると
 先にアキが、じゃあさ、と口を開いて

「その人がポジティブに使ってくれれば、他人のために役立つようになる、ってこと?」

 と言った。
 私は

「そういうこと」

 と答えた。
 それはすごいな。
 そう呟きながらも、アキは

「そうなったらさ、オレもお腹、壊さなくなるよね」

 と言うので、

「ま、結果そゆことだね」

 と私は笑って答えた。
 アキも、少し笑ってみせたが、すぐに憂鬱な顔になって、

「…それには、どうしたらいいんかな?」

 と言った。
 現実、アキが生き霊のせいでお腹を壊したのは事実で、今後同じことにならないとも限らない。
 私も、それがアキにとって辛いことと分かっているだけに
 出来れば、早く何とかしてあげたいのだが…
 残念ながら、その解決方法は、1つしかなく、そして周りの人間が出来ることなんて、限られている。

「…その人を、導いてあげるしかないね」

 縁あって、アキとその人と、繋がったのだ。
 おそらく、その人の心は、何かしらの理由で苦しいのだろう。
 そういった人に、その苦しみや悲しみから抜け出せるためのヒントを提供すること。
 そういう仕事を、アキ自身がこれからもやっていくのなら
 自分で対処出来るようにならなければ。
 きっとこれは、アキ自身のためなのだろう。
 私はそう理解していた。


「そうか…」

 難しいな。
 そんな思いも少し醸し出しながら、アキは呟いた。
 私は、アキの気持ちがこれ以上暗くならない様に

「でも、どう頑張っても無理、ってなったら
 やめても(離れても)いいと思うよ」

 と笑いながら言った。
 そう。無理することはない。
 出来るならやればいい
 それくらいの軽い気持ちで相対することも、
また学びの1つである。

「うーん、分かった…」

 そう言いながら、それでもどうしたものか、と思いあぐねている様子のアキの背中を
 私はポンポンと叩いて立ち上がると

「お風呂、入れてくるね」

 とその場を後にした。
 心の中で
 ファイト
 と呟きながら。

『生き霊』おわり

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