見出し画像

奪われるモノ⑤

 あれから何日経っただろうか。

 私は1人、車を運転して移動しながら
 そういえば
 と、大夫たゆうの事を思い出していた。
 あの、レイさんが見せてくれた石の煌めきを脳裏に浮かべたり、
 大夫たゆうはどうしているかな、などと、1人考えていた。

 すると。
 急に口の辺りに力が入り、モゴモゴとする。
 これは…何者かが、私の口を使おうとしている感覚だ。
 私は大夫たゆうの事を考えるのを止め、その何者かに口を動かす許可を出す。
 途端に、

『オレはすごく良いよ』

 と動いた。

 すごく良い?何が?
 と、一瞬思ったが、

「そう。良かったなら、良かったね」

 と私は返した。
 また、話を聞いて欲しいヒカリ目に見えないエネルギー体がやって来た。
 それくらいな気持ちでの対応である。

『みんなともね、ちゃんと上手にしてるから』

 などなど。
 そんな事を私の口は、私の返事を待たずにペラペラと喋り出す。
 それを聞きながら…
 私はそれを聞きながら、あれ?と思う。
 これは、もしかして…

「…ねえ、もしかして…君、大夫たゆう?」

 名前を口に出すと
 うん
 と頷いた。

 気が付かなかった。
 なにせ、今感じているエネルギーはとても穏やかで、あの時の大夫たゆうとはまるで違っているから…。

「自由に移動出来るようになったんだね」

 私がそう言うと、

『ううん、違うよ』

 と首を横に振る。
 それから、

十花とうかに手伝ってもらってる』

 と言った。
 どうやら、大夫たゆうは私に報告をしたくて、十花とうかにここへ繋いでもらったようだ。

 私は
 なるほど
 と理解した。

 急に、何で彼の事を思い出したのかと思ったら…
 どうやら大夫たゆうの方からの、アクセスだったようだ。

 今来ている存在が大夫たゆうと分かるまで、まあまあいい加減な聞き方をしていたから、彼が何を話していたのか…さっぱり思い出せない。

 私はもう一度、ちゃんと大夫たゆうの状況を知るべく

「あれから、困るようなことはない?」

 と聞いた。
 大夫たゆう

『ないよ』

 と、嬉しそうに答える。
 それは良かった
 私はそう思った。

『レイと一緒にいられて、本当に嬉しい』

 大夫たゆうは独り言のように、穏やかにそう言った。
 うん、そうだね
 と…答えたけれども

「けどね」

 大夫たゆうに今一度、しっかりと伝えておかねばならない。

「レイさんは人間で、いつか必ずお別れをしないといけないことを、忘れないでね」

 私がそう言うと…

『…うん、分かってる…」

 少し間をおいて、大夫たゆうが答える。
 寂しそうにする大夫たゆうに、私は更に言葉を続けた。

「今、あなたのエネルギーは、石と繋がっているけれども
 その繋がりは、徐々に解かれていくようにしてあるからね」

 私がそう伝えると、大夫たゆう
 え?
 と戸惑ったように動きが止まる。

「あなたのエネルギーが、石に取られなくなる、ってこと」

 噛み砕いて説明してみたが、それでも何やら気が抜けたようにしていたので、私は更に

「レイさんがこの世から旅立つ前に、あなたは何にも縛られず、自由になる、ってことよ」

 と伝えてみた。

 そう。
 私はあの時、十花とうかに、そのようになるように・・・・・・・・・・、お願いしておいたのだ。
 レイさんに限らず、私だって、アキだって、人間である以上、地球から去らねばならない時が来る。
 それは、大夫たゆうがまた独りぼっちになってしまう、という事を指している。
 それでは、本当の解決にはならない。
 だから私は、そうならないよう、大夫たゆうに「自由」になってもらおう、と考えたのだ。

「何にも縛られず、自由になって…
 それからは、あなたがあなたの意思で、誰かの手助けをしたり、側にいたい人のところに、いるようにするんだよ」

 そう伝えると

『自由に…』

 そう呟いて、しばらくポカーン、としていたようだったが、

「分かった?」

私がそう聞くと、

 大夫たゆうのエネルギーが、ふわー、と広がって、軽くなっていく。
 そして、

『そうする。そうするよ』

 と、大夫たゆうは言った。
 大夫たゆうの喜びが、私に伝わってきて、胸がいっぱいになって、涙が出てくる。
 どうやら私の意図は、ちゃんと大夫たゆうに伝わったようだ。

『ありがとう。ありがとう』

 何度もそう言う大夫たゆうのエネルギーは、それまでの穏やかさに加えて、力強さを私は感じた。
 その、しっかりとした様子に私は安心して、

「レイさんを、よろしく頼むね」

 と伝えた。

『分かった。任せて』

 大夫たゆうは、こっくり、と頷くと、

『またね』

 と言って、あちらへ帰っていった。

 私は、ふう、と一息つく。
 そして
 良かったなぁ
 と、感慨深く、しみじみと思っていた。

 その時。
 カバンの中から、ピロリン、と電子音が鳴る。
 何かメッセージが届いた音だ。
 丁度目的地に着いた私は、駐車場に車を止め、カバンの中からスマホを取り出す。
 誰からのメッセージだろう。
 そう思ってスマホの画面を開き、メッセージのアイコンをタップする。
 すると…

「わ、レイさんからだ」

 少し驚いて、独り言が漏れた。
 先程丁度、大夫たゆうと話していた直後に、レイからのメッセージとか…
 そのシンクロに驚きながら、私は届いたメッセージを開いてみる。
 そこには

“今、大夫たゆうの石を、この様に置いています。これで大丈夫かな”

 という短い文書と共に、1枚の写真が貼り付けてある。
 どれどれ、とその写真をタップした瞬間

 ぶわっ

 と、大きなエネルギーが、私を襲った。

「わっ」

 と思わず声が出てしまう。
 写真には、棚の上に、観葉植物や素敵な絵などが整えて置かれていて
 その一角に、先日見せてもらった石が、静かな光を放ってそこに映っていた。
 しかし、そういった物理的な情報がまともに認識出来ないほど、大きなエネルギーがこの写真から溢れ出していた。
 それは…
 まごうことなき、喜びのエネルギーだ。

 嬉しい
 嬉しい
 嬉しい
 幸せ…

 そんな想いが満ち満ちている。

「これは…すごい」

 圧倒されて、私はまた呟いていた。
 私はしばらく、そのエネルギーを感じていたが
 は、
 と我に返って、スマホの画面に指を走らせた。
 そして、

大夫たゆうが、とても喜んでいるみたいです。すごく、良いと思います”

 レイさんへの返事を書き込む。
 レイさんにも、大夫たゆうの喜びが伝わるのを願って…

「さて」

 そうして、私はスマホの画面を閉じる。
 今日の夕飯は何にしよう。
 そんな事を考えながら、幸せな気持ちで車から降りて歩き出した。

・おわり・

*実話を元にしたフィクションです。
*エンターテイメントとしてお楽しみください。
*実際の個人名、団体名は使用しておりません。

リアル活動情報はこちら↓から
スピリチュアルステーション*naruse

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?