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電子レンジで下着を乾かそうとした話

 読み終えた後にもうこいつのフォロー外そうかなって思いたくなるような記事を書きます。思わず頷いてしまうような深い話やいい話は一切出てきません。あしからずご了承くださいませ。

 わたしが大学に入学してひとり暮らしをはじめてからひと月ほどたったころの話。

 わたしは大学に入学して間もない頃に入ったサークルの先輩から紹介されて、小さなフレンチのビストロでアルバイトをはじめた。そのアルバイトにもようやく慣れてきた頃のことだった。

 アルバイトに行く前にシャワーを浴びた。そしてシャワーを終えて、さて着替えようとしたときにきれいな下着がないことに気がついた。

 みっともない話だけれど、わたしは一言で言うとだらしがない。洗濯物もいつも溜めてばかりいた。だからいざ着替えようとかタオルを使おうとかすると、洗濯を済ませて乾かしたものがないという事態が頻繁にあった。そして今回も部屋の中をどんだけさがしてもいま脱ぎ捨てたものか、それともまだ干している最中の乾いていないものしかない。

 わたしはしばらく思案した。でもゆっくり思案することががゆるされるほどの猶予はない。

 わたしは思い切ってまだ乾いていない下着をつかみとるとそれを身につけてみた。あまりの気持ち悪さにいまからアルバイトに行くという気合もいっきに萎えた。でもせっかく綺麗にした身体に脱ぎ捨てた下着をつけていくのも嫌だった。そうするぐらいならいっそ下着を着けずにバイトに行こうかと一瞬だけ考えたが、さすがにそれはちょっとと思い直した。

 乾いていない下着をドライヤーで乾かすにはもう時間がない。そして突如わたしは閃いた。湿っている下着を電子レンジで乾かせばいいんだと。

 レンジにそんなものいれること自体がもうなんだかな、なのだが「やっべ、ウチって天才ちゃうマジで」とかなんとか呟きながらレンジの中に下着を放り込んだ。1200wで1分。これぐらいで十分乾くだろうと思った。そしてスタートボタンをピッ。

 わたしはレンジの中の下着もすぐに乾くだろうと思いハダカで部屋の中をうろうろしていたがそのうちに焦げ臭いにおいがしてきたことに気が付いた。そして突然バン!という激しい音が部屋の中に響いた。

 えっ、と驚いて何が起きたんだろうと思いながら電子レンジに近づいてみると、なんとレンジの中でブラジャーのホックからバチッバチッ!と火花が散って生地の部分がちろちろと燃えて煙をふいているではありませんか。

 まずい、火事になっちゃう!とわたしはあせったが、人間はこういう時ってどうしたらいいか分からなくなってしまうものなのだろう。わたしはレンジの前でしばらく固まってしまった。

 「上京区の火災現場の遺体の身元は判明したのか」
 「はい、名前は斎藤優希、女。年齢は18歳。市内の大学に通う学生です」
 「死因はなんだ。事件性はあるのか」
 「死因は一酸化炭素中毒で、外傷なし。着衣を着ていませんでしたが暴行の形跡はありません」
 「火元は」
 「はい、キッチンの電子レンジの中にあった女性用下着とみられていて」
 「女性用下着?」
 「はい、女性用下着です。おそらくレンジで乾かそうとしたのか」
 「えっ、なにそれ。そいつ馬鹿じゃねぇの」
 「まあ、Z世代ですから」
 
 こんなことになってしまうかもしれない、なんていう想像をしたりもしたが、それどころではない。なんとかしなければ火事になってしまうかもしれないと慌てた。後になって思えば下着はいきおいよく燃えあがっていたわけではないので、そんなに慌てなくても落ち着いて扉を開けてつまみ出してシンクに放り投げるだけでよかったし、ほっておいてもすぐに消えたかもしれない。

 わたしは思い切ってレンジの扉を開けると燻ぶっている下着を箸でつまんでシンクに放り込んで、蛇口をひねって水をかけた。水にぬれた下着から一瞬だけ煙が上がってあとには焦げ臭いいやなにおいが漂った。

 結局わたしはまだ乾いていない下着を身に着けてバイトに行った。コンビニで下着を買おうかとも思ったがその頃のわたしは貧乏だったのでそんな出費をするだけの余裕はなかった。

 湿った下着があまりにも気持ち悪くて、肌にきつく当たるところがふやけてヒリヒリと痛んだ。そんな状態でみじめでしみったれた顔をして猫背になって働いているとオーナーが心配して「どうした?もう腹がへったのか」といってクロックムッシュをつくってくれた。そうじゃないんだけどなぁとわたしは思ったがオーナーがつくってくれたクロックムッシュは美味しかったし、オーナーは優しかった。
 

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