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Faireの事例から見る小売店向けB2Bコマース

こんにちは、ジェネシア・ベンチャーズの河野です。

今回はY CombinatorのグロースファンドYC Continuity FundのAnu HariharanNic DardenneによるReimagining B2B Commerce with Faireというブログををご紹介します。

COVID-19によるEC市場環境の変化

COVID-19によって世界中でEC化が加速しました。米国では、EC化率が2019年末の16%から2020年4月には27%へ上昇しています。生鮮食品ECや電子機器、書籍、酒類などの販売が増加し、アパレルは販売は増えた一方で価格は低下しています。

商品別に見ていくと使い捨て手袋や石鹸などの感染対策グッズやティッシュやトイレットペーパーなどの生活必需品、生鮮食品やフィットネス関連グッズの販売が増加しており、スーツケースやカメラ、水着やフォーマル服など旅行や外出時に利用する商材の販売が減少しています。

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一方で、B2Bコマースについてはあまり多くのデータが公開されていません。米国のB2Bコマース市場は16兆ドルにも及びますが、EC化率はわずか4%であり、まだまだ大きなEC化の余地が残されています。

B2Bコマースの普及における課題として下記の2点が挙げられます。
(1) 小規模のブランド、メーカーの多くはITリテラシーが低く、オンラインでのリーチが難しいこと
(2) B2Bの購買取引は複雑(支払サイト、請求書、在庫管理など)であり、個社ごとに要件が異なること

業界ごとに異なりますが、総じて今回のCOVID-19によりB2CだけでなくB2Bコマースも成長しています。既存の取引先の製造・販売機能低下や主要な新規商材購入チャネルの展示会やセミナーの開催が難しくなったことで、B2Bのバイヤーはより積極的に新製品の発見・購入をサポートするオンラインプラットフォームを探すようになりました。

独立系小売店向け仕入れマーケットプレイス「Faire」

そうした背景の中で、独立系小売店向け仕入れマーケットプレイスのFaireは年次3140%成長し、創業からたった2年で評価額は500億円を超えています。

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Faireは、地元の独立系小売業者とブランドをつなぐB2Bマーケットプレイスです。独立系小売業者はオフラインのみ、オンラインのみ、オムニチャネルのいずれかで、従業員数100人未満の小売企業を指しています。多くの独立系小売業者(特にオフライン店舗を持つ事業者)は毎年複数の展示会に足を運び、直感に基づいて仕入れの意思決定を行っていました。

Faireはこのプロセスをマーケットプレイスで効率化し、小売業者が何千ものブランドを発見し、オンラインで商品を購入し、新規注文時に無料で返品を受け、運転資金を調達できるようにしました。一方のブランドはFaireで新規顧客を見つけ、既存の顧客ベースを管理し、支払い不能のリスクを軽減することができます。

私たちジェネシア・ベンチャーズは、日本と東南アジアで複数のB2Bコマースのスタートアップへ投資させて頂いています。上記で記載したようにB2Bコマース(特に中小規模の事業者向け)はITリテラシーの低さとリーチの難しさ、購買取引の複雑性などの要因によってオンライン化が十分に進んできませんでしたが、モバイルの普及や各産業のDX化の機運の高まり、そしてCOVID-19の影響により、今後10年間で各業界バーティカルで大きく成長するB2Bコマースプラットフォームが出現すると考えています。

原文ではFaireの事業背景や成長モデルについて詳細に説明していますが、本稿では特に印象的だったポイントをかいつまんでご紹介します。

1. Faire創業の背景(独立系小売企業の時代)

Faire創業の背景には、AmazonをはじめとするB2Cコマースが小売全体におけるシェアを拡大し続ける世界において、独立系小売企業は生き残るだけでなく、成功を収めることができること、そして独立系小売企業は売上成長と業務効率化を実現するソリューションを必要としているというインサイトがありました。

米国の小売業(ギフト、家庭用品、食料品、薬局用品、アパレル、化粧品など)は、2017年に3.3兆ドルの売上で、独立系小売業者はそのうち7,520億ドル(全体の23%)を占めました。これは、2012年に独立系小売業者が7,050億ドルの売上を上げていた時よりも増加しています。

書籍市場を例に挙げると、アマゾンをはじめとするB2Cコマースの成長により、2011年にボーダーズが倒産し、バーンズ&ノーブルはピーク時の2008年の726店舗から2018年には630店舗にまで事業縮小している一方で、米国の独立系書店の数は、2009年の1,600店から2018年には2,500店へと49%増加しています。

個人的にこれらのデータは衝撃でした。日本では大規模店舗やAmazonなどのB2Cコマースが成長する中で、中小規模店舗(独立系小売企業)は減少し、商店街の衰退を招いています。

しかし、米国においてはB2Cコマースによる悪影響を受けているのは都市の一等地に店舗を構えながら、Amazonやウォルマートと類似した商材を取り扱い、価格競争に陥ってしまった百貨店や中規模以上のチェーン型小売店であり、地域に根ざしてアマゾンやウォルマートで購入できない独自の商品を販売している独立系小売業者はむしろ繁栄しています。

2. 独立系小売業の成長要因

Harvard Business Schoolの論文では、独立系小売業の成長の3つの要因として(1)コミュニティ、(2)キュレーション、(3)ローカルイベントを挙げており、今回のCOVID-19によってそこに新たに(4)利便性が加わりました。

それぞれの詳しい内容については原文を読んでみてほしいのですが、印象的だったのは独立系小売業は地域の常連さんへ独自の商品提案をしたり、地域イベントを開催するなどして、地域の消費者を獲得し、地域の人が集まる場となることでAmazonや大規模店舗に対する独自の価値を提供していることです。

ECや倉庫型などの大規模店舗が広がり、安価で良質な商品へのアクセスは容易になりましたが、その一方で人々はセレンディピティや人との繋がりを感じられる購買体験を求めているのかもしれません。

3. 郊外への移住トレンド

Brookings Institutionのデータによると、米国ではCOVID-19以前から郊外への移住が進んでいたようです。郊外の年間成長率は2010年から2017年の間に増加し、都市部の成長率は低下しています。

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今後リモートワークの普及に伴い、郊外への移住がさらに加速すると予想され、郊外の独立系小売業者が果たす役割は大きくなると思われます。

この変化の背景には都市部の不動産価格の上昇や所得格差の拡大など様々な要因があると考えられます。日本は少子高齢化や人口減少などの条件が異なることもあり、米国とは逆に地方圏でも都市回帰が進んでいます

4. B2Bコマースのバイラル性とネットワーク効果

Faireの事業モデルの強さの1つにバイラル性があります。

Faireはブランドに対して既存の小売業者との受発注サービス「Faire Direct」を無料で提供しており、ブランドは単一のプラットフォームで新規・既存顧客や受発注を管理できるため、積極的に既存の小売業者にFaireに紹介しています。小売業者はFaireを利用することで、無料返品、60日間の支払いサイト、配送料の優遇などのメリットを得ることができるため、既存の取引先のブランドへFaireを紹介します。

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このバイラル性により、Faireはネットワーク効果の強化サイクルを実現しています。

より多くのデマンドサイド(小売店)とサプライサイド(ブランド)を集約することで、小売業者は仕入れ先候補のブランドが増加し、ブランドはより多くの小売業者にアクセスできるようになり、双方に対する提供価値が高まります。Faireはすでに10,000のブランドと80,000の小売業者をプラットフォームに登録しており、今後さらに小売業者とブランドが増加し、販売データが蓄積されることで、Faireは双方に対してより精度の高いレコメンドが可能になります。

まとめ

米国でFaireが成長している理由として、独立系小売業者の成長や郊外移住の増加などの市場環境と、B2Bコマースのバイラル性とネットワーク効果を持っていることをご紹介しました。

米国だけではなく、グローバルでB2Bコマーススタートアップは成長しています。

インドの小売店向けB2BコマースUdaanはブランドと小売店のマーケットプレイスで、20日以内の返品と運転資金の融資サービスを提供し、小売店の在庫リスクを軽減しています。生鮮食品のB2Bコマースでは中国のMeicaiやコロンビアのFrubana、ベトナムのKAMEREO(ジェネシア・ベンチャーズ支援先)などがレストランや小売店向けのサプライチェーンを構築しています。

FaireとUdaanはマーケットプレイスであり、商品のディスカバリーと無料返品や支払いサイト、ファイナンスサービスなどにより小売業者の在庫リスクを低減しています。一方、Meicaiは顧客のレストランや食糧雑貨店に対して生鮮食品の品質を維持するため、生鮮食品のサプライチェーン全体を管理しています。このように、各産業ごとに異なる商品管理、在庫融資、納期、ファイナンスなどの問題を解決する必要があります。

また、米国のFaireとインドのUdaanでは対象とする小売事業者の属性も大きく異なります。Faireはセレクトショップなどの独立系小売事業者が主なターゲットですが、Udaanは地域のパパママストアをターゲットとしています。

ジェネシア・ベンチャーズの支援先ではベトナムでB2B医薬品マーケットプレイスを提供するBuyMed(thuocsi)、日本の建設現場・職人向けアプリ助太刀も材料・工具の販売や建機のリースサービスの提供を予定しています。

他にもB2Bコマースでは工業製品や化学薬品、医療機器や輸送機器、オフィス用品や介護用具など様々な産業バーティカルにチャンスがあると考えています。B2Bマーケットプレイスでの起業を考えられている方がいらっしゃいましたら、是非ディスカッションTwitterなどでDMお願いします。

原文ではFaireの無料返品や60日間の支払いターム、配送効率化などのバリュープロポジションや、COVID-19下でFaireが新たにローンチした地域の独立系小売店B2Cコマースの「Neighborhood」、ライブストリーミングやデジタル展示会サービスなどについても詳しく述べられていますので気になる方は是非読んでみてください。

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