見出し画像

経口摂取が大事と聞き、肌寒い秋を感じて遊びたくなった話

福祉の現場で働いている人から、「経口摂取が大事だ」という話を聞いた。
経口摂取とは食べ物や薬を口から摂り入れることで、高齢になると食べ物を飲み込む力が弱くなるために難しくなるようだ。それでも生きる活力を得るために、できるかぎり経口摂取をするのがいいと彼女は言う。

食べ物を目で見て、においをかぎ、舌で感じて食べる。経口摂取は五感を使う行為であり、これによって脳が活性化するらしい。
実際に経口摂取に取り組んだことで、目を開けられるようになったり、「おいしいよ」と話したりすることができるようになった例があるとのこと。

専門的なことは正直よく分からないのだが、五感に刺激を受けることでアンテナの感度を高めることができるのは、日々の暮らしでも同じなんじゃないかと思った。

11月になった。街はハロウィンからクリスマスへと早々に身支度を整えている。10月は東京でバタバタと過ごしており、店の装飾や人の服装が変わりゆくのを目撃しつつも、五感で秋の訪れを感じることができていなかった。

ぼくは1月に会社を辞め、そこからフリーランスとして旅をしながら暮らしている。冬は震えながらも雪に埋もれてたし、春にはピンクや黄色がかわいい花屋さんによく顔を出した。夏には海の近くに住み、花火大会には5回も行った。

10月に東京に帰ってきた。働く環境が変わったこと、駅徒歩2分のホテルに住んだこともあり、外にいてもオフィスビルとスマートフォンばかりを見る日々だった。

経口摂取が大事だという話からそこに着地するのも変な気もするが、ふと「そういえば最近、五感を使っていなかったな」と思ったのだ。
経口摂取をしないと身体機能だけでなく心の機能も低下し、生きる気力がなくなってしまうという。危うく、ぼくもそうなるところだった。

赤や黄に色づいていく木々を見ること、リンリンと鳴く鈴虫やコオロギの声に耳を傾けること、ふわりと風に運ばれる金木犀の香りを見つけること、きのこや秋刀魚などの秋の味覚を味わうこと、ガサガサと落ち葉を踏む感覚を得ること。

五感をあえて使ってあげること。
それがいま、必要なのだと思った。

五感を使うぞ。意気揚々と外に出てみた夕方4時。
まだ日が出ているのに、風が少し肌寒かった。花屋さんをのぞいてみると、
オレンジの花たちが優しい香りとともに佇んでいた。
身近なところで秋を見つけて嬉しくなる。

五感に刺激を受けるとアンテナの感度が高まる。そう思っていたからだろうか。
いつもの帰り道。果物屋さんのりんごがかわいく感じたし、暗くなった空に浮かぶ信号機さえ普段より明るく見えた。

五感で思いっきり秋を味わおう。秋にやりたいことを書き出してみた。

きのこと鮭の炊き込みごはん・秋茄子の味噌汁・さんまの塩焼きの秋フルコースを作る。紅葉している山のなかを自転車で走り回る。新しいアウターを買って、金木犀を探す旅に出る。

秋らしいことがたくさん浮かんできた。
経口摂取が大事と聞いて、肌寒い秋を感じて遊びたくなったという不思議なお話。

記事を書いた人:トラベルクリエイター・Yuto
1998年鹿児島生まれ、鹿児島育ち。大学進学とともに上京し、現在は国内を旅して暮らしている。11月は東京→隠岐→北海道→デンマークの予定。カメラをもって街を歩くのが好き。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?