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ラポール 2:古くて新しい概念 「巻き込まれ」

木之下:さて、これから30回以上に分けて、「巻き込まれ心理ケア」の講義を行います。

この講座は、ユングやフロイトのような、ベイシックな基礎講座とは異なります。
一般心理学を用いた応用理論となります。
1つ異なることは、まだ、誰も論じていない新しい考え方ということです。

:そうなのですか。誰も書いていないのですか?
木之下:調べたところ、著作物はもちろんのこと、インターネットでも語られていません。
円山:本当ですか!
木之下:疑われるのは、少々心外ですが、試しにネットで検索してください。
「巻き込まれる」ということが、心理学的にどういうものか、分かりやすく示している記事を見つけることができません。

:本当にそうなのですか?
(二人ともしばらく検索を行った結果)……はい。一般的な意味はでています…。でも、心理学的な定義ではありません。

木之下:そうですよね。
Weblio辞書で検索した結果、「巻き込まれる」とは、「意図せずに騒動などの渦中の人となる。いやおうなくかかわりを持つ」と定義されています。
普通に使う言葉では、それでかまいません。

しかし、心理分析を行い、その上で対処するとなると、その定義では物足りない。

何が足りないと思いますか?

円山:「巻き込まれる」という言葉は、おぼろげながらなら、雰囲気やイメージを呼び起こすことができるのですが、それを表す端的な言葉が浮かびません。

「巻き込まれ」という事象から起こる結果や感情の分析は、なされているのですが、中核となる、「巻き込まれ」の定義自体がない。そのため、「巻き込まれ」という現象がぼんやりとしかみえない。

:私もそのように感じました。
ブラックホールでは、光が飲み込まれる寸前の場所、事象の地平面まで観察することができます。しかし、その光が一度でもその平面の内側に入ってしまうと、もはや観察は不可能というジレンマと似通っている気がしてなりません。
木之下:ひぇー!
宇宙物理学の話まで持ち出してくるのですか?
この講座は、人文科学だから、難しい数式は扱いませんよ。
:先生、それは、たとえ話です。
それより、先生は、「巻き込まれ」という概念を平面図でとらえたのですか、それとも形のある核として、理解したのですか?

木之下:そうですね。私も、始めは平面図しか思いつきませんでした。
それが、ある時…
:ある時、どうされたのですか?

木之下:私自身が心理的に巻き込まれることがあり、ひどく悩んだことがありました。その巻き込まれて渦中の人になっている過程の中で、どのようにしたら、それが解決できるのかを必死で考えたのです。
:……
必死で考えてナゾが解けたのですか?

木之下:まず私が行ったことは、悩みの事実と現象を整理することでした。

なにが、その悩みの発端となったのか?
何が、その悩みを深くしているのか?
何が、その悩みの解決を邪魔しているのか?

その思索の過程で、「巻き込まれる」という事象の心理学的な意味、あるいは定義が思い浮かんだのです。

円山:その思い浮かんだというのは、理論的に導き出されたのですか?
木之下:いや、実を言うと、「ふと」頭の中にひらめいたのです。
円山:それは、直感ですか?
木之下:ありていに言うと、その通り、直感あるいは、勘です。
:先生、理論家と思ったら、直感派なのですね。意外!

木之下:ハハハ。そうですね。ぼくは、凡人だから。
ただ、科学の歴史をひもとくと、直感から理論が始まることも多いですよね。

ニュートンの万有引力は、リンゴが木が落ちた時に気がついたとか、アルキメデスの原理が、おふろに入っていた時にひらめいたとか。
:なるほど。直感をあなどるなということですね。
木之下:そういうことです。

円山:で、先生は、その思考の中で、何がひらめいたのですか?
木之下:うん。円山君、鋭い質問ですね。

木之下: 直感で降りてきた、「巻き込まれ」の定義と解決策です。これが、このゼミの神髄です。

しかし、そのことを説明する前に、前提条件となるお話をしていかなければなりません。
これは、講義であり、理論講座ですからね。

:えー、もっと説明してください。ケチ!

と反論しました。
しかし、規定時間となったため、一限目は終了となりました。

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考察:「巻き込まれ」は曖昧な概念で、明確な定義がなされていない
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※ 参考文献
ネットで検索した時、「巻き込まれ」に関して研究している論文が散見されます。

論文1  人間看護学研究 2:41−51 (2005)
精神科看護における看護師の「巻き込まれ」体験の構成要素とその関連要因

滋賀県立大学人間看護学部 牧野 耕次 氏著

http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/bitstream/11355/43/1/JHNS%20002%20041.pdf

論文2  人間看護学研究 13:71−59 (2015)
看護における「巻き込まれ」の概念分析

滋賀県立大学人間看護学部 牧野 耕次、甘佐 京子、松本 行弘、富山大学大学院医学薬学研究部 比嘉 勇人、神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部看護学科 山下 真裕子 氏 らの共同論文

http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/bitstream/11355/216/1/JHNS_013_071.pdf

に詳しい論文が掲載されています。
他に、

論文3 精神科看護における看護師の「巻き込まれ」体験の構成要素とその関連要因
牧野 耕次 著
滋賀県立大学人間看護学部

https://ci.nii.ac.jp/naid/110006198568

論文4 看護における「巻き込まれ」の概念分析 人間看護学研究
人間看護学研究 (13), 71-79, 2015-03
滋賀県立大学人間看護学部

https://ci.nii.ac.jp/naid/120005651828

などもあります。


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