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ラポール9:気持ちの噴出と巻き込まれの本質

木之下「助けたい」という気持ちと秘密を共有することは、心理的距離を縮めるということを学びました。
本日は、その「助けたい」という思いが過度に表出した事例を紹介します。極端な例なので、驚かないでくださいね。
:はい。少々のことは気にしません。

木之下:若くてきれいな女性が、気さくな男性と出会いました。美形の男性ではありません。会話をすると心地よく、いつの間にか一緒に暮らすようになりました。

★ここまでで、なにか質問や違和感はありませんか?

:いえ。世間でよくみられる光景です。美女に必ずしも美男子がついているわけでもありません。
円山:日常的に起こる出会いでしょう。
木之下:そうですよね。仮に二人を男性が浩司、女性を咲子と名付けます。二人は、数ヶ月の間、蜜月の日々を送りました。ところが、生活になじんだある日の晩、突然、浩司があわてふためいて、に言い寄りました。

「ヤバイことになってしまった。ヤクザのいる賭場に入り込んで、1000万の借りを作ってしまった。一週間以内にこの金を返さないと、オレの身は、どうなるか分からない」
と必死の形相で訴えます。
「なに言っているのよ!博打の金は払わなくていいはずよ。明日、一緒に警察に行きましょう」
と咲子は返答しました。
「君は、本当の怖さを知らないんだ」と浩司がつぶやきました。

★ここまでの話で感想を述べて下さい。

円山:咲子の言うことは、もっともだと思います。
:そもそも、浩司のいっていることは直感的にあやしい匂いがします。
木之下:では、話の続きに移ります。

翌日、浩司は、頭や腕に包帯を巻いて帰宅します。包帯の多くが赤く染まっています。浩司は、咲子にしがみつきました。
「今度は、殺される。殺されなくても、もっと凄惨な目にあわされる」
そういって、むせび泣きます。それから、咲子の瞳をじっと見つめて、「頼むから、助けくれないか」とつよく迫りました。
「金を借りる算段はできている。印鑑を持って、咲子と一緒に契約書を持っていけばいい」
と告げました。
「契約書って、何?」と不可解に思った咲子は聞き返しました。
浩司は答えました。
「借金を返し終えるまで、ソープで働くという…契約書」
「ふざけないでよ!」と咲子は激怒しました。
浩司は泣きながら、床に額をつけ、くりかえし咲子に懇願しました。

始めは怒りに震えていた咲子も時間が経つにつれ、気持ちが緩んできました。
知らない所に売り飛ばされるわけでもない。同じように生活できる。そう自分を納得させ、契約することにしました。

参照 bonchanさんのブログより改変 http://boo.ameba.jp/room/bonchan0909

★この一連の話を聞いて、どう感じましたか?

:バカじゃないの!包帯の赤色は、着色できますよ!
円山:咲子は、やさしい人なのでしょうか。押しに弱い人なのでしょうか。それとも、愚か者なのでしょうか。
:いずれにしても、ありえない話でしょ!
木之下:そうですね。男の借金と咲子がその借金を返すことに、関連性と義務はありません。返済手段もきわめて妙です。
「風呂に沈める」と言います。ヒモが使う手口です。

円山:そんなことが本当にあるのですか?
木之下:残念ながら、存在します。
ここで、咲子さんが浩司さんの頼みを受け入れた感情を推測してみましょう。
:浩司さんなんて、「さんづけ」しないでください!気分が悪い。
木之下:イヤな話をして、申し訳ない。しかし、依存につながる巻き込まれの問題を考察する時、このような事例は、当たり前に出てくるのです。

あなた方がカウンセラーになって、依存症にからんだクライアントの話を聴く時には、手口は異なっても、理不尽な話が必ず出てきます。そのことは、覚えておいてください。


円山:は…い。
:(ブスッとしている)

木之下:では、大切な質問をします。

★咲子さんは、どういう感情で、契約を引き受けたのでしょうか?

円山:根負けした。
:分からない。情に流される心の弱い人間だった。
木之下:橘さん、機嫌悪いですね。ここ、大事なところです。冷静になってよく考えてみましょう。

咲子さんは、どうして、浩司さんに巻き込まれたのでしょうか?

円山:浩司と親密になったこと。そして、浩司の秘密を知ったこと。
木之下:適切な考察です。前に解説した感情理論が働いています。でも、それだけでしょうか?
円山:浩司に惚れている。浩司なしではいきていけない。
木之下:事例では明らかにされていませんが、ありえる話です。
他にありませんか?
橘さんは、どう思いますか?

浩司が背負うべき責任を咲子が引き受けてしまった。
円山:さすが、橘さん!
木之下:不愉快な話をしたところですが、今、ここで、「巻き込まれ」という現象の核となる部分が姿を現しつつあります。

円山:えっ?そうなのですか!
木之下:はい。もう少し論点をつめていきましょう。
話の続きとして、咲子さんが語った言葉があります。

「私が何とかしてあげないと、この人はダメになってしまう」

思いだしてください。ひとつ前の事例で、真美ちゃんは、健二ちゃんにお弁当を持って通っていましたね。その時、真美ちゃんが、健二ちゃんに抱いていた気持ちをここでもう一度、明記します。

「私が何とかしないと、この人は死んでしまう」

円山:あれ?事例の印象は大きく違うのに、二人の女性は、同じような感情を抱えていたということになりますね。
木之下:よい認識です。
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私が何とかしないと…ダメになってしまう
私が何とかしないと…死んでしまう
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★さて、そう考えることで、二人は、相手の何を引き受けることになりましたか?

円山:責任?
:やらなくていい問題。
木之下:よい回答です。真美ちゃんと咲子さんは、本来、自分と関係のない問題を引き受けたということですね。
:はい。そう考えると理にかないます。
木之下:ここで、「巻き込まれ」の核心が見えてきませんか?
橘、円山:???

木之下:「巻き込まれる」とは、「他人の問題が自分の問題になること
そう総括することで、巻き込まれに関する事象が理解できないでしょうか?
円山:あっ!……
:あ、そうか。それでよかったのか。
木之下:より丁寧に言いかえましょう。

「巻き込まれとは、意図せずして、他人の問題が自分の問題に置き換わっていくこと」

水戸の黄門様だけは、意図して、巻き込まれていますけれどね。
円山:あ、ハハハ。
:なるほど。これが、「巻き込まれ」の本質であり、先生が発見した定義なのですね。
円山:すごくわかりやすいです。
木之下:そう言ってもらえると、話にも力が入ります。

では、次に反対の考察に移ります。
浩司が引き起こした行為を「巻き込み」と言います。
★「巻き込む」とは、どのように定義づけたらよいでしょうか?

:巻き込むとは、自分の問題を人の問題にすりかえていくこと!
木之下:そう!立場が逆転しただけですね。少し修正します。
巻き込むのは、自然に起こる場合と意図的に起こす場合があります。そのことを勘案すると、

巻き込みとは、意図するしないにかかわらず、自分の問題を他人の問題にすりかえていくこと」と定義いたしましょう。

厳密に考える心理学者の間では、異論が出てもおかしくないでしょう。
とはいえ、この定義で考察すると、「巻き込まれ」の概略が理解できて、その後の対策に役立てることができるのです。
これで、曖昧な概念から開放され、一気に論理展開されますよ。

円山:はい。開眼しました。
:この講義では、不快な思いをしましたが、今は、ナゾが氷解しました。
木之下:まずは、定義づけが大切なのです。
それによって、巻き込まれることを防ぐための対応、そして、巻き込まれた後の対処法を考えていくことができます。

次から、巻き込まれた人が、当初とかわって、どのように心理状態が変化して、行動が変わっていくのかを考えてみましょう。

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考察:巻き込まれとは、意図せずして、他人の問題が自分の問題に置き換わっていくこと
巻き込みとは、意図するしないにかかわらず、自分の問題を他人の問題にすりかえていくこと
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