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新横浜市長の記者会見でフリーランスは質問できるのか(10)

 2021年8月30日の山中竹春横浜市長の就任記者会見で、週刊誌やネットメディアの記者、フリーランスが大勢、手を挙げているにもかかわらず、司会の横浜市女性職員が横浜市政記者会(記者クラブ)の記者しか指名しないという事態が発生した。

 しかし、このような「フリーランスとばし」は今に始まったことではない。

 2009年9月に民主党(当時)が政権を取り、一部の公人の記者会見にフリーランスも参加できるようになった。民主党は、野党時代、「記者クラブ制の中で批判があるかもしれないが、記者会見には、どんな方にも入っていただく、オープン性を高めていく必要がある」(同年5月16日の鳩山由紀夫代表の記者会見)などとくり返し、実際、民主党の記者会見にはフリーランスも参加していた。

 ところが、民主党も政権を取ると、予定調和の質疑応答で済む記者クラブ主体の記者会見を望むようになる。フリーランスは自分の専門分野に関する質問を納得いくまで容赦なく投げつけてくる。役人が作ったカンニングペーパーを読み上げるだけでは済まないのだ。

 民主党政権下の「フリーランスとばし」がいかにひどいものだったか。拙著『政務官が汚染水を飲むまで』(インシデンツ)から引用する。2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第1原子力発電所事故のあと、4月25日から開かれるようになった政府と東京電力の共同記者会見が舞台である。

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 6月16日16時30分開始の共同記者会見で、筆者は最前列中央の席に座り、細野補佐官の真ん前で挙手していたが、司会者に指名されたのは18時30分ごろ。警察から東電への天下りの実態を質問したが、同社の松本純一原子力・立地本部長代理は「メモを用意する」として、回答を保留。

 その後、19時前に細野補佐官が公務で退席し、松本本部長代理が「メモが用意できた」として、改めて筆者の質問に答えたのが、記者会見が終わる直前の19時20分すぎ。ここで、松本本部長代理は、警察から東電へ警察官32人が天下りしている事実を明かした。

 6月17日16時30分開始の共同記者会見でも、最初から挙手していた筆者が指名されたのは20時10分すぎ。この間、記者クラブメディアは、1社あたり数人の記者が指名されており、その中には筆者よりあとに挙手した記者も多い。

 あまりにも恣意的な指名の順番なので、筆者は本題の警察官の天下りを質問する前に、細野補佐官を問いただした。

「毎回、フリーランスを最後に指名するが、こういう不公平なやり方は、細野補佐官が指示しているのか、司会者の独断なのか」

 細野補佐官は「もちろん(自分が)指示はしていない。司会者も、そういうつもりはないと思う」と答え、「今後、なるべく公平にやりたい」と約束した。

 しばらく、細野補佐官の約束が守られるか、観察するつもりだ。

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政府と東京電力の共同記者会見で答弁する細野豪志首相補佐官(当時)

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 次回の6月20日の共同記者会見では、私が手を挙げるそぶりを見せるやいなや、司会者が「前の方」と指名してきた。以降、私はすんなりと指名されるようになったが、「フリーランスとばし」の傾向は変わらなかった。

 2012年12月、自民党が政権に復帰すると、「フリーランスとばし」は、まるで国策であるかのように内外に示される。安倍晋三首相(当時)は、同月26日の就任記者会見から2020年2月29日の記者会見まで7年以上も、1人のフリーランスの質問も受けつけなかった。

 しかし、2月29日の記者会見で、司会者の長谷川榮一内閣広報官が「予定しておりました時間を経過いたしましたので、以上をもちまして、記者会見を終わらせていただきます」と述べた直後、フリーランスの江川紹子氏が「まだ質問があります」と食い下がった。長谷川内閣広報官が「予定した時間、だいぶ過ぎております」と重ねて述べ、安倍首相は「はい。ありがとうございました」と立ち去った。

 この対応はネットを中心に大いに批判された。そのため、次回の3月14日の記者会見から最後のほうでフリーランスが1人、指名されるようになった。

 以上、「フリーランスとばし」の実態を見てきた。今や、それが野党系で初当選した山中横浜市長の就任記者会見でも当たり前のように行われるほど定着しているということだ。フリーランスも怒っているが、彼ら彼女らを通じて必要な情報が得られなくなっている市民や国民も怒るべきである。

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