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吉村洋文大阪府知事が「武富士スラップ訴訟」でしたこと

 吉村洋文大阪府知事が武富士の代理人弁護士としてスラップ訴訟に手を染めていたことがクローズアップされています。

 では、そのスラップ訴訟の詳細は、どのようなものだったのでしょうか。

 私が『週刊プレイボーイ』(集英社)2004年3月2日号にまとめた記事があります。

 それを以下に再公表しますので(最小限の加除訂正あり)、吉村知事を擁護する人も批判する人も、正確な事実関係を知ったうえで議論してください。

※スラップ(SLAPP=Strategic Lawsuit Against Public Participation)訴訟とは、勝訴が目的ではなく、相手の言論を封じ込めるのが目的の名誉毀損訴訟。司法制度を悪用するもので、アメリカなどには反スラップ法がある。

訴訟の「放棄」とは

 すでに新聞などで報道されているとおり、消費者金融最大手・武富士が集英社と田中知二本誌編集長、筆者を相手どり、2億円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めていた名誉毀損訴訟(東京地方裁判所民事第15部・宇田川基裁判長)は、2004年2月6日、武富士の「放棄」という手続きにより終了となった。

 通常、民事訴訟は判決が言い渡されたり、和解が成立したりして終了する。

「和解」には、裁判所が関与する訴訟上の和解と、当事者だけで合意に達する裁判外の和解がある。裁判外の和解が成立すると、訴訟は取り下げられる。

 まれに「認諾」という終了の形もある。これは、被告が原告の請求をまるまる認めるもの。原告全面勝訴の判決と同一の効力を持つ。

 さらに、ごくごくまれに「放棄」という終了の形もある。これは、原告が被告の主張(反論)をまるまる認めるもの。被告全面勝訴の判決と同一の効力を持つ。

 最高裁判所が発行する『司法統計年報(平成14年版)』を見ると、第1審地方裁判所における民事訴訟(15万5754件)の終了区分は、

○判決 7万7831件(50.0%)
○和解(訴訟上) 5万1464件(33.0%)
○取り下げ 2万1204件(13.6%)
○認諾 1233件(0.8%)
○放棄 170件(0.1%)
○その他 3852件(2.5%)

 となっている。

「放棄」が1000件に1件の割合なのも当然といえば当然だ。原告が被告の主張(反論)をまるまる認めざるをえなくなるような訴訟は、ふつうなら提起されないし、もし提起されたとすると、「言いがかり」とか「嫌がらせ」などと評価されてもしかたがないからである。

裁判所はカジノなのか

 昨年5月13日、本誌(第22号)は、「完全独占スクープ 警視庁個人情報がいまだに流出している!!」という大見出しで、警察と武富士との癒着を追及しはじめた。

 翌日、武富士は筆者らに5000万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求める民事訴訟を提起。その訴状には、「原告は、警察から上記の秘密資料や犯歴等の秘密情報等を取得した事実、秘密情報等の調査依頼をした事実、警察官に大量のビール券をばらまいた事実、現金を渡すなどした事実等は一切なく、本件記事は、事実無根も甚だしい」と書かれていた。

 しかも、武富士は本誌連載を中止させるため、5月19日、翌日発売予定の第23号に対し、出版等禁止の仮処分を申請した(東京地裁民事第9部)。その申立書には、「全く事実に反した本件記事を掲載したプレイボーイが、5月20日に全国で発売されることが確実となっている」と書かれていた。

 しかし、出版等禁止の仮処分が認められるのは、日本国憲法が保障する「表現の自由」がある以上、極めて例外的だ。集英社は答弁書で「(記事の)内容は真実であり、その掲載目的は公益目的である」と反論。結局、武富士は同日中に仮処分の申請を取り下げた。

 翌日、本誌第23号は、「個人の信用情報が警察に渡されていた!」という大見出しで無事発売された。すると、その翌日、武富士は損害賠償5000万円を追加し、総額1億円とすべく裁判所へ申し立てた。

 その申立書には、「本件記事を読んだ一般読者は、原告は、警察に賄賂を贈ってまで、犯歴等の情報を不正入手し、反対に、警察に顧客情報を不法に提供して警察の便宜を図り、そのような違法行為・不正行為によって、持ちつ持たれつの関係を築いているものとの印象を受ける(後略)。そのような事実は全くなく、本件記事は、全く事実に反するものである」と書かれていた。

 本誌第24号(5月27日発売)では、「個人の信用情報が武富士から警察キャリアの天下り先(民間調査会社)へ流出していた!!」という大見出しで追及が続いた。

 翌日、武富士は損害賠償5000万円を追加し、総額1億5000万円とすべく裁判所へ申し立てた。その申立書には、「原告が、顧客の信用情報を、違法・不正に警察キャリアの天下り先の民間調査会社に渡し、原告の顧客の信用情報が流出して覗かれ放題となっていること、原告がこれにより警察との不正な癒着関係を築いていることを摘示するものであり、全く事実に反するものである」と書かれていた。

 筆者が警察と武富士との癒着を追及するキッカケは、昨年2月、中川一博元同社法務課長(2002年9月まで在職)と出会い、内部資料つきで証言を得たからだ。それまでも、武富士および武井保雄同社会長(当時)は批判的な報道に対し、名誉毀損という理由で高額の損害賠償請求訴訟を連発していた。中川元法務課長は自分の業務体験もまじえ、こう語った。

「報道が事実かどうかは関係ありません。『高額の損害賠償請求訴訟を続けていれば、いずれ批判する者はいなくなる』というのが武井の考えですから」

 武井会長のギャンブル好きは有名だ。海外のカジノで1度に数億円負けることもあるという。前述のとおり、武富士は本誌記事が1回掲載されるたび、5000万円ずつ損害賠償を上積みしてきた。いかにもギャンブラー的な発想だが、本誌も筆者も降りることはない。

金額空欄の和解案を提示

 昨年7月下旬、警視庁と警察庁は、

①警察官14名が武富士から約1000枚のビール券を受け取っていた。
②そのうち武田三郎警視正(当時)ら3名は武富士へ40件以上の犯歴等の個人情報を漏洩していた。
③武田警視正は武富士から約850件の信用情報を提供されていた。

 と発表し、武田警視正ら3名は処分された。

 すぐさま本誌第33号(7月29日発売)は、「これでもシラを切るのか!? 武富士=警察 悪の癒着」という大見出しで追及した。武富士は名誉毀損の理由づけに苦労したのか、2カ月近くも経ってから(9月18日)、損害賠償5000万円を追加し、総額2億円とすべく裁判所へ申し立てた。

 その申立書には、「記事は、警視庁が調査結果と処分を発表したことを報じる体裁は一応とられているが、『武富士=警察 悪の癒着』という極めて過激な表現で、しかも半ページもの誌面を用いた大見出しにより、読者に強いインパクトを与えることは疑いない」とあり、結論として「原告を殊更に『悪』にしたてようという意図が窺われる」と書かれていた。

 11月7日まで4回の法廷が開かれたものの、原告と被告が1回ずつ、それぞれの主張を書面で提出しただけ。証人尋問などの山場はまだまだ先に思われた。

 ところが、12月2日、武井会長が電気通信事業法違反(盗聴)容疑で逮捕されると、裁判も動きが急になった。12月19日、5回目の法廷で武富士は和解を申し入れてきたのである。勝ち目のない名誉毀損訴訟を続けることは、武井会長の保釈や執行猶予にも影響すると考えたのではないか。

 今年1月23日、第1回の和解協議で武富士は「和解金を支払う」と表明した。一方、集英社と筆者は「この訴訟は武富士が言論弾圧の目的で起こしたもの。まず公式な謝罪を求める」と述べた。裁判所も武富士に謝罪を検討するよう促した。

 2月6日、第2回の和解協議で武富士は「本件和解金として、金□□□□万円(□は1字分の空白)の支払義務があることを認める」と冒頭に記載された和解案を提示した。だが、公式な謝罪については言及なし。とことんカネで解決するのがこの会社の流儀らしい。

 集英社と筆者は「武富士はほかにも言論弾圧と見られる訴訟をいくつも起こしている。今後、これらにどう対応するかも示してほしい」と要求した。武富士が本誌のような大手メディアとは和解し、中小メディアとは争う方針ではないかと疑われたからである。そのような策略に乗れば、報道機関として笑いものだ。

 裁判所が次回の和解協議の日程を入れようとしたとき、武富士の熊谷信太郎弁護士が「和解は難しいようなので、請求を放棄します」と宣告した。これは前述のとおり、武富士の全面敗北を意味する。そうはいっても、司法制度が傍若無人なカネ持ちにより、もてあそばれているかのようで後味が悪かった。

 我々が改めてジャーナリズムの力を示さなければ、武富士が心から反省し、変革していくことはないであろう。

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1967年2月9日、東京生まれ。 大学在学中、自動車雑誌『ニューモデルマガジンX』でジャーナリストとしてデビュー。 警察官、検察官、裁判官、自衛官などの不正を追及し続けている。 2014年、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」から「100人の報道のヒーロー」として表彰された。

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