原告が「記者クラブ制度は憲法違反」との書面を提出

 2024年7月1日10時から東京地裁第526号法廷で、「記者クラブいらない訴訟」の第6回口頭弁論が開かれる。

 それに先立ち、原告(三宅勝久、寺澤有)は6月28日付で「記者クラブ制度は憲法違反」などとする準備書面を東京地裁へ提出した(準備書面の作成は原告代理人の山下幸夫弁護士)。

 今回の準備書面では、「記者クラブいらない訴訟」で何が争われているのかが大変わかりやすくまとめられている。そして、原告が「記者クラブいらない訴訟」を提起するに至った理由や心情も理解していただけるだろう。

 以下、準備書面の主要な部分を転載する。はたして、これに被告(共同通信社、前田晋吾氏、久納宏之氏)は、どう答え、東京地裁は、どのような訴訟指揮を行うのであろうか。また、読者のみなさんの考え方も、ぜひ聞きたいものである。

1 鹿児島県知事には記者会見を開く義務があり、フリーランスには記者会見に参加する権利があること

 平成22年(2010年)10月1日、フリーランスの参加が初めて認められた国家公安委員長の記者会見で、原告・寺澤有と岡崎トミ子国家公安委員長(当時)との間で、以下の質疑応答があった。

寺澤 記者会見についてお伺いするんですけれども、今日は我々フリーランスの人間が2人来ていますが、かつて小沢一郎さんが新生党の代表幹事だったときに、「記者会見はサービスだ」ということを言って物議を醸して、あと警察庁も従前、国家公安委員長の記者会見は便宜供与だという立場を表明しているんですが、岡崎大臣は今日ここに立たれて記者会見をされているというのは、やはりサービスだとか、便宜供与だというようなお立場で記者会見をやられているのか、それとも記者会見というのはある程度の地位・役職以上の公務員であり政治家というのは、国民の知る権利にこたえるために、これは義務的に行っているんだという立場なのか、これはどちらなのかを、今日はっきり最初に聞いておきたいんですけれども。

岡崎 もちろん国民の知る権利のために、しっかりと情報を可能な限り公開していくということが重要だと考えているのが基本です。

寺澤 そうすると、確認ですけれども、記者会見がサービスですとか、便宜供与だという立場を取らないということですか。

岡崎 サービスとか便宜供与、私は余りそういうふうに考えたことがありません。基本的に国民の知る権利として、可能な限りですよ、できるものに関しては、情報はしっかりと伝えていくというのが仕事だと思っています。

寺澤 そうすると、国務大臣の義務で記者会見をやっているということでいいんですか。

岡崎 そうですね。

 憲法21条は国民の知る権利を保障している。それに応えるため、国務大臣には記者会見を開く義務があり、フリーランスには記者会見に参加する権利があるということを岡崎委員長は示している。

 これは、地方公共団体の首長である鹿児島県知事の記者会見にもあてはまることである。そもそも、塩田康一知事は知事選挙の候補者のとき、「知事の記者会見でフリーランスの質問を認める」と明言している。知事選挙では、当時、現職の知事だった三反園訓候補も、同候補の先代の知事だった伊藤祐一郎候補も、従前、知事の記者会見でフリーランスの質問を認めなかった姿勢を改めることを表明していた。

 以上の事情を踏まえれば、鹿児島県知事の記者会見を鹿児島県政記者クラブ「青潮会」が主催しているか否かとは関係なく、鹿児島県知事が公人の義務として開く記者会見に、原告らがフリーランスの権利として参加しようとしたところ、被告らが威力をもって妨害したこと(以下「本件妨害行為」という。)は、憲法14条1項に違反し、かつ、憲法21条1項に違反して違憲であり、憲法の間接適用により、被告前田晋吾及び同久納宏之には共同不法行為(民法719条)、被告共同通信社には使用者責任(民法715条)が成立する。

 以下、詳述する。

2 本件妨害行為は憲法14条1項に違反し、共同不法行為が成立すること

 伊藤祐一郎元鹿児島県知事は「記者会見等の場において、フリーランスであるか否かという区別を行うことに合理的な理由はないと考えます」と述べている。旧来、憲法14条1項は不合理な区別を禁止した条項だと解されている。その旧来の解釈からしても、本件妨害行為が憲法違反であり、憲法の間接適用により共同不法行為が成立することは明らかである。

 近年、憲法14条1項は「差別されない権利」を保障するものだとする学説が現れている。それは以下のような理由からである。

「不合理でない区別とは、要するにそれについて正当な目的を構成でき、かつ、その目的に適合的な区別である。ここでは、その区別と関連性を有する正当な目的を構成できるかという点に関心が置かれ、その区別が差別的意図に基づくものか、その区別に差別助長機能があるか、は検討の対象外にされている。要するに、不合理な区別の禁止は、〈非差別原則〉や〈差別されない権利〉の保障とは異なる規範である。もちろん、正当な目的と関連性のない区別を排除することは重要であり、不合理な区別は憲法上禁止されるべきである。しかし、憲法14条1項の保障内容がそれに尽きると解するのは相当でなく、同項はそれと併せて〈非差別原則〉と〈差別されない権利〉を保障していると解すべきであろう」(木村草太東京都立大学教授の「表現内容規制と平等条項――自由権から〈差別されない権利〉へ」と題する論文から引用)

 令和5年(2023年)6月28日に東京高裁で言い渡された判決は「差別されない権利」を認め、法的救済の範囲を広げている。

 端的にいえば、従前、被告らが鹿児島県知事の記者会見へフリーランスを参加させなかったり、質問させなかったり、参加・質問させるにあたり、「記者としての実績」を要求したりしてきたのは、「フリーランスは自分たち会社員より劣る」という差別的意図からであるとしか考えられない。

「記者としての実績」についていえば、被告らは、社団法人日本新聞協会会員社、社団法人日本民間放送連盟会員社、社団法人日本雑誌協会会員社、社団法人日本専門新聞協会会員社、日本インターネット報道協会法人会員社、社団法人日本外国特派員協会会員社が発行する媒体に記事等を定期的、過去半年以内に2回程度の署名記事を目安、に提供していることとする。すなわち、大手(中央)メディアに、定期的に、署名記事を執筆している記者という意味である。

 このような記者は、フリーランスばかりでなく、上記の企業・団体に所属する記者でも多くはない。本件妨害行為のさなか、原告寺澤有が、被告久納宏之に対し、「過去半年で、あなたは署名記事を1回しか書いていない」と、被告共同通信社の記事のデータベースで検索した久納の署名記事の一覧を示すと、被告久納は「署名記事は、なかなか載らない」と認めている(「カメラを止めるな! 7月28日(前編)」、1:59:17~)。

 被告らが、「報道目的での会見参加を証明するための『半年以内に2回の署名記事』」を要求しているのは、「フリーランスは自分たち会社員より劣る」という差別的意図から来ていると考えられ、これは憲法14条1項が保障する「差別されない権利」の侵害である。

 もとより、会社員記者でも容易にクリアできない「半年以内に2回の署名記事」という条件をフリーランスにのみ課すことは不合理な区別である。

 よって、このような不当な要求や条件に基づく本件妨害行為は、憲法14条1項違反を免れず、憲法の間接適用により、被告前田及び同久納には共同不法行為(民法719条)、被告共同通信社には使用者責任(民法715条)が成立する。

 記者クラブ制度によるフリーランス差別は、アパルトヘイトを想起させる。本件妨害行為が収録されている動画(「カメラを止めるな! 7月28日(前編)」)を視聴したフリーランスの林克明は、「何十年も前に見たテレビ番組のタイトルを突然、思い出した」として、「『ジェーン・ピットマン/ある黒人の生涯』と記者クラブ」と題する記事をネットメディア『デジタル鹿砦社通信』で公開した。その中で、林は「アパルトヘイト(隔離政策)が記者クラブ制度の根幹にあると認識しない限り、問題は解決しない」と指摘している。念のためにいうと、アパルトヘイトには法的根拠があったが、記者クラブ制度には法的根拠はない。

 本件妨害行為がアパルトヘイトと通底していることを如実に示す場面が2つある。

【場面1】「カメラを止めるな! 7月28日(前編)」、2:36:22~)

被告・前田晋吾 参加しようと思えば、できたじゃないですか、寺澤さん。

寺澤 「できたじゃないですか」って、どういうこと……。

前田 ちゃんと手続きとれば。

寺澤 だから、それは、首相官邸のね、会見の話も、きのう(鹿児島県知事の記者会見を考える市民集会で)したけど、「出版社から(首相官邸の会見に参加する条件の)推薦状もらえ」って言われてね。推薦状取ってくるのなんか簡単です。だけど、それはおかしいって言ってるわけ。システムとして。記者会見出るのに(出版社の推薦状が必要というのは)。

前田 「おかしい」って言うなら、その前の時点で……。

寺澤 今回の(青潮会が要求する手続き)も、おんなじですよ。

前田 前の時点で、「そういうルールはおかしいから……」。

寺澤 だって、明らかにおかしいでしょ、これ。

前田 しかも、少しずつっていうか、今回の話し合いでも、「(フリーランスを記者会見に)入れない」っていうことを主張した会社は、どこもないです。ちゃんと手続きをとってもらえるなら、(記者会見を)オープンにして、(フリーランスにも記者会見に)入ってもらおうと。質問をしてもらおうって、やってるんですよ。

寺澤 じゃ、なんで、そんな10年前のね、フリー(ランス)を(記者会見に)入れないためにつくったね、中央省庁でつくったの(参加条件)、今ごろ引いてきて、(記者会見を)やるのかって言ってんですよ。

前田 それを、変えたんです、今回。(フリーランスが記者会見に)入りやすく(しかし、新旧の「青潮会主催の記者会見に関する規約」を比較しても、フリーランスの参加条件は変わらない)。

旧「青潮会主催の記者会見に関する規約」
新「青潮会主催の記者会見に関する規約」

寺澤 それ(新「青潮会主催の記者会見に関する規約」)、だって、私、見てないけど。

前田 田舎の県庁(記者)クラブだから、こう、一足飛びには、その、理想的な……。ボクだって、その、記者クラブに弊害があるってことは認めてますけども。前向きなほうに、前向きなほうにって、今回もやってるわけですから、そこはわかって……。本当に会見で知事の……、記事を書きたいと思うんなら、むしろ、その目的のために手続きをとっていただければよかったじゃないですか。

寺澤 だから、その手続きがね、この手続きは多くのフリーランスの人にとって、私が(記者会見に)入れればいい話じゃないんだから、多くのフリーランスの人にとって不利益だから、私は、この手続きは認めませんよって言ってるんだから。自分が(記者会見に)入れればいいんだったら、そんな(手続き)、やってますよ。

【場面2】「カメラを止めるな! 7月28日(前編)」、2:38:32~)

寺澤 なんで、ちなみに、ちょっと、私、ききたい。なんで、この日経の方ね、こんな頑張っちゃってんのかってのがちょっと不思議なんですよ。

久保田泰司(日本経済新聞社鹿児島支局長) 報道責任者ですから。

寺澤 報道責任者?

久保田 私が(鹿児島)支局長なんで……。

寺澤 それで、記者クラブ利権を守るために。

久保田 記者クラブ利権を開放しようと思ってるんですよ。

寺澤 利権を(開放しようと思っていて)、それで(それにもかかわらず)、このバリケードを張ってる。

久保田 あなたのおっしゃる、カギかっこ付きの「利権」を。

 アパルトヘイトの下で、日本人は、差別される側の有色人種に属していながら、「名誉白人」という待遇を与えられ、目先の利益だけ見て、差別を助長する態度であった。

 原告らは、記者クラブから「名誉白人」のような待遇を与えられ、記者クラブが官公署から独占的、排他的に与えられている記者室や情報という「利権」のおすそわけを受けることを拒否した。それでは、自分たちが差別する側に立ってしまうからである。

 本件妨害行為は、原告らだけではなく、原告らと同様、塩田康一鹿児島県知事の就任記者会見を取材できなかった訴外有村眞由美、訴外橋本恵美、「後ろ髪を引かれる思いで会見場に入って質問をした」(畠山理仁の「7月12日投開票の鹿児島知事選挙をきっかけに、定例記者会見のあり方が変わった!」と題する記事から引用)訴外畠山理仁ほか、すべてのフリーランスに対する差別を包含するものであったことを裁判所は正しく理解するべきである。

3 本件妨害行為は憲法21条1項に違反し、憲法の間接適用により不法行為が成立すること

 長年、記者クラブに所属する特定の通信社や新聞社、テレビ局などの記者と、週刊誌やネットメディア、海外メディアの記者、フリーランスとの間で、記者会見をはじめとする公的情報へのアクセスにおいて、「差」があることが問題とされてきた。

 この「差」について、憲法学者の松井茂記大阪大学名誉教授は「表現・報道・取材に関する理由による差別については、憲法二一条自身がきわめて厳格な平等を要求していると考えておこう」(『マス・メディア法入門』・260頁)としたうえで、「日本では記者クラブ制度が定着しており、政府による情報提供はこの記者クラブを通してなされるのが常であるが、記者クラブ所属のメディア以外には同様の情報を提供しないことも、憲法二一条から見てすこぶる疑問とせざるをえない」(同263頁)と述べている。

 そして、「官公庁が、マス・メディアへの情報提供の場をもつことは別に悪いことではない。むしろそれによって多くの国民に必要な情報が提供されることを考えれば、マス・メディアへの情報提供を積極的に促進すべきであるといえる。問題は、それが一部の限られたマス・メディアにしか提供されないという点、そしてそこに情報操作の危険性や情報統制の危険性があるという点である。それゆえ、記者クラブ制度は廃止すべきである」(『マス・メディアの表現の自由』・249頁)と述べている。

 すなわち、記者クラブ制度自体が憲法21条1項違反を疑われるものであるということである。そして、記者クラブ制度に起因する本件妨害行為も同じく憲法21条1項違反を疑われるものといえる。

 従前、裁判所は「取材の自由は、いわゆる消極的自由、すなわち報道機関の取材行為に国家機関が介入することからの自由を意味するものであり、この取材の自由から国に対して一定の行為を請求する積極的な権利まで当然に導き出されるものではない」(「第1次記者クラブ訴訟」の東京地裁判決。『裁判所が考える「報道の自由」』・42~43頁)としてきた。

 しかしながら、前述のように、国務大臣自身が「記者会見は国務大臣の義務」と明言している現代においては、既にその考え方は「時代遅れ」といわざるをえない。

 もっとも、「取材の自由は、いわゆる消極的自由」とする立場からしても、本件妨害行為が憲法21条1項に違反することは明らかだ。被告らが自認するように「記者会見の会場の前に立ち並んで、原告らが会場に入ることを阻止した」(被告の答弁書3頁)からである。

 松井教授は記者クラブの行為について、以下のように位置づけている。

「記者クラブは記者の親睦団体であるから、除名自体を憲法違反と争うことは困難と考えられている。しかし、記者クラブが実際には政府による情報提供と結びついて重要な役割を果たしていること、政府の建物内にクラブが認められさまざまな便宜を受けていることから、記者クラブからの除名は、政府の行為として、直接憲法の制約を受けていると考えるべきであろう」(『マス・メディア法入門』・262頁)

 本件訴訟は、形式上は私人間の争いである。しかしながら、その本質は、鹿児島県知事の記者会見という、本来、最も開かれていなければならない公的情報へのアクセスが阻止されたという鹿児島県の情報公開や説明責任に直結する事案である。本件妨害行為は直接憲法の制約を受けていると考えるのが相当である。

4 鹿児島県政記者クラブ「青潮会」に鹿児島県知事の記者会見を主催する権利はないこと

 被告らは、本件妨害行為の時点から現在まで、「鹿児島県知事の記者会見は鹿児島県政記者クラブ『青潮会』が主催している」と主張している。

 これは、「鹿児島県政記者クラブ『青潮会』に鹿児島県知事の記者会見を主催する権利(主催権)がある」と主張している意味と解される。

 しかしながら、被告らも自認するとおり、青潮会は任意団体である。任意団体には権利能力がないから(民法33条1項、34条)、青潮会に鹿児島県知事の記者会見を主催する権利がないことは自明だ。加えて、第5回口頭弁論で裁判所が整理したとおり、青潮会が記者会見を主催するという手がかりとなるような法規はない。

 最高裁判所事務総局広報課がまとめた『広報ハンドブック』には以下の記述がある。

「会見は,裁判所の公式見解等を示す場であることから,所長が行うのが原則であり,必要に応じて,局長,次長等が陪席し,司会進行は,総務課長等が行うのが通常であろう(裁判所内では,裁判所主催で記者会見を行うことが一般的である。)。」(同30頁)

 これは裁判所のみならず、すべての官公署で通用する条理というべきである。鹿児島県庁内で行われる鹿児島県知事の記者会見は、鹿児島県の公式見解等を示す場であるから、鹿児島県主催で行うことが当然であり、被告らの主張には理由がない。

結語

 以上から、被告らの行為は憲法14条1項、21条1項に反する憲法違反があり、憲法の間接適用により、被告前田及び同久納には共同不法行為(民法719条)、被告共同通信社には使用者責任(民法715条)が成立するから、本訴請求が認容されるべきである。

以上

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