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新横浜市長の記者会見でフリーランスは質問できるのか(12)

 2021年9月30日、山中竹春横浜市長の3回目の記者会見が開かれた。

 冒頭、山中市長がコロナワクチンの接種率と横浜文化賞の受賞者決定について報告。続いて、その2つに関する質問が受けつけられた。しかし、横浜市政記者会(記者クラブ)幹事社の時事通信の記者が後者に関して数問きいたのみで、それ以外の参加者からは手が挙がらなかった。

 横浜文化賞の受賞者は、書家の齋藤香坡(さいとう・こうは)氏、前横浜市歴史博物館館長の鈴木靖民氏、映画監督の濱口竜介氏、オルガニストの三浦はつみ氏、元パラアスリートの大日方邦子(おびなた・くにこ)氏。また、同賞文化・芸術奨励賞に美術作家のさとうりさ氏と音楽団体の「NPO法人ハマのJACK」が選ばれた。

 時事通信の記者の質問に対し、山中市長が「濱口竜介さんの映画を見たことがある。映画鑑賞は好き」と答えていたので、『ポチの告白』(高橋玄監督)などで映画製作に協力し、映画評も書く私は、「今日は映画の質問をしよう」と決め、手元のスマートフォンで情報収集を始めた。

山中市長のプレゼンが44分間続く

 記者会見開始から11分後、山中市長は3つ目の報告に入った。2020年まで使用されていた旧市庁舎が三井不動産らへ約7700万円で売却されることが林文子前市長時代に決定されており、これが「たたき売り」などと批判されている問題である。

 この問題については、8月30日の山中市長の就任記者会見で、ネットメディア『日仏共同テレビ局フランス10』の及川健二氏が質問している。山中市長は「事実関係の把握に努めたい」と答えた(詳細は〈新横浜市長の記者会見でフリーランスは質問できるのか(9)〉を参照)。

 山中市長の報告の要旨は以下のとおり。

「旧市庁舎の売却価格の決定時、不動産鑑定事務所2社(アサヒ不動産鑑定、株式会社日本アプレイザルファーム)の鑑定結果は、いずれも約7700万円。自分が市長に就任し、別の不動産鑑定事務所2社(株式会社中央不動産鑑定所、一般財団法人日本不動産研究所)に価格算定の妥当性の検討を依頼。結果、約7700万円は妥当と確認」

 報告は、資料が順番にディスプレーに表示され、それに関して山中市長が説明していくというプレゼン(プレゼンテーション)形式で行われた。山中市長は3カ月前まで横浜市立大学教授であり、プレゼンは手慣れた感じだった。とはいえ、資料29枚にも及ぶプレゼンは44分間続いた。

旧市庁舎街区・活用事業について-13

資料13枚目


旧市庁舎街区・活用事業について-16

資料16枚目


旧市庁舎街区・活用事業について-29

資料29枚目

フリーランスを最初に指名

 山中市長のプレゼンが終わると、記者会見開始から55分が経過していた。前々回の就任記者会見が35分、前回の2回目の記者会見が75分で打ち切られていることを考えれば、以後、質疑応答の時間が十分にあるのかは疑問だった。

「旧市庁舎街区活用事業について、ご質問をお受けいたします。幹事社、お願いいたします」

 司会者(横浜市女性職員)が告げると、時事通信の記者が質問を始めた。

「結論として、7700万円で三井不動産を中心としたグループに売却する結論を下したっていうことでしょうか」

 山中市長は「本日、契約の締結をいたしました」と答えた。

「(旧市庁舎の土地は77年の)定期借地契約、年2億1000万円でお貸ししますっていう部分なんですけど、(『安すぎる』との批判があるにもかかわらず)ここのところは、今回検討されなかったのは、なぜでしょうか」

 山中市長は「地区の活性化、これを実現するためには、様々な土地利用の制限をかけることを行政として行っております。土地利用の制限がない場合の価格っていうものが、いろいろ見聞されますけれども、その額に比べて安くなるっていうのは当然考えられること」と答えた。

「幹事社、以上です。各社、どうぞ」

 時事通信の記者が各参加者に挙手して質問するよう促す。しかし、過去2回の記者会見では、司会者がフリーランスをガン無視し、横浜市政記者会の記者ばかり指名した。

「フリーランス、横田さん」

 最初に指名されたのはフリーランスの横田一氏だった。

 前回の2回目の記者会見で、私は「(山中市長に)都合の悪い質問が我々フリーランスから出る。それは困るということで、我々を後回しにしてるんじゃないんですか」と追及し、山中市長は「決して、そのようなことはございませんで、誤解を与えてしまっていたら申しわけない」と釈明していた(詳細は〈新横浜市長の記者会見でフリーランスは質問できるのか(11)〉を参照)。“誤解”を解くため、今回の3回目の記者会見では、フリーランスを最初に指名することが決まっていたのかもしれない。

 横田氏は「(旧市庁舎の)建物(の売却)については、これだけ詳しい資料と説明を、たっぷりかけてされたのに、(旧市庁舎の土地の)賃料に関してが、(資料と説明が)ほとんどないじゃないですか」と疑問をぶつけた。山中市長は「情報公開に関しては、(不動産鑑定事務所の)鑑定書のほうを開示しております。ですので、その中に2.1億円ですか、のことは記載されてございます」と答えた。

 2番目に指名されたのが毎日新聞の記者。3番目に指名されたのがフリーランスの犬飼淳氏だった。フリーランスと横浜市政記者会の記者とを交互に指名するのだから、山中市長や横浜市報道担当者の“誤解”を解く努力は評価しなければならない。

 犬飼氏は情報公開に関して、「今月ですね、都市整備局のほうが、三井不動産とかDeNA(ディー・エヌ・エー)さんとか開発事業者が出した提案書を公開していると思います。ただ、その中身の半分以上が黒塗りで、いわゆる『ノリ弁』状態でした。どのような提案内容だったのか、価格が妥当なのか、まったく判断できない状態です」と疑問をぶつけた。

 山中市長は「そちらの黒塗りの点に関してはですね、いろいろな守秘義務上のものも含まれると思いますので、改めて担当部局のほうに確認をいたしまして、出せるものに関しては、オープンにしていきたいと考えております」と答えた。

 4番目に朝日新聞の記者、5番目に読売新聞の記者が指名され、ほかに挙手者がいなかったため、旧市庁舎街区活用事業に関する質疑応答は終了した。記者会見開始から76分が経過していた。

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右奥の女性が司会者(横浜市職員)

横浜市政記者会の記者も山中市長の疑惑を追及

「それでは、一般質問に移ります。幹事社、お願いいたします」

 司会者が告げると、時事通信の記者が「就任から1カ月経っての所感」「山中市政の体制作りの進みぐあい」「11月、12月にコロナの感染者数が増加する可能性」について質問した。予想された質問、自分の専門分野(コロナ)の質問であり、山中市長は冗舌に答えた。

 ところが、時事通信の記者は「もう1つ、全然違う話なんですけれども」と前置きして、山中市長が横浜市長選挙の前に横浜市立大学へ圧力をかけ、自分をほめたたえるメールを理事長・学長名で全教職員へ送らせたのではないかという疑惑について質問しはじめた。

 この疑惑に関しては、前回の2回目の記者会見でフリーランスの畠山理仁氏が質問しているが、前々回の就任記者会見も含め、横浜市政記者会の記者からは質問が出ていなかった。なお、今回の3回目の記者会見に畠山氏は参加していない。

 山中市長は圧力を否定する回答をくり返したが、それまでの冗舌さはなかった。

「幹事社、以上です。各社、どうぞ」

 時事通信の記者が各参加者に挙手を促す。朝日新聞の記者が指名され、米軍上瀬谷通信施設跡地の利用計画について質問した。

 次に読売新聞の記者が指名され、時事通信の記者と山中市長との質疑応答を引き継ぐ形で、横浜市立大学への圧力の疑惑について質問した。山中市長は歯切れの悪い回答をくり返し、質疑応答は8分近く続いた。

 前回の2回目の記者会見で、私は山中市長に「何で、こうやって記者クラブと出来レースで記者会見やってんですか」と質問した。その影響もあったのかもしれないが、今回の3回目の記者会見では、横浜市政記者会の記者も山中市長に都合の悪い質問を浴びせた。

映画監督もフリーランス

「フリーランス、寺澤さん」

 読売新聞の記者の次に私が指名された。以下、質疑応答(敬称略)。

寺澤 先ほど、山中さんは「映画好きで、よく見ます」って、お話でしたけれども、山中さん、「コロナの専門家」ということでいらっしゃいますけれども、映画で「感染モノ」とかですね、「吸血鬼モノ」とか、そういうものは見るんですかね。

山中 あんまり見ないです(笑)。そのご質問の(笑)、寺澤さん、ご質問のご意図は(笑)。

寺澤 いやいや、もし、そういうのをよくご覧になるんであれば、現状のコロナ禍と何か重ね合わせて思うところあるかなあと思って、きこうかと思ったんですが。

山中 そういったジャンルは、すいません、あまり…(笑)。

寺澤 そうですか。じゃあ、関連してなんですが、今回、横浜文化賞で濱口竜介監督が受賞されてますよね(山中市長、うなずく)。この濱口監督の『ドライブ・マイ・カー』で、共同で脚本やられてる大江崇允(おおえ・たかまさ)さんという監督、脚本(家)の方いらっしゃるんですが、以前、私、大江さんから製作する映画の相談を受けたりとかしたことがあったんですけれども、横浜市のほうでですね、現在、いろんな映画製作に対して、どういうような支援をしてるかとか、そういうのっては、ご存知ですかね。

山中 今、横浜市としては、文化の振興に向けて、様々、支援をしているところでございますが、映画っていうことに関して、どのような支援をこれまでしてきたか、私の着任前にしてきたかっていうことに関しては確認をいたします。

寺澤 そうですか。たとえばですね、横浜市ですと、「横浜フィルムコミッション事業」というのもやってるようで、つまり、横浜市のいろんな役所をはじめ、庁舎をはじめですね、ロケ地に貸し出しますよとか、そういうこともやってるんですが、やはり、こういうのがですね、事業者向け、かなり大手の事業者向け中心になってしまってると。たとえば、濱口さんにしても大江さんにしても、我々と同じフリーランスの立場だと思うんですけれども、そういった人間が、もうちょっと気安く、気安くっていうのも変ですけど、簡便にですね、ロケ地の協力をいただくとか、なかなかそういうのはしづらいことがあると思うんです。というのは、過去に、私、いろんな映画に協力しましたけども、やっぱ、横浜市じゃなくて、もうちょっと遠いところの役所の協力を得たりとかするようになってるのは、やはり、横浜市とかの、このフィルムコミッション事業とかのですね、手続き上の問題が非常にあって、こういうフリーランス、だいたい映画かかわってる人はフリーランスだと思いますけど、の方がですね、なかなか撮影、簡単にできるようなものではないと。ロケに借りられるような手続き、あるいは、もっと資本的なバックがないとできないとか、そういうとこを、今回ですね、濱口さん受賞されたということであれば、濱口さんご本人のご意見なんかも聞いてですね、もう少し、だから、山中さんも「映画が好きで」っていう話なんですから、実際、こういうところを変えてったらどうかと思うんですけど、どうですか。

山中 そういった点に関して、ご指摘いただきまして、ありがとうございます。そういった手続き上のこととかですね、変えられることに関して、貴重なご意見だと思いますので、ぜひ参考にさせていただきます。

寺澤 わかりました。じゃあ、期待してますので。

 本連載で指摘してきたとおり、横浜市が取材対応でフリーランスを軽く見てきたことは間違いない。それは組織の体質だから、あらゆる場面で現れる。映画製作に対する支援でもしかりだ。今後、横浜市の体質が改まるのか、しっかり見届けさせていただく。

経歴詐称疑惑で従前の問答をくり返す

 私と山中市長との質疑応答が終わると、記者会見開始から100分が経過していた。

「かなり時間を経過しておりますので、あと2社、1問ずつでお願いします」

 司会者が告げて、ネットメディア『SAKISIRU(サキシル)』の西谷格氏を指名した。

 西谷氏は過去2回の記者会見と同様に山中市長の経歴詐称疑惑について質問した。山中市長も過去2回の記者会見と同様に疑惑を否定しつつ、疑問点が解消されない回答をした。そして、前回の2回目の記者会見と同様に、西谷氏と山中市長が同様の問答をくり返し、司会者が「次の方に、最後の質問に移らせていただきます」と打ち切った。

 神奈川新聞の記者が指名され、コロナの緊急事態宣言の解除に伴う横浜市立学校の通常登校の再開について質問した。山中市長は「保護者のみなさまに早く情報をお伝えすることによって混乱のないように努めてまいりたい」と答えた。

「以上で定例会見を終了いたします」

 司会者が告げたとき、記者会見開始から105分が経過していた。西谷氏が「すいません。まだ質問あるんですが」と食い下がったが、司会者は「先ほど、2社、1問ずつということで、お話しいたしましたので、本日は終了させていただきたいと思います」と受けつけなかった。

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