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「ぼくらフリゲ作者カップル!」あとがき(前編)

こんばんは、sinusoidal waveのゆ〜たろです。
今回は拙作「ぼくらフリゲ作者カップル!」のお話です。

「ぼくらフリゲ作者カップル!」宣伝

クラス一の美少女の米倉愛莉(よねくら あいり)と、陰キャの僕。
他の人にはヒミツだけど、僕と米倉さんは同じフリーゲーム制作者だった。

ある日、米倉さんからUSBメモリをもらう。
中には米倉さんが初めて作ったが入っているようだ。
塩田はこのゲームをプレイするが……?

○ゲーム説明
【ジャンル】短編ノベル
【想定プレイ時間】15分程度
【END数】1つ+おまけ


以下の内容には、今作のネタバレが含まれます。
実況動画でもいいから、おまけまで見てから読むことをオススメします。


ネタバレを回避するための自作愛莉ちゃんイラスト

制作のきっかけ

この作品を作るきっかけは、DLsiteでお行われたセール。
主に買ったのは、制作中の新作音ゲーで使う予定の背景素材やボーカル入り音楽素材。
そして、グラシアス 様の立ち絵素材でした。

この素材ですが、定価220円だったところをセールで半額&15%引きクーポン券利用で実質93.5円という破格で購入できました。
仮にも尊敬している制作者さんの素材をそんな破格で買って良いのかという問題はありますが、本人もセールを告知していたので問題ない……はずです。

さて、せっかく買った素材でなにか1作作りたいのですが、どうにもアイディアが思い浮かばない。
一応高層は生まれたものの、【グラシアス作品のキャラはこんなこと言わない】という理由でボツが続きました。

もっとも、無理にゲームを作る必要があるかというと、そうでもないのですが。
値段も安いし、好きな制作者に対する投げ銭と考えれば何ら問題はない。
……この時点では、のんびりとそう考えていました。

本物の「天才」が作る、究極のゲーム

その数日後。
素材制作者であるグラシアス 様が、新作ノベルゲームを公開しました。
その名は「偽りうさぎは愛を買う」。

本当ならこの作品の魅力について語りたいところですが、作品のガイドラインにてブログなどでのレビューが禁止されているため割愛。
グラシアス作品はどれも素晴らしいのですが、この一点だけが難点。

とにかく、この作品は私にとって衝撃的な作品でした。
本当に面白いゲームは、このような天才にしか作れない。
グラシアス 様の立ち絵素材を使ったとしても、見た目だけが似てる模造品・劣化コピーにしかならない。
あらゆる面で、屈服するしかない作品でした。

ネットランキングがなんだ

天才には敵わないことを知った私は、失意の中で音ゲー製作を再開しました。

この頃作っていたのが、音ゲーのスコアランキングシステム
これ自体は2018年に公開した過去作でも作ったことがあり、作り方はだいたい覚えていました。
そこから流用できるところは流用しつつ、当時から気になってた部分を修正。

悲しいことに、ランキング機能はあっさり実装できました。
ただ、これがゲームの面白さに繋がるとはとても思えず。


何がネットランキングだ。PHPやSQLがゲームの面白さに寄与するものか。

やはりノベルゲームこそ最高のゲーム、それ以外のジャンルはゲームもどきでしかない。
私の作品は、グラシアス 様の作るような秀逸なノベルゲームには敵わない。
作るべきは「偽りうさぎは愛を買う」のような美しいノベルゲームだ。

ふりーむの審査基準

「偽りうさぎは愛を買う」は傑作である一方、一つ問題点がありました。
それは、現在のふりーむの掲載ガイドラインでは公開できない内容だということ。

ふりーむの表現規制については、こちらの記事も参考にしてください。

近年ふりーむに過激な内容の作品が多く投稿されるようになりました。
特に掲載できるかギリギリの内容の作品が多い。
というわけで、ふりーむ運営は投稿前にセルフ審査ができるようになりました。
それによると、生命の損傷、不快感や心的負担を高める、不法行為などがアウトになる模様。
これらの表現は、無生物、示唆、メタファー、設定、そのように解釈が可能、具体的ではないが恐怖感が強すぎるなどの間接的な表現でもダメなようです。
より具体的に言えば、殺人・自殺・自傷行為などの表現はほぼ通らないと言っていいです。

それを踏まえた上で、改めて「偽りうさぎは愛を買う」をプレイしてみましょう。
……はい、これらのふりーむで掲載見送りになる要素が色々と含まれていますね。
グラシアス 様が本作をふりーむに投稿しようとしたかは不明ですが、仮に申請したら間違いなく審査は通らないでしょう。

この作品に限らず、グラシアス作品は過去に何度もふりーむにて掲載見送りになっています。
最近はふりーむに申請しても掲載見送りになることがわかってるのか、ふりーむへの投稿作品自体が減っています。
グラシアス 様はふりーむに100作品以上投稿しており、最盛期には月に2〜3本のペースで公開していました。
ですが、グラシアス 様の作品で最後にふりーむに公開されたのは2023年12月に公開された「初恋クラッシュ」。
PLiCyなどでは今も新作を出しているので、活動を休止したわけではないようですが。
この作品も性的な内容のセリフが含まれているものの、暴力的な内容ではないためか無事に公開されたようです。

ふりーむの審査基準については、「妥当だ」という意見も「やりすぎだ」という意見もあるでしょう。
私が観測した限りでは、「今のふりーむの規制は厳しいが、そもそも好き勝手に過度な暴力描写を含む作品を作った作者の責任」という意見が一般的なようです。
少なくとも、今の私はそのように考えています。

ただ、それでも。

このような傑作を掲載見送りにするフリーゲーム公開プラットフォームが正しいとは思えない。

  • 天才クリエイターが作る傑作ゲーム

  • それを排除する表現規制に対する怒り

  • 面白さに寄与しないシステムを作るのが得意な自分への絶望

これらの歪んだ感情とセールで買った素材が組み合わさって、新作の構想がまとまりました

テストプレイ版(ver.0.10)と感想

それから1ヶ月後。
なんか気付いたら新作ゲームが完成していました
ゲーム制作をしたことがない人からすれば「15分で終わる短編ゲームを作るのに1ヶ月もかかるの?」と思うかもしれませんが、私の過去作でもこの程度の規模なら1ヶ月は妥当な期間です。

さて、私には「フリーゲームを公開する前には、外部の人間にテストプレイを依頼する」というマイルールがあります。
これは不具合や誤字脱字のダブルチェックのほか、「初見のプレイヤーにわかりにくい要素はないか」「作者が気づいてない問題点はないか」などのチェックが必要なため。
ゲーム制作をしてると、「作者は分かってるけどプレイヤーにはサッパリわからない仕様」はよくあること。
それを発見して、公開前に直す。そのための外部テストプレイなのです。

さて、テストプレイヤーをどうやって探すかですが、これは2つの方法があります。

  • テストプレイを依頼したい相手に連絡する

  • SNS上でテストプレイヤー募集ポストを行い、リプライが来るのを待つ

前者は相手の都合によって断られるリスクがある。
一方、後者はテストプレイヤーが見つからないリスクがある。

今回は、フリゲ作者仲間であるととと 様にテストプレイ依頼を打診。
ととと 様に依頼した一番の理由は、グラシアス作品のファンであること。
今作の懸念事項の一つとして、「グラシアス 様の立ち絵を使用しているのに作風が大きく異なる」というクレームが来そうなことがありました。
その為に、グラシアス作品に詳しい人にテストプレイを依頼したかった。
……今思うと、これが判断ミスだったのは否めない。

ととと 様に連絡したところ、快くOKを頂いたのでテストプレイ用データを送付。
翌日、感想が届きました。
その結果、

  • ゲームとしては面白いと普通の中間あたり

  • 全年齢対象として過激な要素はない

  • グラシアス様の作風と違うけど問題はない。ただし素材を借りたことは何度も表記した方がいい

と、不安要素については問題なかったのですが。

  • シナリオ無しゲームを非難してノベルゲームを持ち上げるのは賛否が分かれる

  • シナリオとして物足りない要素があった

と、作品のクオリティに関して指摘事項がありました。

開発版では「米倉のゲームが掲載見送りになった後で塩田のサーバーで公開、それがきっかけで米倉はクリエイターとしての才能を開花させた」……というところで終わりでした。
その後の展開はなんとなく構想はあったものの、「短編ノベルゲームとして長すぎる」という理由で書きませんでした。
ただ、このバージョンでの終わり方は弱いと思ってたのも事実。

また、おまけの内容にも、二人がフリゲ作者だということを知った経緯が書いてませんでした。
これは知り合った経緯が思いつかないという情けない理由……。

修正版(ver.0.20)と感想

その1週間後。
ととと 様から指摘された箇所を修正・追記したパージョンを送付。
現在ノベコレで公開されているバージョンとほぼ同じ内容になります。

ただ、私としては今回の修正は、手放しで喜べるものではありませんでした。

一番の要因は、シーンの追加によって文字数やプレイ時間が伸びたこと。
ver.0.10では本編・おまけ合わせて6800字程度だったのが、今回の追記で8500字に増加。
プレイヤーが文字を読む速度は300〜500字/分程度と考えているので、推定プレイ時間は17〜28分
これを「15分程度のノベルゲーム 」と名乗るのは、少々苦しい。

もう一つが「ノベルゲーム も非ノベルゲームもいいよね」という終わり方になったこと。
作者の思想としては「ノベルゲーム こそが至高、それ以外のジャンルはゲームの模倣品に過ぎない」。
作者の主張を曲げる終わり方になったのは、作者としては少々いただけない。
……まあ、創作物を書いてると「作者の主張に反するキャラ」なんていくらでも書くことになるのですが。
マルチエンドにすれば複数の主張に対応できたのですが、そこまで作り込む気力はなかった。

最後に「男女が結ばれる終わり方は、グラシアス作品っぽくない」。
グラシアス作品で男女が結ばれることはほとんどなく、またハッピーエンドになる作品も少ない。
ただでさえグラシアス作品とは程遠い作風なのに、殊更本家と逸脱するような作品を書いていいのか。

このような葛藤はあったものの、結局このアプデ版をととと 様に送付。
この修正をした一番の理由は作品の完成度が上がった気がするから
作者の主義思想・本家との逸脱、そんなものより「作品が面白いから」の方がよっぽど大事だ。
そのような判断から、これを最終版としました。

これを送付したところ、ととと 様の反応は上々。
めちゃくちゃ良くなってる」と、嬉しい言葉を頂きました。

良かった、私の苦渋の判断は間違ってなかったんだ……!

本家グラシアス作品との差別化要素

話が前後しますが、制作時の懸念事項に「グラシアス 様の立ち絵を使用しているのに本家作品と作風が大きく異なる」というのがありました。

  • 異性のカップリングが成立している
    (本家は同性のカップリングが多く、男女の関係は大抵破綻する)

  • 未成年キャラの家庭環境が良い
    (本家は片親・毒親・貧困家庭など、家庭環境が悪い子が多い。一方で本作は塩田・米倉ともに自室があり、自分のパソコンがある程度には経済的に豊かな家で育っている)

  • 愛莉の暴言が生ぬるい
    (ただしあまり過激な発言だと掲載見送りになるのでこれでよかったのかもしれない)

そして何よりも……私の作品には「愛」が無いのよ

そもそも私は昔から今まで男性向け作品を中心に書いてきた男性作者
女性向け作品を主体とする本家とは、作風は大きく異なります。
それなのに女性向け作品を主体とする本家の立ち絵素材を使ったら、需要のミスマッチが起きるのではないか。

そもそも女性向け作品を主に消費する「女性オタク界隈」というのが厄介。
特定の界隈からの炎上覚悟で言えば「女性オタク界隈民は自分の好きなコンテンツしか消費せず、それ以外のジャンルは存在すら許さない」と考えています。
無論、大多数の女性オタクは良識があり、流石にここまで過激な人は少ないでしょうが……。
それでも男性向け作品出身の私の作風が受け入れられるとは考えにくい。
この作品自体は男性向けでも女性向けでもないが、本質的には男性向け作品の文脈で書いた作品なんですよね。

結局、これらの違いをどう解決したかというと……

逆に考えるんだ、本家グラシアス作品との大きく異なる要素を入れればいいんだ。

というわけで、本家であまり使われていない要素を取り入れることで対処しました。
具体的なポイントは以下の通り。

  • 本家であまり使われていない音楽素材の使用
    私が知る限りでは魔王魂・H/MIX GALLERYの素材を使用した本家作品はなかった、はず
    (尚、公開後に魔王魂の楽曲を使用した本家作品が公開された)

  • 本家であまり使われていない背景素材サイトの使用
    みんちりえの背景素材はたぶん使ってない。また、本家は背景画像は何らかの加工をしてることが多いが、今作ではサイズ調整以外ほとんど加工していない

  • クリア後にタイトル画面に追加される「おまけ」
    当初は「あとがき」も追加する予定だったが、時間の都合により割愛

  • 自作UI画像の使用
    ゲーム内のボタンやメッセージウィンドウのほか、地味にセーブ・ロード画面やバックログ画面の画像・配色もいじってる


テキストウィンドウに注目!よ~く見ると半透明のウィンドウの向こうにぼかしがかかってるぞ!

特にメッセージウィンドウにグラスモーフィングを使用しているのは、本家どころかティラノ製ノベルゲーム全体で見ても稀だと思います。
グラスモーフィングは最近のスマホアプリではよく使われるのですが、ゲームではほとんど使われない印象があります。
実は過去作「海沿いの駅にて」でも採用したのですが、特に気付いたプレイヤーはおらず。
今作では作中でグラスモーフィングについて触れることで「よく見たらこのゲームでも使われてるじゃん!」と思わせるように仕向けました。

YouTubeのボイロ動画や猫ミーム動画でよく使われてる背景素材

また、背景素材に関してはこのシーンでは椅子に座ってパソコンを見てるように見える演出を入れました。
これ自体はそんな難しいことではないし、適切なレイヤー分けがされた素材があったから出来たことなのですが。
少なくとも本家でこんな感じのシーンを見たことはない。

なお、これらの技術的な要素はゲームの面白さに繋がらないと考えています。
技術だけでは、面白いゲームは作れない。塩田勇児もそう言っている。

公開申請、そして

3/21、ふりーむとノベコレに登録申請しました、
ノベコレの方は、3/23に審査が通り、公開されました。

一方ふりーむの方は、1週間が経ち、10日が過ぎても、相変わらず審査中でした。
最近のふりーむは審査に時間がかかることが多く、審査に10日くらいかかったという話は聞いたことがありました。
なので、今回も気長に審査が終わるのを待っていました。

4/2
ふりーむから、掲載見送りのお知らせが来ました。

後編はこちら

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