見出し画像

倉敷スピリッツを受け継ぐ「臨鉄ガーデン」に学ぶ

 初めまして。都市経営プロフェッショナルスクール7期生の戸上です。
 岡山県倉敷市の水島地区で鉄道高架下や公園など公共空間を活用したマルシェ「臨鉄ガーデン」にインターン生として参加しましたので、今回の学びを記すべくnoteをはじめます。
  文章が苦手でコンパクトにまとめるのは諦めましたが(笑)、それでもよければご一読ください~。

▮初めて訪れた倉敷というまち

 倉敷市といえば、人口47万人を擁し、和洋織りなす白壁の町並みが美観地区として継承される有数の観光地である一方、臨海部には石油コンビナートなど重化学工業地帯が形成されており、西日本を代表する工業都市の一つでもあります。
 そして今日の倉敷の礎を築いた地域の偉人である大原家の存在抜きには語れません。今回のインターンでは、7代目である大原孫三郎氏の生涯を記した一冊「わしの眼は十年先が見える」が事前課題として指定されました。

この渋い表紙デザインと自信に満ち溢れたタイトルが好き。

 そんな倉敷でインターンを募集してくださったのは、民間まちづくり団体「水島家守舎NAdia」の三宅香織さん。プロスクール1期生の先輩で多くの卒業生から「姐さん」と慕われている方です。
 インターンの内容は、臨鉄ガーデンを始めた経緯や、運営の詳細、ブランド戦略など1時間ほど解説いただいた後、運営・片付けの手伝いをするプログラムです。
 希望者は翌日に倉敷美観地区を巡り、約50年前に行政投資でつくられた水島エリアと民間投資によるまちである倉敷美観地区を対比しながら、公民連携に視点をおいたガイドを受けられるなど超手厚いんです。

 私がインターン募集を知ったのが8月後半。最初は「ふーん」ぐらいの感じ(失礼w)でしたが、岸上コーチのnoteで書かれていた「スクールの教えを実践する現場」という触れ込みに惹かれ、図書館での実証実験(マルシェ含む)をしようとしている自分にとっては「学びがありそう!」と思い申し込むことに。

 本来はスクール生向けの企画ですが、スクールの教えを組織に浸透させるため、図々しくも同僚を連れて行きたいと三宅姐さんにご相談したらご快諾いただき、同僚2名を引き連れて参加することに。
  しかし翌日の倉敷美観地区ガイドの不参加に対しては、「残念ですね〜、きっと後悔すると思います(笑)」とのコメントが。
 慌てて日程調整し(笑)、美観地区のガイドもお願いして受け入れていただくことになりました。
 結果としてこの判断は正しく、長い年月を経て歴史・文化・芸術を培ってきた倉敷の地に根付く精神と臨鉄ガーデンとの関係性を肌で感じることになります。(詳しくはのちほど。)

学び:先輩の助言は素直に聞き入れておくと、結果良いことが起こる。

▮寂れたまちの繁盛店

 会場は倉敷駅から電車で約30分の場所にある栄駅。昭和の香り漂うローカル線「水島臨海鉄道」で向かいます。
 到着したのは午後1時半頃。駅前は閑散とし、周辺に人が集いそうなスポットは見当たらず、少し歩くと寂れた雰囲気のスナック街があるのみで、「こんなところに人が来るのか??」と一抹の不安を抱きました。(失礼)
 事前に腹ごしらえしとこうと、姐さんからオススメされていた中華料理屋「とらや」のドアを開けてビックリ、このお店だけめちゃくちゃ人が集まってるんです。

ギャップ①:寂れているまちでも繁盛している飲食店がある。
 ほんとに安くてボリューム満点、ガタイのいいお兄さんが好きそうなお店です(笑)。細身の私は危険を察知しボリューム少なめの定食を頼みましたが、それでもお腹いっぱいに。
 ちゃんと観察してないけど、座席は50席ほどで客単価は7〜800円ぐらいかな?入店したのは平日午後1時半と遅い時間にもかかわらず5割ほど座席が埋まってるのをみると、1日4〜5回転ぐらいお客さん入ってそうです。物件が古く家賃も安そうだし、それなら安い定食でも経営が成り立ちますね。
 
 ギャップ②:外観は入りづらいが、入ると安心感を覚える。
 とらやは外からは店内の様子が分かりづらく、店構え的にちょっと入りづらい雰囲気なんです。でも一度入ってしまえばローカル感溢れる飾らない雰囲気が妙に落ち着きを与えてくれて、行きつけの店にしたくなるし、誰かに教えたくなるようなスポットなんです!うまく言えないけどリピーター掴むのが上手な空間だなぁと。
あと床が人工芝なのはよく分かりませんが斬新です(笑)。

 ギャップ③:安かろう悪かろうではなく、パフォーマンスが良い。
 こういうお店、店員さんの対応が雑なイメージありますけど、ここは丁寧にランチの説明をしてくださりました。しかも牛丼チェーン店ばりに注文してから届くまでが早いんです(笑)。味も美味しかったです。

 町並みを見た時に、ここで昼の商売は難しそうと思ってしまいそうですが、寂れたまちでもちゃんと商売成り立たせているお店はあるし、山奥でも客を集めるお店だってあります。
 寂れているまちだからこそ競合店が少なく自分の店に多くの客を囲いこめるケースもあります。とらやも好立地とは言い難いですが、おそらくリピーターをしっかり掴んで安定的に集客できている事例の一つではないでしょうか。
 三宅姐さんがこの店をオススメしたのも、スクールの勉強の一環のような気がしてきました。

▮公園で「なんで?」と不意にめっちゃ詰められる

 とらやでお腹を満たしたあとは、いよいよインターン開始。
 今回の参加メンバーは東京、神奈川、富山、熊本から7名。全員合流してから公園へ移動し青空のもと臨鉄ガーデンのご説明をいただきました。
  姐さんから、決して単なる一過性のマルシェイベントではなく、公共空間の利活用を通して水島地区の再生を目指す「最初の一歩」であることなどを詳しく教えていただきました。

 質問の時間になり、私からは「マルシェをする際、様々なプレイヤーを巻き込むほどコントロールする難しさを感じる。」と相談したところ、逆に質問攻めにあいます。
 「なんでコントロールしたいの?」(姐)
 「統一感ある空間をつくりたいと思いまして」(戸)
 「なんで?」(姐)
 「居心地よくて滞在したくなる空間をつくりたいんです」(戸)
 「なんで?」(姐)

…倉敷の公園で突如鍛えられるワタクシ。

 私もスイッチが入ってしまい、日頃考えている都市経営課題のこと、それを解決するために図書館を変えたいことなどの一連含めて夢中でお話しました。
 そこで気づきます。自分のなかで課題認識とやりたいことが少しずつ明確になってきているなと。

学び:「自分の考えを100人に話すこと」という教えは本当。

 スクールに通いはじめて3~4か月、この間、どんな都市経営課題が存在するのか、どうすれば自分がまちを変えるアクションを起こせるのか、をずっと自問自答してきました。
 スクールでは「自分の考えを100人に話しなさい」という教えがあります。話せば話すほど考えがブラッシュアップされるからです。まだ100人には至ってませんが、30~40人ぐらいに話したでしょうか。たまに否定されることも勿論あって負担はかかるのですが。
 スクールの先輩に突然問われた時、全く身構えていない状態でしたがさらっと自分の口から都市経営課題とやりたいプロジェクトの話が出てきました。まだ粗削りですが少しずつ頭の中がブラッシュアップされていることを感じた瞬間でもありました。
 姐さんは多分、私がちゃんとスクールで学んでいるのかを試してくださったのかなあ。

▮思い思いに過ごせる、ゆるやかな空間

 さて、話が逸れましたが、ここからが本題ですw 臨鉄ガーデンの記念すべき第1回目(2017年)は出店わずか3店舗、来場者は50人しかおらず、4万円近くの赤字だったそうです。それでも回数を重ねてトライ&エラーを繰り返し、昼よりも夜の方がフィットすることを学び、ナイトマーケットへと進化していったとのこと。今では20店舗以上が並び1,500人が訪れるほど飛躍しています。
「食べたいものがあったら早めに確保したほうが良いよ~」というアドバイスのとおり、夜になったら人でごった返し、人気店は行列が途絶えませんでした。水島の人達はコロナ禍であることを完全に忘れてますねw

DIYの木製看板
見晴らしの良い場所は子ども達の特等席に
路上でお絵描きし放題
夜になると雰囲気がグッと変わる

▮臨鉄ガーデンでの学びTOP3

それではようやく学んだことを振り返ります。
学び1「空間に多様性がある」
 
臨鉄ガーデンの参加者を深く観察していると気づくことがありました。多様な来訪者がいて、多様な過ごし方をしているのです。

・ビールケースで作ったイスに座ってずっと喋っている中高年
・立ち飲みスタンドでちょびちょびやっているリーマン
・路上の縁石に座っている若い女子達
・高架下でシート広げて寛いでいるファミリー
・長めのいい高台で涼んでいる小中学生

など、来訪者が自分のスタイルにあわせて、好きな場所で好きな過ごし方をしているのです。決して画一的な風景ではありませんでした。これは臨鉄ガーデンのつくる空間が単調ではなく、多様性溢れるからこそです。
 例えば座る場所ひとつとっても色んなバリエーションがあります。多様な過ごし方が許容されているからこそ、子どもからお年寄りまで幅広く集まれるのだと思います。
 勿論、戦略としてターゲッティングはしているものの、それ以外の層を排除するのではなく共存させている点に秀逸さを感じます。
 これは先進的な図書館を視察していても感じることです。武蔵野プレイスや都城市のmallmall、熊本県菊池市の図書館などでも、子どもからお年寄りまでが共存できる空間づくりをしています。南池袋公園もそうでした。

学び2「誰と組むかで決まる」
 NAdiaでは「補助金に頼らない」という明確なコンセプトがあります。以前、「補助金を使うべき」派のメンバーもいて意見が分かれたそうですが、そのような方々にはメンバーを外れてもらったそうです。さらっと仰ってましたけど、これって相当エネルギーが要るだろうし大変な事だったのでは。
 仲間内で意見が合わないことがあっても、付き合いもあるし多少の意見の違いには目をつぶりそうですけど、NAdiaは決してそうではありませんでした。明確なビジョンがあって譲れない理念があるからこそ、メンバーを外れてもらうというハッキリした対応を決断できたのだと思います。
 また、NAdiaメンバーで実行委員長の土屋さんとお会いしましたが、歳もお若くみえるし、ウェブデザイナーだし、真面目で大人しそうな方だし、誤解を恐れずに言うと三宅姐さんと組んで何かするようなタイプにはお見受けしなかったのでびっくり(笑)。私の場合、何をするにしても同質性の高い人とばかり組む傾向が強いので…。
 そのことを姐さんにおたずねしたら、「自分に無いモノを持っている人と組むようにしている」とのご回答。たしかに似た境遇の人達と固まっていると居心地は良いけど、新たな発想が生まれにくかったりしますよね。プロジェクトを組成するにあたり、「誰と組むか」というキャスティングを非常に大事にしていることを窺い知れました。

学び3「実行委員会と出店者がワンチームになっている」
 マルシェを眺めていると、出店者の皆さんが主体的に、かつ楽しみながら出店(というか参加)されていることが分かります。
 詳しい金額は書きませんが、土屋さんによると売上の大きいお店もあるようです。店舗同士がコラボ商品を開発するなど、出店者も試行錯誤を重ねながら努力し、回を重ねるごとに売上を伸ばしているのが臨鉄ガーデンの凄いところです。実行委員会とお店が同じベクトルで取り組んでいるのです。
 これは、運営側が、来るもの拒まずではなく、きちんと出店者を厳選し、かつ丁寧にコミュニケーションを取っているからこそ出来ているのだと思います。

▮倉敷の地に根付く大原家のスピリッツ

 せっかくなのでマルシェ翌日の倉敷美観地区の視察についても触れておきます。
 まず午前中に大原美術館に集合し、館内をゆっくり見学。1930年に開館した日本で初めての西洋美術館で、モネとかエル・グレコとかピカソとか、教科書に載っているような超有名作家の作品がずらっと並びます。
 ここにある作品の多くは、洋画家の児島虎次郎が「日本や地域の芸術界のために」という信念で収集してきたもの。その思いに巨額の私財を投じて応えたのが、冒頭に触れた大原孫三郎だったのです。
 特筆すべきは、お金を持っている孫三郎がパトロンとして自分の欲しい絵を買った美術館ではなく、若い画学生だった虎次郎を見出し、その才覚を引き上げるために私財を投資した結果、生まれた美術館であることです。
 倉敷の地が豊かになるためにはどうしたら良いか、それを考えた延長線上に美術館があります。そんなルーツがあるからこそ大原美術館では今でも学生や児童向けの教育普及活動に力を入れています。

 もっと詳しく知りたい方は ↓の大原あかね氏の講演を視聴ください。

 この動画では、倉敷の発展のために紡績工場の誘致を考えた20代の若者3人の想いを汲み、資金を出したという大原孝四郎(孫三郎の父)のエピソードについても語られています。若い人達のアイデアを取り入れ、それを育てていく。教育というキーワードが倉敷の土台にあることが分かります。  
 人を大事にし、育てることで、まちを豊かにし、次の世代に継承する。このサイクルによって倉敷は受け継がれてきたのですね。

 美術館の後は倉敷美観地区をまち歩き。戦前までの建物が多く残っており、ここでしか見られない美しい景観が広がっています。この町並み保存を最初に提案したのは、孫三郎の息子である大原總一郎氏だったそう。

 まちの歴史を日常生活に生かしながら暮らすドイツ・ローデンブルクの町並みに大きな感動を覚えた總一郎氏が、「倉敷を日本のローデンブルクにしよう」という理念を掲げ、その必要性を訴えたそうです。美観地区の古い建物は殆どが個人所有のものらしく、今でも約200世帯が美観地区に暮らしています。行政主導のまちづくりではなく、住民一人ひとりが主体性を持って町並みを守り、育てていく。決して簡単に真似できるものではありませんね。だからこそ価値のあるランドスケープです。

▮まとめ

 人を育て引き上げる。地域の人達が主体的にまちをつくる。次世代に継承する。そうして倉敷というまちが過去から未来へと脈々と受け継がれ、今日に至ることを肌で感じました。この精神は、大原家が倉敷に根付かせたのではないかと思います。倉敷を実際に訪れたことで、その史実を垣間見ることができました。
 そして現在進行形で倉敷のまちづくりに正面から向き合っているNAdiaにも、この精神が脈々と受け継がれているように感じます。
 例えば、姐さんが自分に無い才能を持つ土屋さんを抜擢し、二人三脚で臨鉄ガーデンを大きく育てた姿は、孫三郎が虎次郎の才覚を見抜き、美術館の創設へと繋がっていったストーリーと被ります。
 臨鉄ガーデンに参加している出店者達が、主体的にイベントに参画し水島の新しい風景を形づくろうとする姿は、地域に暮らしながら景観を守り続ける美観地区の方々と被ります。そしてきっと将来的には、NAdiaの思いは現メンバーから次の世代へ、もしくは次のステージへと引き継がれていくのでしょう。

 「コントロールしようとすると最後までしなきゃいけなくなるのよ」

 あの公園で私が言われた言葉。
いくら倉敷と言えど、大原家が最初から最後まで、端から端まで、まちづくりの全てを担うのは無理でしょう。それと同じで、仮に私が自分で立ち上げたイベントだとしても、全てに目を行き届かせて管理するのはおそらく無理なのです。(出来たとしても疲れるw)
 組織におけるブレインの役割はプレイヤーの主体性を引き出すこと。公民連携事業でも同じで、民間プレイヤーの主体性を引き出す(もしくは支える)のが行政の役割だと思います。プレイヤーの主体性があるからこそ臨鉄ガーデンがあるし、住民の主体性があるからこそいまの倉敷があるのです。そのことを心に留めておきたいと思います。

▮今後に向けた決意

 自分の地域でも、倉敷のように奥深いまちづくりができるのか。小手先の表層的な部分にだけ手をつけるのではなく、物事の本質を見極め、10年先を見据えるようなまちづくりを。

…う~ん、ちょっと今はオガール研修のことで頭がいっぱいなのでムリw

 という冗談は置いといて、今はまだ圧倒的な勉強不足、自分の力不足を感じます。もっと沢山インプットとアウトプットの両輪を回して更に成長していかねば。
 焦る気持ちもありますが、小さな一歩から踏み出すことから始めていきます。今回、一歩踏み出したおかげで各地に仲間が出来ました。同じ景色や空気を体感した同僚もいます。みんなで切磋琢磨していきたいです。
 このような機会を頂いた姐さんはじめ倉敷の方々に心から感謝です。

▮アナザーストーリー「胸ぐらつかんで勧誘事件」

 今回ひとつ嬉しい事件が起こりました。
 被害者はスクール生ではないけど一緒に参加していた後輩くん若干20歳。片付けのため三宅姐さんと二人で車に乗り込んで荷物搬送をしてたそうですが、助手席に乗っていた彼はプロスクールのことを色々と詳しく教えてもらったらしく、最後は運転中にも関わらず姐さんに胸ぐらをつかまれながら「あんた来年スクール受けなさい!ボーナス注ぎ込みなさい!」と熱心な勧誘を受けたそうですw
今どきこんな熱い人います?最高です。本当にありがとうございました。 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?