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朽ちる我がまちのインフラと被災地の未来

皆さんは「朽ちるインフラ」という本をご存知でしょうか。
この本、私が以前受講した都市経営プロフェッショナルスクールの課題図書の一つなんです。

当時、課題図書なので読みましたよ。
正直あんまり興味惹かれないなぁ」と思いながら(笑)
でも結果的に読んでよかったのです!非常に。
最近ふと思い出し読み返してみましたがやはり良書でしたのでnoteにしたためておくことにしました。

 2011年に発刊された本書は、橋の崩落、水道管の破裂、堤防の決壊、市役所の倒壊といったインフラ崩壊が日本各地で発生し人的被害をまねくフィクションから始まります。
 でも60年代以降の米国ではこのフィクションに似たことが現実に起こっており、07年のミネソタ州ミネアポリスで起きた落橋事故の写真なんて「大震災じゃん…!」と思うぐらい酷い光景です。

 米国では、1929年の世界恐慌の発生により、積極財政による内需拡大を図ったニューディール政策下で多数の社会資本整備が建設され、当時の経済と雇用を下支えしました。しかしその副作用として、数十年の時を経て老朽化した社会資本が米国国民の生命と財産を危険にさらす事故として顕在化したわけです。

日本の橋も落ちる
 30年代のニューディール政策って言われても、あぁ蒲島知事がなんかそんなこと言ってたなあ…ぐらいであまりピンときませんが(笑)、日本で言えば50~60年代の話(高度経済成長に向かう時代)だと考えると少し身近な問題に置き換えられます。
 この時代に建設された橋がいまも現役なら60~70歳。なかなかの老朽化物件です。本書では、日本でも施設の老朽化対策を怠った場合は、米国と同様の結末を迎えかねないと警鐘を鳴らしているのです。

特殊な事情を抱える熊本のインフラ

 本書を読むうちに、徐々にファシリティマネジメントに興味が湧いてきて(今更ながらw)、益城町のことを調べてみたところ大きな特徴がみえてきました。

特徴① 建築系公共施設のうち、”公営住宅”の割合がめちゃくちゃ高い

 建築系公共施設(いわゆる”ハコモノ”)の割合を見ると、大半の自治体では学校教育施設が最も高い割合を占めています。
 しかし益城町の場合は、公営住宅の割合が最も高い約50%で、学校教育施設は36.9%です。(R4.3公共施設等総合管理計画より)
 H28年熊本地震により多くの方に災害公営住宅を供与しているので、当然っちゃ当然なんですが、地震前が25.7%でしたので相当膨れ上がっているのが数字でも分かります。類似自治体の公営住宅の割合はせいぜい20%位ではないでしょうか。
(ちなみにR3.4月時点の熊本市は公営住宅35.6%、学校教育施設34.3%です。自治体のスケールが大きい分、割合は抑えられているのかなあと思いきや、H27時点では36.4%だったのでむしろ減っている…!?この辺は詳しく調べる必要がありそうです。)
 建設当時、災害公営住宅は絶対に必要な施設だったのでとやかくいうつもりはありませんが、確実に言えることは”建てて終わり”ではなく、”これから何十年と管理・運営せねばならない”という事です。RC造だと70年、木造だと30年が耐用年数です。
 災害公営住宅の建設費は激甚法第22条第1項及び激甚法施行令第41条の規定により、国庫補助率が2/3→3/4に引き上げられ、起債の交付税措置率も勘案すると相当有利な条件で建設できています。加えて家賃低廉化補助金や特交措置もあるので、具体の数字はここには載せられませんが、意外と地元自治体の負担は少ないんだなぁというのが正直な感想です。

将来を見据えて公営住宅の供給目標量を設定しよう

 しかしその供給量は将来的には過剰となることが容易に想像できます。災害公営住宅入居者の大半は高齢者(単身もしくは夫婦2人)ですし、住宅ニーズは基本的には一世代限りのものと考えられますので、被災後に瞬間風速的に整備した戸数がそのまま将来永続的に必要になるかと言われるとそうではないというのが私の見解です。
 また、公営住宅は、誰にでも等しく開放される図書館・公民館のような施設とは趣旨が異なり、富の再分配の概念に基づく”特定の人が占有する公共施設”という意味で特殊性が高いです。そう考えると、財源が限られる自治体としては需要量に応じて供給量も必要最小限にとどめておきたいところです。今後、需要に合わせて柔軟かつ戦略的にダウンサイジングすることでコストを抑えれば、他の行政サービスにその分のリソースを振り分けることができます。
 とはいうものの、大規模なハコモノであるが故に需要に合わせて簡単に供給量を調整できないのが難点です。入居されている方の権利も当然にあります。なので、将来推計を出したうえで供給目標量を設定し、早めに中長期計画を立てたうえで徐々に供給量を調整していく、という息の長い取り組みが必要となってきます。

特徴② 有利な条件でインフラ施設の更新ができている(不幸中の幸い)

 熊本地震からもうすぐ8年が経ちますが、道路・河川・橋梁・上下水道・庁舎はじめ建築系公共施設など、様々なインフラを災害復旧事業等で直すことができました。(まだ全て復旧したわけではありませんが。)
 目に見えづらい部分ですが復旧事業に携わった多くの自治体職員の努力の賜物であり、災害復旧に関わっている方々には心より敬意を表している次第です。
 そんな涙ぐましい努力は、ファシリティマネジメントの観点からも将来的に大きく効いてくるでしょう。
 その根拠となる指標の一つが有形固定資産減価償却率です。償却資産の取得価額に対する減価償却累計額の割合を求めることで、施設の老朽化具合を示す指標です。有形固定資産減価償却率が高いほど、建替えや改修などのコストがかかる時期が近いことを示します。
 益城町では、平成28年時点で57.9%(類似団体平均55.9%)でしたが、令和2年度時点で43.5%(類似団体平均61.4%)と大幅に改善しました。これは災害復旧により結果的に資産の更新が進んだことを意味しています。しかも通常は多額の持ち出しが生じるはずであったのが、災害復旧なので国のかなり手厚い支援によって、財政的に非常に有利な条件で更新できているわけです。副作用として将来負担比率が上昇していますが、借入額の規模に比べるとかなり抑制されていることも数字を見れば分かります。(このあたりの財政状況については別途論じてみたいと思います。)

令和2年度財政状況資料集より抜粋

本書を踏まえて被災地の未来を案ずるとすれば

 本年は正月から能登半島地震が発生し、多くの方がお亡くなりになられる痛ましい被害が出てしまいました。現在進行形でインフラ復旧や被災者支援に取り組んでおられる方々には頭が下がる思いです。
 熊本地震による被災自治体の経験から言えることとすれば、”インフラの更新”という観点に立てば、多大な被害が出ておりその復旧作業は相当に大変なものとは思いますが、いまの頑張りは未来に向けて有意義なものになるはずです。なんだかんだ言って国の財政支援は本当に凄いものがあります。(政治力などにもよるので一概には言えませんが。)災害復旧のときこそ国全体で支え合っていることを実感します。

 ただ、有利な補助率だからといって余計なものを造らないように気をつけたいですね。割引という誘い文句につられて無駄な買い物をするのと一緒で、無駄なものは安かろうが無駄でしかありません。(私はつい買ってしまうタイプですが…。)
多分どの自治体の震災記録誌にも載ってないですが、とても大事な教訓の一つかなと思います。
 以上、後半は本の内容から外れましたが、朽ちるインフラを被災地の人間が読んだうえでの雑感でした。


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