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文献調査の旅 (1) 旅の始まり

ここまでのnoteでは、学術研究論文には「謎」の設定が不可欠であることに関連して書いてきました。ここからは、筆者である最上雄太が、先行文献調査を通じて、「謎」と出会い、深め、迷い、紆余曲折を経てリサーチ・クエスチョン設定に至ったか、そのプロセスについてお話しします。今回はその第一回です。

なお、以下でお話しする内容は、7月1日に上梓する書籍『シェアド・リーダーシップ入門』でも紹介していますので、ご興味ある方はそちらを参照ください。このnoteでは、書籍に書いていない内容についてもお話ししていきます。


リーダーシップって何だろう?


私が、博士論文を執筆する以前からいまに至るまでずっと抱き続けている根源的な「謎」は「リーダーシップって何?」です。抽象レベルが高くこのままリサーチクエスチョンとなりませんが、この「謎」は、私の関心をリーダーシップ研究の世界に向けさせる、魅力的で探究心をくすぐる、私にとって最高の「謎」です。

  • あの人はリーダーシップがある(ない)。

  • 我が社では、リーダー(シップ)が不在だ。

  • あの人のリーダーシップでチームがまとまっている

リーダーシップという言葉は実務の現場でもよく使われますが、リーダーシップという存在がどうもよくわからない。リーダーにはリーダーシップが必要であることは理解できるが、どうやればリーダーシップが身に付くのかがわからない。という素朴な疑問を私はずっと持っていました。

この疑問は、実務者としての立ち位置から生じた疑問です。ドクター課程に入った頃は、かなり漠然としていました。最初は「謎」というよりは、疑問であったと感じます。しかし、こういった漠然とした疑問は、先行文献と対話を続けていくプロセスでやがて「謎」になっていきます。

素朴な疑問に導かれ、私は、まずリーダーシップに関してまず全体を見渡せるような日本語の本を探しました。リーダーシップの本をAmazonで探せばすごくたくさんヒットします。文献調査にあたり、最初に何を見るのか?は重要な問題です。手あたり次第という手もありますが、効率的ではありません。

私が最初に手に取ったのが、神戸大学金井壽宏教授が執筆した金井(2005)『リーダーシップ入門』です。この本を選択した理由は、1.著者の信頼度、2.網羅性です。前者について、金井教授の本であれば問題ないですし、本文中に記載されている文献情報も信頼できます。後者について、リーダーシップ研究および理論の変遷が網羅的に紹介されており、リーダーシップ論全体を見渡すことができます。

私は、おそらく百回以上この本を見直し、アンダーラインを引き、付箋を貼りなどをして以下写真のように、ボロボロになるまで見ました。

私の本棚の、一番大切な本を入れておく場所に置いてあります。私にとっては「神本」です。こういう「神本」と文献調査の初期に出会うこと(探すこと)が、研究を立ち上げるためには大切だと思います。

この本の素晴らしいところは、巻末の文献案内が充実しているところです。当時の私のような、これからリーダーシップに関心があり、研究したいと思っているが、最初に何を見れば良いのかわからない、と考える者にはありがたい文献リストが載っていました。

疑問が疑問を呼ぶ

この文献リストから、 G.ユクルによる『リーダーシップ・オーガニゼーション 第8 版』(Leadership organizations 8th edition) というリーダーシップ・テキストの存在を知りました。

これを読めばリーダー シップ研究について知りたいことはまずほとんど見つかるという金井教授の推薦の言葉を信じ、英語であることにためらいはありましたが、次にこのテキストの読破を目指すことにしました。

ドクター課程に入った当初は、英語の文献を読むことには慣れていないので、おそらくこの本を読むだけで数週間(もしかしたら数ヶ月)かかりました。英和辞典を駆使して読み進めていくなかで、リー ダーシップの実証研究が実に多彩なテーマで行われていることを初めて知りました。リーダーシップに関す る研究分野の多さに、驚き、圧倒されたと記憶しています。

なんと、奥深く、幅広く、研究者が多いのか。

私は、このテキストを読むことで、初めてリーダーシップ研究に接近したような感覚を覚えました。リーダーシップ研究者にちょっとだけ近づいたような、すこし誇らしげな感覚です。

しかし、分厚いテキストをほぼ読み終えても、「リーダーシップって何?」という疑問は解消しませんでした。むしろ、このテキストを読むことで、あまりにも膨大な研究に圧倒されるばかりで、リーダーシップって何かがわからなくなっていました。そして、最終章に書いてある次の一文を見て愕然としました。

リーダーシップのフィールドは、何十年もの間、動揺と混乱の中にあった。効果的なリーダーシップを理解するために数千件の実証研究が行われたが、これらの研究の結果のほとんどは、弱く、一貫性がなく、解釈が困難なものだった。 このフィールドの混乱は、膨大な数の出版物、アプローチの違い、紛らわしい用語の乱発、研究の焦点が狭いこと、単純化した説明を好むこと、弱い研究手法に頼りすぎることなどに起因している。古い格言にあるように、木を見て森を見ることは困難である。

Yukl(2013)pp.388-389


このテキストの著者であるG.ユクルは、自身のテキストで膨大な研究蓄積を示しながら、これまでリーダーシップ研究がもたらしたほとんどの結果が不十分で、満足のいく結果が得られていないと言っているのです。


膨大な研究蓄積があるのに、「何もわかっていない」というというのはどういうことか???


「リーダーシップって何?」という疑問を持ち、文献探索を開始し、網羅的なテキストに到達したところ、その著者が、リーダーシップ研究は「何もわかっていない」と言う。疑問が解消するばかりか、むしろ疑問が深まるという混乱状態を私は感覚しました。

実は、この混乱の感覚こそ「謎」の入り口だったのです。それは、先行研究において、解明されていない領域に接近した際に感覚する独特のモヤモヤ感です。

「リーダーシップって何?」という疑問を解決したい私は、このモヤモヤ感を抱えながら、それを解消するために、さらに文献調査を進めていきました。しかし、文献調査を進めれば進めるほど、このモヤモヤ感は解消するどころか、増大していきました。こうして、私の文献調査の旅は始まりました。この旅の続きは次回のnoteでお話しします。お楽しみに!

クラウドファンディング明日まで!

このnoteの著者である最上 雄太は、書籍『シェアド・リーダーシップ入門』を国際文献社より出版します。6月1日から開始したクラウドファンディングも明日までとなりました(20日23:59終了)。正式発刊日は7月1日。定価より安くてに入れることができるチャンスはあとわずかです!

▼ 「シェアド・リーダーシップを広めたい!」(クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」):

https://camp-fire.jp/projects/view/675506?utm_campaign=cp_po_share_c_msg_mypage_projects_show&fbclid=IwAR3inT2iDglNoousa8BN4nSJk-VrqnAG7nNehLLsRy5PNpkS2r8H7jXIQJw


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