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TOUTEN BOOKSTOREからの学び

2021年1月に名古屋、金山にオープンした『TOUTEN BOOKSTORE』を設計しました。店主の古賀さんとは前職時代からの仲で「いつか自分の本屋を作りたいからその時はよろしくね。」という話をしていたのですが、まぁ資金調達やら準備期間を経て数年後の話かなぁと思っていたら独立した半年後に「やるよ。」と連絡が来た。2020年コロナ禍でみんなが未来に対して不安を抱いていたなか、狼煙をあげる…このパワフルな意思決定…さすが古賀さん。よし、やろう。また一緒に仕事ができるのが嬉しかった。

そこからオープンまで古賀さんとがむしゃらに突っ走る日々。

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「ビビッときたので…」と決まった物件はかつて栄えた商店街の元時計屋。雨漏りしている屋根、朽ちかけの柱と土台、随所に散らばる場当たり的な補修の履歴…とかなり状態は悪い。けどここが本屋になるイメージはすぐ出来た。スケール感、生き残ってる既存部分の可愛さにも惹かれるものがあった。

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朽ちた構造をやり直す。丁寧に解体しながら対応してくれた松美建設さんに感謝。

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登下校のたび進捗確認をする小学生たち。あざす。

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工事費抑えた分だけ本が仕入れられる。残せるもんは残そうの精神で、既存の土間床を残しつつぬるっと接続する新設土間床の接合部。残したり補修したりでガッタガタのモルタル外壁。全て恣意的ではないけど結果としてディテールにTOUTENの姿勢が映っている。そしてそれは可愛い。躯体を整える工事が松美建設さんのおかげで無事終わっていく。ここからバトンタッチしてレジや本棚をつくる。

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長手の壁に沿って本棚をひたすら並べる。その突き当り、小上がりを上がって片流れの低くて白い空間(ここは絵本コーナー)、その奥の窓から覗く明るい路地。入口は北側からの柔らかい光を受け止めつつ、アールのつや消しタイルカウンターが迎える。古賀さんと都度チューニングしながら制作を進めていく。

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制作中、クラウドファンディングで知ってくれた人や古賀さんの友人が覗きに来てたり、手伝いに来てくれたりする。一緒に左官や塗装をしてくれる(ありがたい)。オープン日が近づくにつれ学園祭の前日のようなワクワクした時間が流れる。そして遂に1/16オープン。

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本も無事並び、オープンした店内を珈琲飲みながらぼーっと眺める。情報のほとんどがオンラインで手に入る時代にあたらしい本屋が出来た。Amazonでポチれば買える時代に…AIが趣味嗜好を学習して商品を提案してくれる時代に…。でもぼくは改めて「まちの本屋」があるまちに住みたいと実感した。それを古賀さんは作った。すごい。自分の趣味嗜好と違うレイヤで出会ったことのない本が、空間のなかに一元化され広がっている。クリックしなくてもそこにある。これってすごく普通のことだったはずなのにどんどんその機会が減った世界になっている。予期せぬ出会いや出来事で人生は大きく変わるのに。本が嫌いな人はそうそう居ない。否定されにくいし親しみやすいコンテンツである反面、そこにあることが普通だとも感じやすい。

本屋じゃなくても良い、ふらっと散歩したストリートに「無くなると寂しいな」と思うお店があるなら是非入ってほしい。その「場への愛」が数年後、ふらっと散歩するそのストリートの風景に大きく作用しているはずだから。

TOUTEN BOOKSTORE:https://touten-bookstore.net/

photo:yuki fujitani_Instagram@postrea_fujico(top写真のみ)・その他筆者撮影

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