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ユタラボInterview ⑨ 檜垣 賢一さん

代表理事の檜垣は、もともと海外の大学院へ進学予定でした。
そんな彼が益田と出会うきっかけになったのは、NPOカタリバでした。

そのカタリバで学んだことから都会での生活を経験した彼が感じるこの益田での生活について、さらにはユタラボ立ち上げの経緯など様々な切り口で話を聞いてみました!

益田市との出会い

ーーまず、なぜ益田で活動をすることになったのか経緯を教えてください。

 僕はなによりも山口県で生まれ育ったということに、自分の原点があると思っています。山口県は明治維新の立役者を多く輩出していて、総理大臣の輩出数が日本一なんです。だからなんとなく、自分のためにというよりは「誰かのために生きよう」みたいな風土が地元にはあったように思います。そんな風土で育ったので、小さな頃の夢は「総理大臣」でした(笑)
 社会に貢献したいという思いは高校生になっても変わらず、大学は迷わず政治学科へ。
東京の大学に進学したけど、いずれは山口に戻ってふるさとを盛り上げたいと思っていました。大学時代で忘れられない出来事は、アメリカへの長期留学です。特に、留学先のニューヨーク州は人種、宗教、価値観など、多様性に満ちたまちでした。その多様性の中で、みんながどう共存社会を実現していくのかがとても興味深かった。そんな時期に出会った学問が、「ソーシャルジャスティス(正義論)」という分野です。平等だけではなく、公平・公正という視点を大事にするという考え方に影響を受けて、自分の大切にしたい軸を見つけられたような気がしました。この学問をもっと学びたい、そう思い、大学卒業後はイギリスの大学院に進学しようと思っていました。

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写真: アメリカ留学時代の写真(ゼミ生との集合写真)


 海外の大学は9月スタートなので、日本の大学を卒業してからの半年間は自由に使えました。そのタイミングで出会ったのが、前職でもある「認定NPO法人カタリバ」という教育系のNPOです。当時、山口県の大学生と高校生が対話をするという事業が新たにスタートする話を聞き、これは絶対に関わりたいと思い、飛び込むことにしました。

カタリバというより、山口というほうに魅力を感じたんですね。

 そうなんです。そこで半年間がんばって、よしじゃあイギリスの大学院に行こうかというときに、NPOカタリバから「島根県益田市でトライしてみないか」とお声がけをいただいたんです。大学院に行く予定だったので、もちろんめちゃめちゃ迷いました。だけど、それを大学院のほうに伝えたら、ギャップイヤーということで一年間の入学猶予をくれることになって。学びを深める前に、現場経験をもっと積みたいとも思っていたし、しっかり成長してやろうと思っていました。

それじゃあ、最初はあまり乗り気じゃなかったんですか?

 いや、実は結構乗り気でした(笑)
 当時、益田市は「ライフキャリア教育」という概念ができたばかりで。職業観だけではなく「どう生きたいか」の人生観を考える「ライフキャリア」という概念にとても共感していて。概念はあるけど動き出すのはこれからという状況だったので、教育委員会と協働しながら「ライフキャリア教育コーディネーター」として現場を持つことができるということに、とてもワクワクしていました。

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写真: 益田市教育委員会のみなさまと


益田市で活動して

ーー実際、行ってみてどうでしたか?

 どんな活動をしたかよりも、益田で暮らせたことがとてもよかったです。今まで新興住宅で生まれ育ち、大学も東京で過ごしたので、地域の人との繋がりみたいなものをあまり感じずに育っていたんです。その影響もあって僕が選んだ地域は、益田の中でも田舎の人口500人の集落。おすそ分けの文化子どもたちを地域全体で育てるという文化があって、助け合いが生まれている風土がとても素敵だと思いました。

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写真: 移住して地域の方が企画してくださった交流会で

 その一方で、益田の中でも都市部では、人口は増えているけれども人との繋がりが希薄化している現状がありました。反対に、田舎では助け合いの文化が残っているけれども、目に見える形で過疎化が進んでいる現状がある。そんな現実を見て、ここでの活動は一年間で区切りがつくわけがないと思いました。このままだと中途半端で終わるなって。地域のみなさんとの出会いもあって、このひとたちの力になりたいって心から思ったんです。そういう経緯で、一年を終えるとき「ここにしっかり根を張って活動したい」という想いが出てきました。だから益田に残ることにしたんです。


ユタラボ立ち上げの背景

ーーでは、次にユタラボを立ち上げることにした経緯を教えてください。

 東京や海外での生活をしたからこそ、都市と田舎など、生まれ育った環境で子どもの持てる選択肢のちがいが出てきてしまう「地域格差」みたいなものをすごく感じていました。だからこそ、益田に来た当初は子どもたちにいろんな選択肢を提供したいと思っていました。でも、実際益田に来て生活してみると、逆に僕自身が益田で教わったことのほうが大きかったんです。
 具体的には、大きく3つ。人とのつながりの中で助け合いながら生きるあたたかさ”ない” なら自分たちで ”つくる” ワクワク仕事と家庭以外の足場も持つことができるゆとり。こういう、お金では買えない豊かさを教えてもらったと思います。

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写真: 手作り感溢れる、地域の文化祭

 東京にいた時は自分じゃなくても誰かがやってくれるだろうと思っていたことでも、ここでは自分がやらなければ誰もやらないぞということがたくさんあって。それ以外にも、都会に比べて娯楽スペースが少ないからこそ「週末はみんなでイベントをつくろう!」という風に「みんなでこのまちを盛り上げよう」という文化がとても素敵だと思いました。でもこういった幸福感を、思った以上に益田のひとが気づいていないんですよね。都会と比較して、ないことばかりに目を向けて益田を卑下する人が多いことがとても残念だと思っていました。
 子どもを中心に据えた活動を続けていくうちに、次のステージに行きたいと思うのは自然な流れでした。これまでの活動は、あくまでもターゲットは子ども。子どもに対するアプローチは的確だけど、でもそれだけじゃダメなんじゃないかって思い始めていて。益田で生活しているうちに、子どもだけではなくて大人がもっと仕事外での活動づくりをしたり、「幸せとは?」を考えたりすることが大事だと思うようになったんです。

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写真: 図書館での月一のマルシェ。地元野菜で作ったカレーを提供する「ヒガキッチン」を出店。

これからについて

ーー大事にしたいことはなんですか?

 一言でいうと、自分自身がライフキャリアを体現したい。益田に来て自分が幸せだと思えているからこそ、これからは「ユタラボ」という組織で、大人向けにライフキャリアを楽しみたいと思える人を増やしたいです。そもそも「ライフキャリア」を軸に仕事をするからには、まずは自分自身が体現しなきゃなとも思っています。最近、益田で教えてもらった価値観があればどこに行っても幸せになれるなって思うんですよね。そういう人を、一人でも多く増やしたいなと思います。

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写真: 人生初の田植え。大人になってからも初挑戦がたくさんある益田の暮らし
素敵ですね。

 山口、東京、ニューヨーク、そしてこの島根県益田市での生活を通して、自信を持って思うことがあります。それは、たとえどんな環境に置かれていたとしても、自分の未来は自分の気持ち次第で作りだすことができるということ。特に、益田での暮らしを通して、幸せは「買う」ものではなく、「つくる」ことができるということを学ばさせてもらいました。田舎で「ないものねだり」をしている限りは、いつまで経っても都会への憧れを拭えずに、自分の暮らしを肯定することはできない。また、都会にいる人がみんな幸せかといえば、そうでもなかった。たくさんの人の中に埋もれて、自分の存在価値を見出せない人もたくさん見てきました。

 結局のところ、「幸せ」は、場所や境遇など置かれた環境だけではなく、「自分自身の心持ち」がとても大事だと思っています。今の自分の環境を受け入れた上で、その中でどう幸せと感じる瞬間をたくさんつくっていくのか、これは自分の気持ち次第でいくらでも世界の見え方は変わってくるはずです。

 だからこそ、ユタラボでは、現状を言い訳にせずに、積極的に自分の未来をつくりだそうとする仲間を増やしていきたいと思います。

ーーこれからやりたいことはありますか?

 一番は、マネージャーとしての専門性を高めたいです。4年間プレイヤーだったからこそ、これからはその立場ではなく一歩引いて全体を見る立場になる。その中で、引っぱるリーダーというよりは自分自身がみんなに背中を見せながら、みんなで一緒に成長していきたいです。
 ユタラボとしては、みんなが ”自分らしさ” を忘れずに働きながら自己実現できる組織にしたいです。組織外だったら、益田市内外問わず、いろんな人にとっての希望になりたいですね。僕たちはみんなが Iターンだからこそ、地元の人が価値だと思わないようなところに価値を見出せると思うんです。そこを強みにしながら、どんどん益田の価値を発掘していけたら楽しいですよね。

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きらきらした目で、これからやりたいことを話してくれた代表。代表自身が一番ワクワクしているからこそ、私たちもワクワクすることができるのだと感じました。ありがとうございました!

檜垣 賢一|Kenichi Higaki
一般社団法人 豊かな暮らしラボラトリー 代表理事
山口県生まれ育ち。大学時代、東京とアメリカ(ニューヨーク州)で暮らす。2016年から2020年まで、認定NPO法人カタリバ職員として、益田市が掲げる「ライフキャリア教育」を推進。2020年4月より現職。

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