根回しの必要性

根回しという言葉がある。複数の利害関係者(部門)が集まる案件に関して重要な意思決定を伴う会議で、事前に承認が得られるよう利害関係者に説明や承諾を得る行為を指す。

この手の手法は、「日本特有の悪しき文化で、やめるべき」といった意見や、「むしろ海外の方が根回しは徹底しないといけない」と賛否が分かれる。

日本がどうとか、海外がどうとかはどうでもいいので、根回しにどのような意味があるかを考える。

前提

根回しについて考える前に、仕事や組織の性質、そして人の持つ特徴を整理する。なぜかというと、組織は人の集合体だからだ。

まず、仕事や組織の性質を考える。

  • 案件は一人では完結しない。プロジェクトが大きくなり、利害関係者増えるほど、決裁者、協力者、実行者が分割されていく。

  • 組織は、目的に応じて設置される。例えば、企画を行うために企画部門があり、それを実現するために開発部門があり、売るためには営業部門があるといった具合。

  • 組織は、ある一定の長の配下で動く。長が配下の評価を決めるため。

  • 組織に属する個々の労働者は、評価が最大化するように行動を行う。稀に、評価を無視して動く者もいる。

続いて、人はどのような特徴を持っているか。

  • 自分の考えが正しいと思っている。他者と意見が異なる場合は、まずは相手が間違っていると考える。

  • 得ている知識の量は深さはそれぞれ異なる。

  • 生存本能があり、得ている知識や、そこから導き出される結論に沿わない行動に拒否反応を持つ。

  • 物事の理解に時間がかかる。単純なロジックであれば理解は早いし、複雑になると時間がかかるか理解できなくなる。

ケーススタディ

あるプロダクトのリリースに向け、30分の会議でAAA百万円の決裁を取る。これに向け、決裁者、企画部門、開発部門、営業部門の入った会議を開催すると仮定する。

決裁者:本事案がAAA百万円の投資に値するかを判断する
企画部門:説明者として、本事案の正しさを説明する
開発部門:利害関係者であり、本事案が決裁された場合にコストやデリバリーに対して実行責任を伴う
営業部門:利害関係者であり、本事案が決裁され、開発が完了した後に販売開始し、投資を回収する責任を伴う

このように考えると、決裁者は決裁を行うにあたり、(1) 企画コンセプトは自社の戦略が思想に合致しているのか、(2) 開発計画はコストやデリバリーの観点でリスクなく適正なのか、(3) 現実的に販売は可能なのか、を判断しなければならない。

開発部門は、実行責任を伴うため、リスクある開発は避けなければならない。企画のコンセプトに合致した要件定義ができるか、それらに対する投資金額は妥当か、開発に伴うリスクがないか。これらに相反する要素があれば、阻止しなければならない。

営業部門は、売れるものを作ってもらいたい。現場の稼働も加味すると、より売りやすく、支援も不要なものが望ましい。そうでないならば、体制を拡充する必要があるし、その費用を計上しなければならない。

上記を全て満たすよう、企画部門は資料を準備し、10分程度で説明し、10分程度で議論し、5分程度でラップアップを行わなければならない。
この時、各部門は前述の前提にある通り、組織の目的は異なり、人それぞれに知識の範囲は深さも異なり、自分は正しいと思っている。また、危険と判断した案件に対して生存本能が働く。

根回しをしない場合

とてもじゃないが、これを1回の会議で終わらせるのは至難の業だろう。最初から、各部署が十分に実行でき、売れると判断できる材料を準備し、それを澱みなく説明し、リスクや対処の方向性を議論し、決裁を得る。これを30分で行うことになる。

であれば、3回に分けるというのも一案だ。

  • まず、企画のコンセプトを説明する。次回までに、開発部門は開発に対する金額、納期のリスクを明確にする。また、営業部門は販売にあたってのリスクを明確にする。

  • 二回目の会議では、各部門が提示したリスクやそれに対処するための手法を議論する。対処はいくつかの案を準備しておき、その案を採用する。

  • 最後の会議では、案に従った企画及び実行計画をレビューし、決裁を得る。

上記を行うために、30分の会議を3回、すなわち1.5時間かける。決裁者、企画部門、開発部門、営業部門が1名ずつであれば、合計6時間が消費される。認識に相違が出れば、都度やり直しになるだろう。

根回しをした場合

会議を短縮できる可能性がある。例えば、企画コンセプトの説明としてキックオフを行い、二回目の会議を根回しと呼ぶ個別の対応でスキップし、最後の会議を行う。

この場合は、

  • 会議の時間:30分会議が2回、決裁者、企画部門、開発部門、営業部門が1名ずつ出席するので4時間を費やす。

  • 根回しの時間:企画部門1名と開発部門1名の個別議論に30分、企画部門1名と営業部門1名との議論で30分。合計2時間を費やす。

ここまでで、トータルの時間は同じ。

あとは、会議の出席者の人数や、会議の調整のしやすさ、会議出席者がどの程度の知見を持っているかなどによって変わってくる。

変数にして計算すればわかるだろうが、一般に、規模の小さい組織であれば根回しは無駄で、規模が多い組織になるほど根回しをした方が効率的になるのではないか。

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