無題

カナダで知った「恩送り」

無印良品の今週のコラムで「恩送り」が取り上げられていました。

僕が「恩送り」という言葉に出会ったのは、確か10年ほど前。
沖縄のゲストハウスに泊まった時に、そこのオーナーさんが「沖縄には『恩送り』という言葉があってね」と教えてくれた。

僕は「恩送り」と聞くと、思い出す経験がある。
それはカナダのカルガリーに留学していた時のこと。
帰国の前日、当時付き合っていた子の荷物を、僕のホームステイ先に持っていく時の出来事。

カルガリーは冬季オリンピックが開催されたこともある位、冬になると寒さが厳しい。
僕が経験した中で、最も寒かったのは-40℃。
余談になるけれど、-20℃になると鼻毛が凍って、-30℃になるとまつ毛が凍る。笑

そんな寒さの厳しい環境だから、路面は当然凍結していて、普通に歩くのにも苦労する。
そんな中を彼女のスーツケース(約20kg)を、凍結した路面の上を引きながらバス停に向けて歩いていた。

バス停まであとわずかという時、車に乗った女性が「送っていってあげるから、車に乗りなさい」と声をかけてくれた。
最初は見ず知らずの方で怖かったこともあり遠慮していたけれど、「どうしても」ということで最終的に彼女の好意に甘えさせてもらった。
車の中で「どうして声をかけてくれたのか」を尋ねると、彼女は「怪我をした息子を高校へ送り届けに行く時に見かけて、帰りにもまだいるようだったら、声をかけようと思ったの」と答えた。

それまでは見ず知らずの人から卵を投げつけられたりと「人種差別」にも会っていた。
そのため「最後の最後にこんなにも素敵な人との出会いがあるのか」と心が温かくなったことを、今でも鮮明に思い出せる。

見ず知らずの僕たちにこんなにも親切にしてくださったお礼をどうしてもしたかったため、「名前と住所だけでも教えてほしい」と伝えたけれど、彼女は頑なに拒み続けた。
そして「困っている人がいたら、助けるのは当然でしょ」と言うだけだった。

そのまま家まで送ってもらい、結局名前と住所は聞けずじまいだった。
ただ彼女は最後に「もし感謝してくれるなら、自分の国(日本)に帰った時に、同じことをして」と言った。そして「それだけで十分だ」と。

日本に帰国後、僕はなぜだか街中で外国人から道を尋ねられることが多く(笑)、彼女との約束は果たせているのかな。
ただあの恩はまだまだ送りきれていないから、これからもできる限り送り続けたい。

今思い出しても「夢だったんじゃないか」と思ってしまう位、素敵な方だったな。

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