令和5年度土地家屋調査士試験 記述式【土地】所感


皆さん、本試験お疲れ様でした。
非常に大変で厳しい戦いだったと思います。
ここでは少し、個人的な意見も含めて第21問(土地)についての所感を述べたいと思います。
(建物についてはこちら

二筆分筆なのか三筆分筆なのか

アガルートと他の予備校の解答速報を比較して混乱された方が多いのではないでしょうか。
もちろん色々な可能性があることを前提に、我々も検討しました。
ひとまず我々が重視したのは「その余の土地については、新地番を1番4として付番すること」という記述です。
これをどう解釈するかによって二筆か三筆かが分かれます。

  • 二筆に分筆し、一方の地番を1番4とする

  • 現時点で1番の最終の支号は3であり、新たな土地は4から使用する

のどちらの意味で取るかによって申請する登記が変わるわけです。

我々は前者を選択しました。
その根拠は「新地番を1番4として付番する」という言葉です。

これがもし「1番4『から』付番する」であれば、三筆分筆を示唆しているといえます。しかし「1番4『として』付番する」は、二筆に分筆した上で、新たな地番を1番4とせよ、と受け取れます。

参考までに、令和4年度の問21における注意書きを見ておきましょう。

その余の土地については新地番を184番3からとして東側から順に付番すること。

令和4年度 第21問(注)7

こちらは三筆分筆の問題ですが、ちゃんと「から~付番する」とありますよね。この書き方でなければ日本語としておかしいはずです。

仮に三筆分筆とした場合、1番5という地番が生じますが、これは北側の土地に付番するのか、南側の土地に付番するのか不明です。この付番次第では、その後の合筆登記において、申請書に記載する地番も変わることになります。採点者は図面と整合が取れているかどうかをその都度確認して採点するのでしょうか。近年の問題においては必ず区画ごとに地番の指定がされていたことを考えると、この点は非常に違和感を感じます。申請人が自由に決めてよい、などとする問題は出題されていないのです(少なくとも問題文の中に順番を示唆する情報があります)。上に挙げた令和4年度試験においても、ちゃんと付番のルールが指定されていますよね。「どちらを1番5にしても正解なんだよ!」というのでは、解答者をいたずらに迷わせるだけであり、作問として乱暴すぎないでしょうか。

また、三筆分筆をした場合、分筆によって新たに登記記録が作成されますが、このうちの1つはその後の合筆によってすぐに閉鎖されることになります。これは登記所の事務処理の手間を増やすため、歓迎すべきことではありません。
こうした無駄を回避する方法として分合筆登記という制度が作られたわけですので、むしろ二筆分筆の後に分合筆登記をした方が登記実務的には合理的といえます。

「土地地目変更・分合筆登記は一の申請情報で申請できないのでは?」という疑問があるようですが、その可否については、法務省自身が平成20年度問8肢ウにおいて「土地一部地目変更・分合筆登記は一の申請情報で申請できる」と答えを出しています。これは、「表題部の変更+分合筆」(規則35条1号と7号の重畳適用)ですので、同様に「土地地目変更・分合筆登記」も可能となります。

「一部地目変更の場合は、単なる地目変更のときと扱いが異なるのでは?」という見解をお持ちの方がいるようなので追加でお答えすると、令和2年度問9肢イにおいて、「一部地目変更・分筆登記は、『表題部の変更』と『分筆登記』を一の申請情報で申請するものである」ことが明確に示されています。したがって、取り扱いは同じです。先の平成20年度の問題において、法務省は「それに加えて合筆もできる」と言っているわけですから、一部地目変更が地目変更になっても結論は同じです。

なお、これについて、規則35条7号ではなく同1号の適用範囲である(つまり、1号と7号の重畳適用ではない)と独自の解釈をされている方がいらっしゃるのですが、アガルートの解答を法的根拠がないと批判する一方で、自ら法的根拠がない自説を展開されるのは矛盾以外の何物でもありません。

(2023.11.1追記)
東京法務局から、問題なく申請できる旨の回答をもらいました。

ただし、二筆分筆にも疑問がないわけではありません。
分筆を二度も別の申請において行うことは、地積測量図を2枚用意することになり、迂遠ともいえるからです。

これを検討している際に、私は平成28年度の第21問を思い出しました。
この問3において「丁土地の登記の申請書を完成させなさい」という記載があります。しかし、聴取記録の概要を読むと、明らかに分合筆登記を示唆しているのです。分合筆登記では二筆の土地が絡んできますから、この問題においては正しくは「丁土地と乙土地についての登記の申請書を完成させなさい」と記載すべきであったはずです。しかし、このように書いてしまうと分合筆であることが明白になってしまうため、直接的な言い方を避けたのではないかと思います。言葉通り「丁土地の」登記の申請書と解釈した場合は、単なる分筆の登記となってしまいますが、この問題においては「丁土地の」という文言にはあえて目をつぶり、聴取記録の概要から明らかな分合筆登記を申請すべきであると結論づけています。

その意味では、今回の問題における「新地番を1番4として付番する」という言葉も、三筆分筆であることを悟られないように、あえて分かりづらく書いた可能性もあります。したがって、三筆分筆が出題者の意図であった、ということも一応考えられるでしょう。【聴取結果の概要】5と6の前提としての登記で受任しているのであれば、5だけでなく6においても分筆が必要であることは把握できていたはずですから、分筆は分筆だけでまとめてやってしまえば、地積測量図も1枚だけで済むことになります。申請の手間を考えれば、こちらの方がシンプルといえます。

といいつつも、これはあくまで調査士の手間の問題だけであり、申請人に負担をかけるものではない(登録免許税額に変わりはない)ことから、さして支障があるとも思えません。ですから、地積測量図が2枚になることをもって、二筆分筆が不適切だということはできないでしょう。むしろ、登記実務的には分合筆の方が合理的であることは先ほど述べた通りです。

この点について、「地積測量図の作成料が増える」という意見があるようですが、それは個々人の調査士が自由に決めるものであって、増えると言い切れるものではないので、試験において考慮すべきことではないと思います。

結局のところ、作問者が(注)7をどのような意図で記載したかによるわけですが、予備校間でここまで見解の相違を引き起こした以上、その意図が明確に表示されていたとは言い難いでしょう。平成28年度とはここが大きく異なります。

どちらの見解を取るにせよ、申請人の希望する到着地点へは行きつくのですから、両方正解となってもおかしくないとは思います。ただし、(注)7を言葉通りに解釈すれば、二筆分筆になるはずです。
アガルートでは、当初の見解通り、二筆分筆からの分合筆登記を維持します。あとは合格発表時の出題趣旨の確認と、開示請求答案の分析によって判断したいと思います。

最後に

これは問22の出題にもいえることですが、1年に一度しか実施されない国家試験において、予備校間で見解が割れる問題は絶対にあってはなりません。出題者も必死に考えて作問しておられるとは思いますが、明確な根拠があり、他の答えがありえないような、一本の道筋を示すものであって欲しいと思います。

また、実務家登用という側面はありつつも、あくまで国民が平等に受けられる国家試験なのですから、経験者でなければ判断が難しい実務寄りの問題は不適切であると思います。ただでさえ登録者数、受験者数が減少傾向にあるのですから、新たに調査士を目指す方に対し、広く門戸を開いた試験であって欲しいと思います。

今年の記述式の問題を目にした受験生がどれだけ困惑したかは、想像に難くありません。受験生は人生をかけて必死に勉強して試験に臨んでいるのですから、その努力をないがしろにするようなことはやめて頂きたいと思います。

最後の最後に(2023.12.19追記)

「試験においては根拠に基づいた解答が求められ、実務上の取扱いに過ぎないものを解答とするのはいかがなものか」といった趣旨のご意見を目にしました。

実は、このご意見には大いに賛同いたします。私も、(注)7においてあのような指定がなければ、当然に三筆分筆からの地目変更・合筆登記を申請した方がよいと考えます。

ただし、試験である以上は、問題文の指定に従うべきであり、それは何よりも優先されると思っております。つまり、明文の根拠がなかったとしても、実務上の取扱いで認められており、問題文からそう解答するものと読み取れるのであれば、そちらを選択すべきであるということです。

これは私が屁理屈をこねているのではなく、事実として調査士試験はそういうものだからです。

例をいくつか挙げますと、まず、平成27年度 第22問 問1において、分離処分可能規約を提供する旨の解答が求められていますが、これは法令に根拠はありません。建物の区分の登記の添付書類に分離処分可能規約は入っていないのです(令別表16項)。
しかし、問題文に「土地の所有権を乙山一郎名義のままとするための手続」と記載されている以上、分離処分可能規約を提供する以外の答えはなく、アガルートに限らず他の予備校の多くもそのような模範解答を提示しています。つまり、アガルート以外の予備校も、法令の根拠より出題意図を優先しているのです。

また、令和2年度 第22問 問1において、建物滅失登記の添付書類に変更証明書の記載を求めていますが、これも明文の根拠はありません。あくまで実務上の取扱いに過ぎないものです。アガルートでは毎年開示請求答案の分析を行っておりますが、変更証明書の記載がなかった場合は減点の対象であったと結論を出しています(※あくまで独自の分析結果です)。書かなくても点数に変わりがないというのであれば、この設定を盛り込んだ意味がありませんので、書いた人を評価するために減点したのだと思います。

そして、先に挙げた平成20年度 第8問 肢ウも、重畳適用を認める根拠はありません。しかし法務省自身が〇であると解答を出しています。これを×と判断すれば本問は得点できません。

つまり、調査士試験においては、明文の根拠がなくとも、実務上の取扱いで認められており、かつ、問題がその解答を示唆しているのであれば、その通りに答えなければならないということです。事実として、そう解答しなければ得点できないのです。予備校講師としては、合格につながる指導をしなければなりませんから、これを「根拠がない」と切って捨てるわけにはいきません。

誤解がないようにお伝えしますと、私としても、明文の根拠がないことは決して良いことだとは思っておりません。それは「最後に」で「実務寄りの問題は不適切である」とお伝えしている通りです。

調査士試験が、明確な法令や先例に基づいた、一切の疑義がないものになることを願ってやみません。

第22問「建物」についての所感はこちら

もし私が作問者だったら、こういう点に注意します

(※ここに掲載されている内容は全て中里の個人的な意見です)

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