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No.08:あなたの選択はコントロールされるかもしれない|今週の論文

はじめに

「あなたは殺人は時に正当化できると思いますか?」

このような質問をされたときあなたはどう答えるだろうか。
「時に正当化できる」「いかなる時も正当化できない」の2つの選択肢が与えられた時、あなたは自らの考えに基づいて選択するだろう。

しかし、その回答は果たして自分の考えによるものだろうか?
もしかしたらそれは誰かによってコントロールされた意思決定なのかもしれない。


我々は日常的に様々な意思決定をおこなっている。
スーパーで商品を手に取る時、ネットで商品を購入する時、選挙で投票する時、選択のバリエーションは様々である。
道徳的な価値観を答える時もそのひとつ。

商品や画像等の視覚的な選択肢について、被験者の視線を計測することによってどちらの選択をおこなうかを予測するような研究はこれまで多くおこなわれてきた。
しかし、今回の論文では道徳的な視覚情報を持たない選択肢に対して、視線の軌跡を追跡し、選択するタイミングを調節することで、意思決定のコントロールが可能であることを示唆している。

つまり、意思決定が視線に現れることを明らかにするだけでなく、視線が意思決定に影響を与えていることを示唆している。


道徳的な意思決定は視線に現れるだけでなく、視線によって影響されうる

Biasing moral decisions by exploiting the dynamics of eye gaze
( Philip Pärnamets, Petter Johansson, Lars Hall, Christian Balkenius, Michael J. Spivey, and Daniel C. Richardson, 2015)

視線は空間記憶、言語処理、意思決定等の認知タスクにおける認知処理の窓であると言われている。

単純な嗜好に対する意思決定をおこなう際、人は選択しようとしている選択肢に視線を向けていると言うことが過去の研究で明らかになっている。
そこで本研究では、注視と意思決定の研究を単純な嗜好から複雑な道徳的選択まで拡張した。
さらに、意思決定がおこなわれるタイミングのみを制御し、系統的に選択に影響を与えることができると予測した。


実験は3種類の実験をおこなった。

(実験1)
実験ではまず視線が道徳的な選択に対しても意思決定のプロセスを反映していることを示す実験をおこなった。まず、注視点を見せて「殺人は時に正当化できる」というような道徳的な審議を問う質問を聞かせた。
その後その回答となる2つの選択肢「正当化できる」「正当化できない」をスクリーンの左右に同時に提示し、どちらか一方に少なくとも750ms、もう一方に250msの時間視線が向いた時に意思決定を促す指示を出した。
質問は98個あり、選択後1000ms後に次のトライアルに移行した。

その結果、59.6%の確率でターゲット(750ms見た方)を選択した。
その際ターゲットを選択する速さは非ターゲットを選択したときと比べて速かった。→視線が道徳的な決定に対する選択軌道を反映している。

このことから軌道が明らかになればその軌道に応じて決定させるタイミングをコントロールすれば、意思決定をコントロールできるはずであると考えられる。


(実験2)
次に、意思決定のタイミングを操作することで、意思決定自体をコントロールできることを明らかにするために、視線の軌道に合わせて意思決定を促すように時間設定をした。
あらかじめターゲットとなる選択肢をどちらか一方ランダムに決め、ターゲットの選択肢を少なくとも750ms、他を少なくとも250ms見た時に意思決定を促す指示を出した。

その結果、58.2%の確率でターゲットを選択した。このときも前の実験と同様に選択する速さも速くなっていた。
このことから視線は意思決定を反映しているだけでなく、意思決定に影響を及ぼしていると言える。


(実験3)
被験者の意思決定の軌跡を中断したことを確実にするために、パラダイムは実験2と同様であるものの、それに加えて、意思決定の指示が示される前に参加者が自らのタイミングで選択をおこなうことができるようにした。
ただし、実験2と同様に、あらかじめランダムに決められたターゲットの選択肢を少なくとも750ms、他を少なくとも250ms見た時に選択をおこなっていなければ、実験者によって意思決定を促す指示が出された。

その結果、20.9%が自ら選択をおこなった。
そしてその自ら選択をしたものを除いたもの、つまり意思決定の軌道を中断された試行のうち、55.3%の確率でターゲットを選択した。


これらの3実験についてどちらに注意が向いている時に選択させたかを分析したところ、注視している時間の影響より最終的に向いている視線の方向が選択に大きく影響していることが明らかになった


以上のことから、道徳的選択において、意思決定が視線の方向に現れるだけでなく、視線の方向が道徳的選択に影響していることが明らかになった。


おわりに

今回はこれで以上です。

今回の論文は、選択のタイミングを制御することで視線の操作をすることもなく意思決定に影響し得るというはなしでした。

これが悪用されたらネットショッピングで自分の意思に反して購入してしまうなんてこともあり得るのかもしれません。
そうなったとき果たしてそれは自分の意思なのか、意思に反したものなのか。。
まぁもちろんそんなに簡単な話ではないので、恐れる必要はないと思いますが、こういった研究が悪用されるのではなく良い方向に使われるといいなぁと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
もしおかしな解釈等ありましたら教えていただけると助かります。









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