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麗らかに…episode3『幻の天才』

午前中、3年生の教室をひたすらハシゴし、ひと息つくと気付けば昼休みも半分過ぎていた。ノソノソとカフェテリアへ向かう。

ピークは過ぎたようで、人の入りもまばらになっていた。今日はあまり時間も無い。ヒト用サイズのざる蕎麦を頬張る。

ウマ娘はその運動量を維持するため、食事の量もケタ違いだ。トレセン学園のカフェテリアでは、そのウマ娘達の胃袋を満たす食事を実質無料で提供している。もちろんヒト用の、小さい(と言ってもウマ娘目線で)サイズの食事もあるが、きちんと「ヒト用サイズ」と言わないと、数分後には絶望的な光景が待っている。

「おっす〜。ブタちゃん、お疲れ〜。ここにいるなんて珍しいですねぇ。さては奥様とケンカして、お弁当抜きですか?w」
同僚のように気さくに声をかけてきたのは、赤い髪のウマ娘。
「渡辺さんもお疲れ様。あっ、今は『ネイちゃん』って呼んだ方が良いのかな?」
「先生ならどっちでもいいですよ〜。ってか、アタシの本名を知ってる人も少ないし」

彼女は去年担任をしていた渡辺音生(ワタナベネイ)、中等部3年。去年『ナイスネイチャ』という名前でデビュー。クラシック級で期待されている1人なのだが…。

「高田さんから聞いたけど、皐月賞には出ないんだって?」
高田さんとは、ナイスネイチャの担当トレーナー。私の恩人でもある。
「いやぁ、まぁ、その辺は、アタシも色々思うところがありまして…」
ネイチャの歯切れが悪い。それとなく高田さんから事情は聞いている。あまり深くは触れないでおこう。
「それよりもさぁ、アタシもトレーナーさんから聞きましたよ。ブタちゃん、午後からトレーニングゾーンに来るって。誰かお目当てさんでも?」
「そうそう、赤い髪の可愛い元教え子をストーキングしたくてね。
って、渡辺さん、その話、どこまで聞いてますか?」
誰も知らない話だと思って、すっかり油断していた。まぁ、一応公式には人事異動として広報されているのだが…。
「いやいや、ストーカーは普通にアウトでしょ。
まぁ、武田トレーナーの伝説は、アタシのトレーナーさんから、全部聞いてますよ。『幻の天才』復活とか、でちゅね遊びとかw」

ー幻の天才ー
たしかに今の私は、「幻」なのかも知れない。

(To be continued)

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