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コライト成功の鍵は、みんなの熱量とリスペクトの気持ち - Co-Write Day × The Creators SPECIAL PROJECT

2023年10月21日(土)、22日(日)に福岡市で開催された「The Creators 2023」(クリエイティブ・ラボ・フクオカ主催)の中で、AmPm(アムパム)のプロデューサーの1人である高波由多加(NAMY)が手がける 「Co-Write Day」とのコラボイベント、Co-Write Day × The Creators SPECIAL PROJECT「Co-Write Session “FUKUOKA ×ASIA”」が実現。

マレーシアのシンガー Zee Avi(ジィ・アーヴィ)を招き、福岡のバンド MuchaMuchaM(ムチャムチャム)とコライト(共同制作)で楽曲『Day by Day』を制作。21日には福岡アジア美術館で公開セッションを行い、22日にはライブステージで『Day by Day』を含む6曲を披露した。このSPECIAL PROJECTをNAMYとMuchaMuchaMが振り返り、コライトの魅力について語り合った。

・Zee Avi(ジィ・アーヴィ)
マレーシアのシンガーソングライター、ギタリスト、ウクレレ奏者。マレーシアのサラワク州ミリ出身。2007年に初の楽曲「Poppy」、数ヶ月後に「No Christmas For Me」をYouTubeに投稿したところレコード会社からオファーが殺到。2009年5月、ファースト・アルバム『DebutWith Zee Avi』をリリース。同日、YouTubeはSpotlight:Music Tuesdayのトップページで彼女を紹介。2009年のベストアルバム第9位を獲得。2011年リリースのセカンド・アルバム『Ghostbird』は、アメリカのビルボード・ヒートシーカーズ・アルバム・チャートで首位を獲得。テレビ番組ゴシップガールで使用された「Swell Window」や「Con- crete Wall」といったヒット曲を生み出した。2016年『Arena Cahaya』で第53回台北金馬奨の最優秀オリジナル映画ソング賞を受賞。自身初の主要国際賞受賞となった。

・MuchaMuchaM(ムチャムチャム)
MuchaMuchaMは、Shogo Satoが率いる新バンドプロジェクト。日本・アジアの音楽をミックスした、亜熱帯を感じさせるサウンドが特徴。バンド名は沖縄の方言「むちゃむちゃ(ベタベタする)」から名付けている。

・高波由多加(NAMY)
Namy& Inc. CEO & Founder / PLAY TODAY Founder.
シーンに人に寄り添う音楽をセレクトするだけでなく、時に国内外のミュージシャンと音楽を創る活動も行う旅する選音家。Spotifyでの総再生回数が1億回を超える覆面プロジェクトAmPmをはじめ Tokimeki Records, Snowk 等、海外のリスナーが多い音楽プロジェクトを手がける。

(取材・執筆)栗原京子コルクラボギルド


Co-Write Dayだから出会えるチャンスを作りたい

ー 今回のコライトもNAMYさんが「このミュージシャン同士がコライトしたら面白い!」と感じてマッチングされたんですよね。ミュージシャンの組み合わせはどんなふうに考えているのですか?

高波由多加(以下、NAMY)
ミュージシャンの組み合わせにはかなり気を配っています。ただ人気があるからという理由で合わせても、良い曲が出来上がるとも限らないし、ミュージシャンがコライトを楽しめずに終わってしまうこともあるからです。ミュージシャンにとって、コライトが良い刺激になることを考えながら声をかけています。

今回は「The Creators」とのコラボ企画なので、福岡で活動しているミュージシャンから1組選ぶことが決まっていました。MuchaMuchaMは活動を始めて1年ほど(2024年1月現在)だけど、良い曲を作るんですよ。彼らの楽曲を初めて聴いた時から、いつかMuchaMuchaMのコライト楽曲も聴いてみたいと思っていたので声をかけさせてもらいました。

彼らに声をかけた後にマレーシアを訪れた時、しっとりと湿度が高めの空気を感じながら、この空気中で生まれる音楽がMuchaMuchaMに合いそうだなぁと思いついちゃって。それで、マレーシアのプロデューサーに「MuchaMuchaMとコライトできるミュージシャンがいないかな」と話して、紹介してもらった中にZee Aviがいて。彼女のソウルフルな歌声がMuchaMuchaMの楽曲と合わさったらめちゃくちゃカッコいいなって想像できちゃったんですよね。
Zee AviにMuchaMuchaMの楽曲を聴いてもらったらすごく気に入ってくれたので、今回のコライトが実現しました。

Shogo Sato(以下、Sato)
コライトのお話は純粋に嬉しかったですね。お相手がZee Aviと聴いた時は「マジですか?」と声が出てしまいました。結成して1年の自分たちが、こんなに世界中にファンがいる有名な方とコライトできるなんて驚きますよね。

NAMY
最近はサブスクをきっかけに、どんなミュージシャンとでもコライトが始まる機会が増えてはいます。でも、ヒットランキングや関連ミュージシャンの一覧だけでは辿り着けない出会いもたくさんあります。Zee AviとMuchaMuchaMも、今回のCo-Write Dayがなかったらまだ出会っていない2組だったんじゃないかな。

Sato
そう思います。しかも今回は、Zee Aviも僕らの音楽を気に入ってくれた上でのコラボなので、テンションもグンと上がりましたね。

ー コライトを実施する際、ミュージシャンの組み合わせ以外にNAMYさんが気を配っていることはなんですか?

ミュージシャンが決まったら、オンラインでもいいので会話をする機会を作ります。そこには僕も参加して会話がしやすい場作りに気を配ります。でも、コライトの場所に集まって制作が始まったら、干渉しすぎない距離感を保つようにしています。おすすめの店を聞かれたら答えるとか、困ったら相談にのる準備はしておくけど、あとは、That's life.の精神でいるようにしていますね。
制作スケジュールも決めすぎてしまうと息苦しくなるし、キュレーターが入りすぎてもミュージシャン同士の交流を阻害してしまうこともあるから、何度か一緒に食事をする時間だけ確保させてもらったら、他は信頼してお任せする。昨年の経験を経て、キュレーターとしての役割や立ち振る舞いも少しずつ確立できてきたなと感じています。

出会ってすぐに制作スタート

ー なるほど。楽曲制作はどのように進めていったのですか?

Sato
お会いする前にデモを3曲送ったのですが、しばらく反応がなかったんですよ。だからイメージと違ったんかなぁと思って、追加で『Day by Day』という曲を送りました。『Day by Day』は、コライトで完成させたら絶対面白くなる曲だったけど、いつものMuchaMuchaMの楽曲に比べると”アジア感”が薄かったんです。バンドの特徴である”アジア感”がもっとあったほうがいいのかなと思って、最初に送らなかったんですけど……。そしたら「これがいい!」と反応があってちょっとびっくりしました。

Koichi Kitahara(以下、KEE)
返事がなかったのも、忙しいだけだったっていうのも後からわかったんですけどね(笑)。結果的にお互い「これで!」という曲でスタートできたので良かったです。

Sato
福岡で会う前は、初日は一緒にご飯を食べながらじっくり話をして、翌日から制作を始めるのかなと思っていたんですけど、お会いした瞬間に「さぁレコーディングしよう!」と言われたのでびっくりしました(笑)。

KEE
もうちょっとアイドリングの時間があるかと思ってたよね(笑)。
来日する飛行機の中で歌詞を書き始めていて、あとは福岡で感じたインスピレーションで仕上げるだけという状態で来てくださっていたからなのかな。

Sato
そうそう。歌詞はまだ完成していなかったけど、レコーディングで歌いながら仕上げていったから、ラッパーみたいな人だなって感じていました(笑)。

KEE
パワフルな方というか、おおらかで思い切りが良い方だなぁという印象でしたね。

Sato
Zee Aviもシンガーソングライターだから、楽曲を作るスタイルはすでに持っていると思うんですけど、僕たちに対して「このやり方でやってね」とは言わないんです。だからなのか、出会ってすぐにスタジオに入って制作を始めても、「空気が重いな」とは感じませんでした。Zee Aviが”自分のスタイル”で集中して歌っている姿は、堂々としていてすごくカッコよかったですね。

NAMY
Zee AviもMuchaMuchaMのデモを聴いていたから、「こんなふうに歌おう」っていうことだけ考えてきてくれていたのかもしれないよね。良い意味で、彼女が持っている天性の自由な雰囲気でゆる〜い空気を作ってくれるんだけど、制作スピードは圧倒的に早い。集中力が高いからなのか、パッと歌ってもピッチもずれないし。素晴らしかった。

KEE
お互いに硬さが全くなくて心地良い現場でしたよね。Zee Aviが歌謡曲も好きだってことがわかってから、話がさらに盛り上がって。

Sato
うん。Zee Aviに『悲しくてやりきれない』をライブで歌いたいと言われた時は驚いたけど、僕も歌謡曲が大好きなので嬉しかったですね。この曲にまつわるエピソードを伝えたり他の歌謡曲を教えたりしながら、柔らかい空気の中、楽しく制作を進められました。

リハーサルは公開セッション?

ー 制作の楽しさが伝わるお話ですね。初日にスタジオに入った後は、21日(土)が福岡アジア美術館で公開セッション、22日(日)にライブというスケジュールだったんですよね。

Sato
福岡アジア美術館は緊張感のある時間でした。リハーサルのための時間だったんですけど、美術館がオープンしている時間だし、来場された方からは「ライブやるの?」って目線と空気を感じるし……。これはちょっとライブっぽくやるしかないねってことで、ライブパフォーマンスっぽく始めることに。リハーサルって本来は見られたくないんですよ……(笑)。

NAMY
Zee Aviくらい有名なミュージシャンだったら「こんなの無理だよ、帰るよ」ってなる場合もあるんですけど、そうした状況も楽しんでいるように感じましたね。明日が本番だしリハーサルはやらないとだけど、お客さんも入っているからちょっとライブっぽくしながらうまくやっていこうって。ライブパフォーマンスっぽい雰囲気でお客さんと会話をしている彼女の姿は、僕も勉強になりました。
バンドとしてあの時間があってよかったと思いながら、次回はちゃんとリハーサルの場所と時間を確保しないとですね。

Sato
お客さんも拍手してくれているし、僕は「もうライブじゃないか」って気持ちでいっぱいになっていました(笑)。ライブっぽさを残しながら楽曲を作っていった時間は、今まで経験したどのリハーサルより緊張感がありました。リハーサルを「見られたくない」って気持ちは今も変わらないけど、あの時間があってよかったなとも思っています。

KEE
そうしたリハーサルを経て、ステージでお披露目となったんですけど、先に僕たちが演奏している時に、ステージの側で見ていたZee Aviがノってくれているのがわかってすごく嬉しかったですね。

NAMY
彼女の隣にいたけどかなりノっていて、「May Pen Raiが大好き」って言いながら気持ちよさそうに踊っていたよ。

NAMY
『Day by Day』は本当に良い曲になったよね。

Sato
良い曲が出来ました。


福岡アジア美術館で公開セッション
福岡市役所西側ふれあい広場でライブ

素晴らしいコライト曲。リリースせずにはいられない

ー 今回楽曲を作る上で、コライトだからこそやってみたいといった考えはあったんでしょうか?

Sato
今回だから、というのはなかったですね。Zee Aviと作るからZee Aviらしい曲を作ろうっていうふうにも考えていなくて。MuchaMuchaMとしての曲があって、その上でZee Aviが歌っている曲を作るだけでした。
あ、でも、その土地の気候やグルーブが感じられるものが入るように作りました。ギターの弾き方だけでも、その国のタッチって感じられるんですよ。Zee Aviが弾く音とか雰囲気とか、マレーシアで育った彼女の個性が感じられる楽曲にしたいと思って、機械を使った音の作り込みはしないようにして、ギターもベースも一発録りで仕上げました。

『Day by Day』は今の時代ではなかなか出来ないような、ギターとベースだけでシンプルに作っています。Zee Aviも、サウンドに関しては「MuchaMuchaMがいいならOKだよ」っていう感じで。お互いの良さが残る曲にできたなと思います。

NAMY
今回のコライトはMuchaMuchaMにとっては、有名ミュージシャンとコラボできる機会になったけど、Zee AviにとってもMuchaMuchaMのサウンドに自分の歌声をのせるっていうのは新しい体験で、すごく有意義で面白いことだったと思うんですよ。
その証拠にというか、アルバム制作が進んでいますもんね(笑)。MuchaMuchaMのサウンドにZee Aviが持つSOULの優しいエッセンスが入った楽曲は、ファンにとっても嬉しい曲になるし、新しいリスナーの獲得にも繋がる曲になると感じています。

Sato
そうなんですよ。『Day by Day』1曲だけと思っていたんですけど、ライブを終えてから「一緒にアルバムを作ろう」って言ってもらえて、めちゃくちゃ嬉しかったです。最初は「ライブ直後で興奮しているからじゃないかなぁ」なんて思ってもいたんですけど、帰国されてから「アルバムについてなんだけど」ってすぐに連絡をくださって。「本気だったんだ!」とまた嬉しくなりました。
NAMYさんが「レコードで残したい」と言ってくれていたから、なおさら気合いが入りました。

NAMY
レコード制作はマストで考えていて。作った証っていうとちょっとクサイかもしれないけどね。そういうところにモチベーションを持ってくれるミュージシャンと一緒にやると、良いものができるだろうなっていうのが今回のコライトを見ていて改めて思ったことでもあります。
レコード制作も含めて、Co-Write Dayは”熱”を大事にしていきたいですね。

ー レコードが完成したら、また一緒にライブをするのが目標ですか?

NAMY
そうですね。まずは、良いものを作って、絶対に良い状況で出す。僕は『Day by Day』の発売が楽しみだから、必ずリリースさせます。出さないわけにいかないんですよ、良い曲なんだもん。
リリースした後はマレーシアにしろ日本にしろいろんな反応があると思うので、相談しながら今後の動きを決めていきたいですね。

Sato
NAMYさんみたいなリリースを担当する方をはじめ、コライトに関わる人たちみんなが「コライトが楽しい!この曲が好き!」って自信と熱を持っていないとリリースの実現も難しいですよね。
コライトするミュージシャンも、お互いに「やるぞ」って気持ちとリスペクトがあるから、いろんなしがらみやハードルを飛び越えていけると思うんですよ。逆を言うと、そこが全部が薄いと楽曲さえも完成しなかったり、リリースまでいかなかったりするのかなって。

NAMY
たしかにね。今Satoくんの話を聞いて僕も思ったんですけど、みんなの「やるぞ」って気持ちがうまくハマらないと、リリースさえ厳しいんじゃないかな。たくさんの”熱”が、後々の行動にもつながっていくから、”熱”が生まれなかったコライトはどこかで止まってしまうんですよね。

そういう意味でも、イベントが終わってからも新しい曲の制作も続いているし、リリース後にもやりたいことがZee AviにもMuchaMuchaMにもたくさんあるし。今回もむちゃくちゃ良いコライトだったなと思います。これからも、ミュージシャンにとって良い刺激になるコライトイベントを考えていきたいです。

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