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時間をコントロールできるタイムラプスという撮影方法について

約2年半をかけて撮影した50種類以上の花が開花するBloom Danceというタイムラプス映像作品を最近YouTubeにアップしました。note初投稿になりますが、この映像を制作するに至った過程と、タイムラプスについての思い入れを書いてみようかと思います。

この花の撮影は2004年〜2008年辺りまでライフワークとして続けていました。実は10年ほど前にYouTubeがやっとFull HDに対応した頃に花のタイムラプス映像をアップして高評価頂き、これらの映像素材はラスベガスでのショー、NYでのアート作品での展示、国内でのディスプレイなどなど様々な用途でご使用頂き、最近でもたまに声をかけて頂いています。

そして今回2020年リマスター版として制作し、未発表だった花も含めて4K解像度でYouTubeに公開してみました。

このタイムラプス作品を制作した経緯

話はかなり遡りますが私が美大受を志す高校生だった頃、ある一本の映画を六本木で観ました。今はもう無きシネヴィバン六本木という映画館でコヤニスカッツィという作品です。監督はゴッドフリー・レッジョ、音楽はフィリップ・グラス、その当時でもマイナーな作品で映画館がガラガラに空いていたのを覚えています。この作品はタイムラプスとスローモーションを多用し音楽・音響効果との相乗効果も素晴らしく独特の世界観と示唆に満ちており、まだ10代後半だった私はとても衝撃を受けたのでした。

作品についての解説は省きますが、今観てもとても素晴らしい作品ですので、もし機会あれば是非観てみてください。

ちなみに1.コヤニスカッツィ(Koyaanisqatsi),2.ポワカッツィ(Powaqqatsi),3.ナコイカッツィ(Naqoyqatsi)と三部作になっていますが、まず最初はコヤニスカッツィをお勧めします。

余談ですが制作自体には関わっていないフランシス・フォード・コッポラもこの映画を大変気に入りカメオ出演していてクレジットされています。彼の次年リリースの監督作品ランブルフィッシュでもタイムラプスの手法を取り入れています。

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ひと昔前のタイムラプス制作のハードル

そんな経緯でタイムラプスという手法に魅せられ自分でも制作したいと思うわけですが、この当時の映画・写真撮影はまだフィルムの時代。超高額な撮影機材システム、膨大なフィルム現像費用とプリント費用、とても個人で手を出せるものではありませんでした、ましては貧乏美大浪人生だったわけで…。

アナログからデジタルへ

そういったコスト的な問題があり、なかなかタイムラプスには手を出せないまま時は過ぎていきます。なんとか無事美大に滑り込みで入った当時、写真やグラフィック、イラストはアナログ作業でロットリングやポスターカラーや烏口を使っていました。写真に関してもフィルムを現像し暗室にこもって夜な夜なプリントたりしていました。そんな頃やっとMacが大学の研究室に導入され始め、デジタル化に衝撃を受けた私は学生ローンを組んで自分のMacintosh LC IIを手に入れたのでした。当時はメモリー4MBとかそんなもんなのにめちゃ高かった…。

そして2004年やっと一眼レフのカメラがデジタル化されます、Nikon D70、学生時代からNikonユーザーだった私はこれに飛びつきました。

タイムラプス撮影システム

一眼レフ・デジタルカメラを買ったからにはタイムラプスをやると心に決めていましたが何を題材にするかは結構悩みました。当時私は勤めていたデザイン事務所を辞めフリーランスとして活動していましたが、まだ駆け出しで貧乏暇なし状態でした。タイムラプスの作品作りに都市の撮影や風景写真など色々試しましたが、なかなか時間と体力が必要。そこで身近に手に入る自然の生き物「花」に行き着きます。幸い事務所の近くに花屋もたくさんあり花の入手にも困りませんでした。

題材を決めたからにはシステム作り、事務所の一角に撮影用ミニスタジを作ります。簡単に書いてみるとこんな感じ。

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ライティングはタングステンで一灯か二灯、照明を変えたくないため事務所の電気も24時間付けっ放しでした、なるべく黒バックは締めたいのでベルベットで黒バックを作りますが、長時間撮影だと埃がついたりするのでマメにコロコロで掃除。

カメラはNikon D70を電源につなぎ、Macからリモートコントロールソフトウェア Camera Control Proに接続して撮影します。撮影データは直接Macのハードディスクに保存、撮影と同時に時間がある時にマメに映像化します。

ちなみに撮影当時の事務所はこんな感じ。

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花のタイムラプス撮影について

花の撮影で難しかったのは花の動きが予測できないこと。2年半続け今でこそ撮影した花のおおよその動きは予測つきますが、当時は植物に関しては素人。撮影はなるべく高解像度で撮影しておきたい、でも寄り過ぎて激しい動きをされるとフレームアウトしてしまうという、なかなか悩ましい問題がありました。

そこで撮影しているMacの撮影画面を外出時でも見れるようリモートPCで接続して撮影の様子をマメに観察。フレーミングが怪しくなったら微調整ということを繰り返していました。

また花の種類によって咲く時間も変わります、一晩で咲いてしまう花もあれば、一週間ほどかかって咲く花もあります。長時間の撮影になるためメンテナンスは重要です。切り花の茎は実験道具などで使うアームでしっかり固定して水分を与え、シャッターのインターバルの間に動かさないよう定期的に水切りをして枯れさせないようにメンテしていました。

露出や絞りなどは花によって変えていて、開放近くでの撮影もあればF値20辺りまで絞って撮影しているものもあります。シャッタースピードは激しく動く被写体ではないのでゆっくりめ。撮影インターバルはだいたい60秒で撮影しています。

ちなみに、この花々たちの撮影にかかった時間はおおよそですが4233時間、撮影写真枚数は360,775枚になっていて、当時カメラのシャッターユニットを何回も交換しました。

時間をコントロールできる撮影方法

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この花のタイムラプスを制作してみて感じたことですが、人は自分の寿命の時間軸でしか物事を認知できません。

仕事をしている横で撮影をしていたので毎日咲き続ける実物の花を見て過ごしてたわけですが、編集してみないと花の動きを認知する事はできませんでした。毎日当たり前にみているはずのものが、こんなに生き生きと動いているのに自分はそれを認知できていない、その事実が当時の自分にはとても新鮮な体験でした。実は人が知覚できる世界はほんのごくわずかだけで、世界は遥かに広く奥深いのでしょう。そんなことを実感できたからこそ2年半もタイムラプスを続けていたのかもしれません。

時間軸での視点、例えば素粒子の動き、植物、動物、天体や宇宙など、ものすごく速いものから、人間の寿命では見る事ができない遥か長い時間まで、様々な時間軸と見え方があるはずですが、現在の技術では人間には認知できません。時間軸を変え人間が認知できるようにする手法がスローモーションやタイムラプスで、だからこそこの撮影方法に魅せられるのでしょう。

最近でも原子が結合する様子が初めて撮影されたそうですが、今後さらに新しい技術で人の認知の幅が広がるのが楽しみです。

この本もまだ読み途中でちょっと難解ですが、時間に関する見方や認識を新たにできるので面白いです。

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