飛行機の「安全のしおり」がどれほど大事なのか解説してみた
飛行機の座席ポケットに必ず入っている「安全のしおり」。皆様は読まれていますか?
「安全のしおり」は機種ごとに内容が異なり、その飛行機の安全設備や脱出方法などが載っています。安全に飛行機をご利用頂くうえで大切な情報が掲載されているので、私たちCAとしては是非お読み頂きたいものです。
そんな「安全のしおり」ですが、残念ながら読んでいる人は全体の5%に満たないそうです。そして万が一、飛行中に深刻な事故が発生した時、この「安全のしおり」や機内安全ビデオを見た人と見ていない人とでは、負傷率が40%近く異なるというデータがあります。
見てない人 …55%
見てる人 …16%
今回は、なぜ「安全のしおり」が大切なのかを改めて学んでみましょう。
シートベルト
「安全のしおり」には「シートベルトの着け外し方」が載っています。「ナメんなよ!」「こんな簡単なことまで載せる必要があるの?」と思う方もいるかもしれませんが、これにきちんと理由があります。
大きな事故が発生してパニックに陥った乗客はシートベルトの外し方を忘れてしまうことがあるのです。緊急脱出時にそうなってしまうと脱出が大きく遅れてしまいます。
また「シートベルトは腰の低い位置でしっかりお締めください」という案内を聞いたことがありませんか?腰の低い位置とは腰骨の位置です。緊急着陸などで強い衝撃が発生した時、ベルトの位置がずれていると下記のような危険性があります。
■ジャックナイフ現象
ベルト位置が上にずれていると、衝突時の衝撃で上体と下肢が「くの字」に折れ曲がってしまい、腹部を負傷してしまう。
■サブマリン現象
ベルトゆるすぎると、身体が下の方に滑り込んでベルトからすり抜けてしまう。女性は乳房を負傷してしまう。
これを防ぐためにも、ベルトは適切な位置でしっかり締めましょう!
酸素マスクの着け方
飛行機の機内は与圧装置により標高約2000mの気圧が保たれていますが、故障などにより機内の気圧が低下してしまうことを「減圧」といいます。減圧が発生すると、乗客乗員の呼吸維持のため酸素マスクが落下します。
酸素マスクが落ちてきたらすぐに着用しないと低酸素症になってしまう危険があります。そうなると脱出が難しくなり、共に乗っている家族や友人も助けられません。「安全のしおり」で着け方を確認しておきましょう。
また、着用時に「バンドを頭にかけて使う」ものがありますが、なぜその必要があるのでしょうか?
高高度で急激な減圧が発生すると人の意識は1分も持ちません。減圧発生時に酸素濃度の低い空気を吸い込んでいると、酸素マスクを着用したあとに失神してしまう可能性があります。
この時、バンドでマスクを固定できていれば失神後も酸素を吸い続けることができます。
救命胴衣
水上に緊急着水する場合は救命胴衣の着用が必要になります。着水まで時間があれば事前準備ができますが、USエアウェイズ1549便着水事故のように事前準備ができないまま着水した場合は乗客が自ら着用しなければなりません。
救命胴衣の位置は座席によって異なり、使用方法も会社によって異なります。「安全のしおり」を読んでいれば落ち着いて着用できると思います。
ちなみに離陸時に膝の裏側に手荷物を置いているとCAから指摘をうける時があります。これはその席の救命胴衣が「座席の下」にあるためです。
着水時にパニックに陥ってしまうと、手荷物が邪魔で救命胴衣を取り出せなくなる危険性があります。「そんなことない」と思いますか?緊急着水し破壊された飛行機、窓の外は水面、沈み行く機体、パニックに陥る乗客たち、すぐ近くに感じる死…通常な思考ではいられないはずです。
非常口の位置
機内安全ビデオなどで「お近くの非常口の位置をご確認ください」という案内がありますが、これにも深い理由があります。パニックに陥った乗客は、本能的に自分が入ってきたドアから逃げようとする性質があります。
火災や着水などで緊急脱出をする時、全乗客が同じドアに密集するのは大変危険です。最寄りのドアの位置を知っていれば、あせらず落ち着いて脱出ができると思います。
また、旅客機は片方のドアだけを使って全搭乗者が90秒以内に脱出ができるよう設計されており、どんな大型機であっても必ず座席の近くに非常ドアがあります。ドアは左右に備えてありますので、自身の前後のドアの位置を知っておくだけで4パターンの脱出経路が把握できることになります。これだけでも、いざという時に精神的に余裕が持てるのではないでしょうか。
非常ドアの開け方
乗客がドアの開閉装置を操作する事は航空法で禁止されています。にもかかわらず、なぜ操作厳禁なハズのドアの開け方が載っているのでしょう?
緊急着陸後に機体に重大な損傷や火災が発生している場合、直ちに緊急脱出が行われます。脱出時は当然CAが自身が担当する非常ドアを開けますが、何らかの理由でそのCAが行動不能に陥っている可能性もあります。
その場合、別のCAからドアの開放を指示される場合があります。もちろん、そういったケースが想定される場合は着陸前にCAからあらかじめ説明があります。
衝撃防止姿勢
「衝撃防止姿勢」とは、何らかの理由で着陸時に大きな衝撃が予想される場合、衝撃に起因する負傷を最小限にするための姿勢です。
大人や子供、妊婦、赤ちゃん連れなどで姿勢が異なることがあります。2020年4月より日系エアラインの衝撃防止姿勢が改定されているので、ご利用の際は自分にあった姿勢をご確認ください。
USエアウェイズ1549便事故で機長から「Brace for impact(衝撃に備えよ)」の指示が出た後、CAさんが「Heads down!(頭を下げて!)」と叫び、衝撃防止姿勢を知らない乗客に頭を下げるよう指示しました。
このような事前準備ができていない状態でも「安全のしおり」を読んで正しい衝撃防止姿勢を知っておくと、自分や家族や友人を守ることができます。
まとめ
改めてお伝えしますが「安全のしおり」の内容は、飛行機の機種やエアラインによって異なります。搭乗時は必ずお読みください。
「安全のしおり」の内容には全て理由があり、それらはみな乗客の安全に直結する大事なものなのです。これに目を通しておくことは、自分はもちろん一緒に乗っている家族や友人などの大切な人を守ることにもつながります。
フライトを安心して楽しむためにも、飛行機に乗った時には「安全のしおり」に少しだけでも目を通しておくことを心からオススメします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?