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大企業からはやっぱりイノベーションは生まれない

FogHornを起業する前、前職(シリコンバレーの大企業)の最後の4年間に社内ベンチャーとして、IIoT(Industrial IoT)事業の立ち上げを行った。
実はこの体験を通じて、大企業ではオーガニックにイノベーションが起こせないことを、「イノベーションのジレンマ」がリアルであることを、身を持って経験することとなり結果FogHornを起業することになった。

その社内ベンチャー(IIoT事業)では、製造業や産業向けのネットワークソリューションをメインに取り扱っていた。前職の会社ならではのネットワークをベースとした、今までの延長線上のビジネスという位置づけになる。

その中でFlavio Bonomiというアーキテクトが、"Fog Computing"というコンセプトを打ち出した。これは、クラウドとデバイス(現場)の間にもう1段コンピューティングする層を追加するというもので、雲と地面との間の”霧”という意味合いを持たせるため、Fog コンピューティングと名付けた。(マーケット的には、後に“エッジコンピューティング”と呼ばれるようになる)

このコンセプトには非常に興味が湧いた。コンシューマー向けIoTだったらクラウドで十分だが、産業向けのアプリケーションをすべてクラウドで処理するのは早々に限界がくると、事業を立ち上げながらひしひしと感じていたためである。

ただコンセプトは良かったものの一向に売れなかった。まあ当時作ったものがしょぼかったというのもあるが、それ以上にリアルタイムにデータを扱うソフトウェア(ミドルウェア)の視点が完全に抜け落ちていた。
逆に言えばそれを作れれば、オールドインダストリーと言われている今の産業のやりかたにイノベーションを持ち込めるのではないかと感じた。

ただそこで大きな軋轢が社内で生まれる。

それを実現するには今までの会社のビジネスモデルから大きく離れ、既存ソフトウェアエンジニアのスキルセットミスマッチ、また立ち上がるまでの間コストばかりがかかりその部署は赤字になるため、どこまでR&D予算がその赤字の事業につけられるか、が大きなチャレンジになることは火を見るよりも明らかだった。(どこもそうだと思うが、大きな会社では、予算=権限=発言権=出世への道、となる。ものすごく雑な言い換えをすれば、大企業において社内で権力を行使するには、会社の売上に貢献する→ある程度の大きな組織→より多くの予算が必要、という図式になる。)

現実問題として何が起きたか?

この問題を解決するため新たにソフトウェアエンジニアを雇わなくてはならなかったが、そのためには予算を獲得しなくてはならない。しかしすでにほかの主力事業に大きな予算がついており、残された予算はわずかとなってしまっている。主力事業から幾ばくかの予算を得ようにも、前述した通り予算獲得が難航する。

予算を獲得するために残された道は、既存の主力事業と“協調”し“忖度”することで、会社全体としての売上が伸びる、ということにしてForecastを示さねばならなかった。

でもそれはイノベーションではなく、結局予定調和的な進歩でしかない。
結果、既存のやり方から大きく逸脱することができず、イノベーションが生まれない。(だからイノベーションは企業買収によってのみもたらされていた。)

こういうとき、本当だったら何をすべきだったか?

それはリーダーが、「既存ビジネスと共食いしろ。そして勝ち残れ。」
という大きな決断が出来るかにかかっていると思う。

もちろんそれをすれば短期的には利益が下がり、社内だけでなく株主からも大きな批判を食らうと思う。たとえそれをすることで、5年先の未来を買うことになっても。残念ながら大衆は、すべからく近視眼的思考しか持ち合わせていない。

仮に沈みゆく船だとしても、大衆はまだ大丈夫と思っている。
茹でガエルと同じ状況。

だからリーダーは様々な外圧やノイズに惑わされず、本当に会社や社会のことを考え、自らの信念に基づき1つ1つの決断をしていかなくてはならない。これは今の自分の会社にもそのまま当てはまる。(だから以前の “なぜFogHornを立ち上げたか - 解決したかった問題” の中身がとても重要で、今でも決断の指針となっている)


当時何度も煮え湯を飲まされたときはフラストレーションしかなかったが、今振り返ると知識に実体験が伴い肝識へと昇華させることのできた、貴重な経験だったと思う。そしてその実体験がなかったら、会社を飛び出してFogHornを起業していなかったかもしれない。


“The secret of change is to focus all of your energy, not on fighting the old, but building on the new.“
~Socrates


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