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何故、政府は「預金から投資へ」と駆り立てようとするのか

岸田総理の発言

 2022年5月5日、英国シティーにて岸田総理は講演を行い「貯蓄から投資」の流れを加速する、という方針を示した。
 これには国内にて「投資できるだけの預貯金がある人しかできない」等の反対意見が目立った印象である。私も「今の永田町・霞ヶ関は金銭的余裕のある層しか見えてない」とかなり怒りにまかせ批判をした。「何が『1億総株主』だ!預貯金すら殆どない人もたくさんいるんだぞ!」と。

マイナス金利適用

 ネットの報道記事を見ていたら、このような見出しが飛び込んできた。

三菱UFJ銀行の当座預金、6年ぶりにマイナス金利適用 日銀https://www.asahi.com/articles/ASQ265GRDQ10ULFA008.html

朝日新聞デジタル
2022年2月7日 5時00分

 記事の内容は、コロナ対策給付金等により、2022年に預金が急増し、マイナス金利が適用された、という内容となる。
 一方、先日、西田昌司議員と日銀・財務省担当者の委員会で「日銀当座預金には金利がつかない」という発言を記憶していたので、「あれ?やはり日銀当座預金って金利あるんじゃないか?」と疑問になり、調べてみた。

日銀当座預金の金利がつく部分とつかない部分(法定準備率と超過準備)

 まず、準備預金制度について、日本銀行の「教えて!にちぎん」にて調べてみた。それによると、

準備預金制度とは、対象となる金融機関に対して、「受け入れている預金等の一定比率(これを「準備率」といいます)以上の金額を日本銀行に預け入れること」を義務付ける制度です。このようにして日本銀行に当座預金または準備預り金として預け入れなければならない最低金額を、「法定準備預金額」(または所要準備額)といいます。
https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/seisaku/b33.htm/

教えて!にちぎん
準備預金制度とは何ですか? 超過準備とは何ですか?

と書いてある。民間銀行に預けられた預貯金に対して、一定比率の金額を日銀当座預金に預けねばならない、という制度となる。
 また、「超過準備」というものがあり、これは法定準備預金額を超過した分となる。どうやら、コロナ禍の給付金等で、みんながこぞって銀行に預貯金をした結果、その分、民間銀行が日銀当座預金に預ける金額が増え、「超過準備」と呼ばれる部分が急増した。
 そして、「法定準備預金」は金利がつかないが、「超過準備」には、「保管当座預金制度」に基づいて、一定の金利がつく。この数年騒がれている「マイナス金利」とは、超過準備に対して適用される金利となる。

超過準備に適用されるマイナス金利により銀行の経営に影響がでる

 今回、三菱UFJ銀行については、預貯金が急増し、「超過準備」という日銀に預ける当座預金が金利がつかない「法定準備率」を超え、マイナス金利をつけられた、ということらしい。
 このままでは、該当銀行はマイナス資産を持っていることになり、プラス金利になるように運用したい、となるのは当然、となる。ステファニー・ケルトン著『財政赤字の神話』の表現を借りれば、

(米国債の)入札の勝者(プライマリー・ディーラーと呼ばれる金融機関)は、米ドル建ての金融商品のなかで最も安全で流動性が高いものに資金(準備預金)を換えられる。敗者は資金を準備預金のまま置いておくことになり、銀行の破綻リスクを負うことになる

『財政赤字の神話 MMTと国民のための経済の誕生 Kindle版』
2020年10月15日 電子書籍版発行
早川書房
ステファニー・ケルトン
※引用の中の()は私が意味が通るように補足

となる。これは私の推測ではあるが、

  • マイナス金利を維持して市中のお金の流通を促したい

  • しかし先行きの見通しが不安である為、民間側が「銀行からお金を借りて投資しよう」という動機はダダ下がり

  • かといってこのまま、「将来不安視に基づいた」預貯金、即ち「超過準備」が増え続けると、金融機関側の経営が悪化する

  • それでは、「法定準備率調整して、超過準備基準を調整すれば?」というアイデアもでるとは思うが、それをすると、さらにお金が預貯金として滞留し、市場で流通しない

ということで、政府は「金融機関の経営を持ち直す為」に、マイナス金利がつけられた「超過準備」、すなわち、民間側の預貯金を、投資として吐き出させようとしてるのではないか?という推測に至りました。

預貯金として持つのではなく投資に回そう、というけれど・・

 民間金融側の厳しい事情も、今回、自分の中では判明した。しかし、民間側も「先行き不安」から企業は内部留保を増やし、家計や個人は貯蓄を増やす。それを無理やり、しかも「元本割れするかもしれない」投資に向かせるとは何事だ!、ともなる。
 今回の「預金から投資」は金融機関を救うためとはいえ、非常に乱暴な政策である、としか私には思えない。更に言うと、「預貯金すらできない低所得層もいるのに、預金があるという前提で投資しろ、とは何事だ!」と。

解決策は?

 今回の「預金より投資」政策は、「金融機関を立てれば、民間の内部留保・預貯金が脅かされ、預貯金すらなければ更なる格差を生む」ことになる。一方、この政策を実行しないと「民間を立てて金融機関の経営が悪化する」という、悪手にしかならない。
 可処分所得を増やして、財・サービスが流通するようにしないとならないが、資金に限りのある民間に無理やり「給与上げろ」と自民議員が愚かなお願いをしたところで、実行できる民間企業にはかなり数が限られる。
 すると、「経済の実物資源」を上限とし、「インフレ圧力」を制約として、自国通貨を発行できる日本政府が下記政策をすぐに議論開始しろ、と言いたい。

  • モノ・サービスの流通を刺激する着火剤・損失補填として期間限定コロナ禍定額給付を「日本国民」に条件付けなしで再給付(※決して永久給付ではない)

  • 政府が雇う(公務員ではない)Job Guarantee Programを準備し、民間側で何らかの理由で失業しても生活継続できるような受け皿を準備する

 将来不安の為に蓄えた内部留保・預貯金を奪わなくても、民間のモノ・サービスの循環が活性化すれば、投資が増え、金融機関の超過準備も減るだろうし、売れ行きが上がれば株価も上がるでしょう、と期待はしている。
 政府がすべきことは、民間側がまさかの時の為に備えた蓄えを、無理やり投資というギャンブルのタネ銭として奪うのではなく、まず民間側が抱えている「将来不安」を消せ、となる。
 将来不安を残したままお金の移動だけしても愚策にしかならない。

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