減債基金の取崩しという禁じ手 ~京都市の財政破綻危機に直結した悪手~
はじめに
京都市の財政破綻危機に直結した悪手が、「減債(公債償還)基金の取崩し」です。
財政当局も「禁じ手」と認める「減債(公債償還)基金の取崩し」がいかなるもので、どんな問題があるのか知って頂きたい思います。
減債(公債償還)基金とは
政令指定都市が市債を発行して資金調達をする時は、満期一括返済の30年債というのが基本です。つまり、途中は利息だけ払い続け、返済期日である30年後に元本をまとめて返済するということになります。
住宅ローンのように、毎月元本と利息を少しずつ返済していくのであれば、計画を立てやすいわけですが、30年後の元本を一度に返すとなると、しっかり管理しておかないと返済時に資金ショートを起こしかねません。
そこで、外部への返済は満期一括返済ですが、内部では住宅ローンと同じように毎年元本を返済している形を疑似的に取り、そのお金を積み立てているものが減債基金になります。返済期日が来たら、減債基金から外部に返済をします。
これは、地方財政法を根拠に総務省から要請されているルールで、各自治体は「減債基金条例(公債償還基金条例)」を定めています。なお、全国的には「減債基金」というのが一般的な名称ですが、京都市は「公債償還基金」と名付けており、全く同じものです。
京都市の財政破綻危機に直結した公債償還基金の取崩し
京都市は、令和5年度予算で22年ぶりの収支均衡を達成した(一時的な可能性も高く、予断を許さない)のですが、つまりは21年間はずっと赤字だったわけです。
この赤字を埋めるために行ってきたのが「特別の財源対策」と呼ばれるもので、法律違反ではないが、行うべきではない錬金術です。そのうちの1つが、減債(公債償還)基金を取り崩しての「流用」で、京都市財政当局自体が「禁じ手」であると議会で正式に答弁をしています。
公債償還基金の取崩しは、平成16年~20年に行われた(当時は、基金からの借入だが実質は取崩しと変わらない)ものの、平成21年には一旦辞めることができています。しかし、その後、平成24年に再開し、平成28年以後は金額が大きく膨らみ、直近の令和3年決算時点でも行われています。
令和2年にコロナ禍に突入したことで、当初、財政がもっと悪化すると想定されており、その想定でシミュレーションをすると、令和5年に公債償還基金が枯渇することがわかったのです。
公債償還基金の枯渇はすなわち、期日を迎える市債の返済ができないということですから、財政破綻ということになります。
その後、コロナ禍による税収減が想定より少なかったこと、国からのコロナ禍関連の援助が多額にもらえたこと、行財政改革計画で市民負担を伴う値上げなどを含め一定の収支改善を図ったことにより、当初のシミュレーションからは大きく改善し、決して予断を許す状況ではありませんが「当面は財政破綻しない」という小康状態になっています。
大阪府の財政運営基本条例
京都市の財政破綻騒動の前に、減債基金の取崩し(借入)が問題として取り沙汰されたのは大阪府です。太田房江参議院議員が知事だった時代に、大阪府の減債基金の取崩しが常態化し、大阪府は財政危機になりました。大阪維新の会が立ち上がるきっかけになった1つの要因でもあります。
その後、松井一郎元知事の時代の平成23年に「財政運営基本条例」を制定し、その中で、減債基金の取崩しの禁止と、過去の取崩しの計画的な復元までを定めています。
そして、令和5年度に全額の復元を終える見通しとなっています。
京都市持続可能な行財政の運営の推進に関する条例
京都市は、令和5年の2月市会で財政規律のための「京都市持続可能な行財政の運営の推進に関する条例」が制定されました。
条例の中で「持続可能な行財政の運営の推進に関する計画」を定めなければいけないと規定し、この「計画」の目標を定めるに当たって、「京都市公債償還基金の積立て及び処分の状況」に配慮しなければならないと定めています。
「禁止」ではなく「配慮」に表現が留まっています。当面は、事実上の「禁止」として機能すると思われますが、時間が経過すれば、ほころびとなるリスクを孕んでいます。
また、過去に取り崩した分の復元に関しても明言されておらず、どれくらいの時間軸で復元をしていくのかが不透明なままです。
なお、地域政党京都党としては、「禁止」の文言を入れるべく修正の提案をしたかったのですが、議会からの「禁止」の文言を入れる修正提案は「首長の予算編成権」を侵害する恐れがあるという理由で断念しています。
学者や有識者の間でも、「首長の予算編成権」への侵害の有無は議論が分かれていますので、今後も研究が必要です。
まとめ
京都市の財政破綻の危機に直結した原因が「減債(公債償還)基金の取崩し」である。
京都市では、「禁じ手」と認めながらも、赤字の埋め合わせの手段として「減債(公債償還)基金の取崩し」が常態化。
コロナ禍により、減債(公債償還)基金の枯渇の危険性が発覚し、財政破綻の危機が表面化した。
大阪府では、過去に同様の問題を抱えており、その反省から「財政運営基本条例」を制定し、14年かけて問題を解消。
京都市でも「京都市持続可能な行財政の運営の推進に関する条例」を制定し前進するも、不安要素が残っている。
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