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寺社の拝観料に課税する古都税 ~古都税で財政健全化は可能か~

はじめに

京都では「古都税を復活させれば、京都市の財政問題は解決する」と、まことしやかに言う人が多くいます。

寺社の拝観料に課税する古都税。古都税の課題は何か、古都税で京都市の財政問題は本当に解決できるのかを知って頂きたいと思います。


古都税(古都保存協力税)の歴史

古都税(古都保存協力税)は、参拝者から徴収する税を寺社の拝観料に上乗せする形で課税する法定外の地方税ですが、昭和末期の古都税論争の以前に、文観税(文化観光施設税)と文保税(文化保護特別税)の二度、同様の税が課税された経緯があります。

文観税は、昭和31年に市民会館建設の財源として7年半という期間限定で課税されました。「宗教行為への課税は憲法で保障されている信教の自由に反する」として、寺社の反対運動は大きく、拝観料全廃や信者以外の拝観拒否などの対抗措置をとっていますが、中央政界の有力者の調停で一応の決着を見ています。

この文観税の期限切れの際に、引き続き同じ内容で課税しようとしたのが文保税です。当然、寺社側は反発をしましたが、「文化保護特別税の期限は、本条例適用の日から五年限りとし、期限後においてこの種の税はいかなる名目においても新設または延長しない」という覚書を京都市との間で交わすことで寺社側が折れて導入に至っています。

上記の覚書に反するにも関わらず、文保税の徴税終了から14年経った昭和58年に、京都市は赤字財政の補填を目的に古都税の条例案が可決させます。寺社側は拝観停止で対抗し、門前の土産店をはじめ観光関連の事業者に多大なる影響が出ることとなりました。

その後、昭和62年に、古都税の20ヵ月分の寄附を寺社から受ける形で条例を廃止して和解に至っています。

なお、古都税の経緯についてはこちらの書籍を主に参照させて頂いています。


京都市の財政規模と古都税の見込み税収

古都税が可決した昭和58年当時、有料拝観に対して1人1回50円の税額で年間10億円の税収を見込んでいます。

当時の拝観料の平均は約250円でしたが、現在は500円前後の寺社が多いことと、京都の年間観光客が当時約4,000万人に対して、コロナ禍直前が約5,200万人であることから、税額を2倍、納税者を1.3倍として計算すると、仮に古都税を今実施したら26億円ほどの税収になると推計できます。

令和2年度決算時資料(京都市行財政局作成)

この資料は、京都市が財政破綻の危険性が議論され始めてから当局が表に出した資料です。「特別の財源対策後の実質収支」というのが市民しんぶん等で市民に公開していた収支(黒字)で、「通常の収支」というのが、実態の収支(赤字)です。行財政改革計画前をベースに考えると、赤字幅は100億円程度はあります。

また、別の指標で見れば、令和5年度当初予算における市債残高は1兆5,767億円となっています。

26億円というのは税収規模としては大きいですが、これで京都市の財政問題が解決できるレベルとは言えません。

なお、観光客に一定の税負担をして頂くという意味では同趣旨の宿泊税は、コロナ禍前の想定で年間46億円の税収を見込んでおり、古都税よりも大きな財源となっています。


寺社への課税の可否と固定資産税

古都税とともによくあがるのが、寺社への固定資産税の課税をすべきだという声です。

先ず、宗教法人の固定資産税の非課税の範囲は、下記のように、地方税法348条2項三に規定されています。

2.固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。
三.宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地(旧宗教法人令の規定による宗教法人のこれに相当する建物、工作物及び土地を含む。)

次に、法律は、条例より上位の法形式であるため、条例は、法律の範囲内で制定しなければなりません。従って、法律で非課税が明文化されている以上、自治体単位で条例を制定して、寺社への固定資産税を課税することは制度上できません。ただし、駐車場などのように宗教の本来の用に供しない不動産に対しては現状でも課税されています。

拝観料への課税も、既に実施実績はあるものの、拝観料は「文化財の鑑賞の対価」か「宗教行為としての寄附」なのかが明確ではなく、専門家でも議論がわかれます。更には、「文化財の鑑賞の対価」であれば、収益事業の所得にもなるので、国税である法人税などの対象にもなってきます。

寺社側が古都税論争の中で、寄附なら応じると何度か提案しているのは、こういった背景があると推察できます。


まとめ

  • 「古都税を復活させれば、京都市の財政問題は解決する」との市民からの声が多い。

  • 文観税、文保税、古都税と歴史があるが、寺社は「信教の自由」を理由に反対をしてきた経緯があり、時には拝観停止により京都は大混乱した過去がある。

  • 京都市の行財政改革前の赤字幅は100億円規模であり、古都税で見込める税収は約26億円。古都税だけで財政健全化は難しい。

  • 寺社への固定資産税の課税は、自治体で独自に課税するのは出来ない法律の建付けとなっている。

  • 拝観料への課税も、信教の自由を侵すかどうか議論がわかれている。

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