行政改革推進債がもたらす負の遺産 ~行革とは名前ばかりの悪手~
はじめに
京都市が、赤字の埋め合わせである「特別の財源対策」の1つとして長年続けてきたのが行政改革推進債の発行です。
行政改革推進債の発行を何故すべきでないのか、何が問題なのかを知って頂きたいと思います。
行政改革推進債とは
行政改革推進債(行革債)は、自主的な行政改革で財政健全化に取り組む自治体が発行できる地方債です。
通常、公共施設を建てる場合、工事総額の80%を市債で資金調達し、残りの20%は現金で一般財源から支出するという形を取ります。住宅ローンでいうローンと頭金です。なお、市債の割合(起債充当率)は、公共施設の種類等により変わりますので、80%というのは一例です。
行革債は、この頭金部分の20%も市債発行して、言わばフルローンにしてしまう特別なものです。特別なものなので、代わりに行政改革をすることで返済の財源を担保するという建て付けになっています。
例えば、年間10億円掛かっていた事業を廃止すると、当然ですが年間10億円の支出が浮きます。これを返済原資にするという理屈で、最大で5年分、つまり50億円分の行革債を発行することができます。
ただし、先述の通り、頭金部分の資金調達ですので、公共工事の頭金部分も発行上限の条件(工事の頭金部分の合計が50億円未満だと、その金額が発行上限)となります。
細かい話になりますが、理屈上は公共工事のための市債発行ですので、赤字地方債ではなく、建設地方債に分類されます。
行革債がもたらす負の遺産
ここまでの説明だと、行革債はそんなに悪い市債ではないように聞こえるかと思います。
行革債の問題の1つ目は、改革の果実の前借りであるという点です。先ほどの例であれば、改革で生まれるはずだった先5年間分の財源50億円を目の前の1年間で使ってしまうわけですから、自転車操業に近い果実の前借りと言えます。
2つ目は、全体を俯瞰した場合、必ずしも改革が進んでいるとは言えないという点です。例えば、総額50億円のA事業を廃止して行革債を発行しながら、別の総額100億円のB事業を新規事業として立ち上がるということが、往々にして起こります。
3つ目は、行革債の償還に関わる問題です。通常の市債の場合は、返済時に国が一部負担してくれます。この国が負担してくれる割合を交付税措置率と言います。行革債は、赤字地方債ではないものの特例的な市債であるため、交付税措置率が0%です。つまり、純粋な赤字の先送りと言えます。
行政改革と冠していますが、その名前と裏腹に負の遺産を残すもので、出来る限り発行しないことが望ましいのです。
「特別の財源対策」として発行されてきた行革債
京都市は、令和5年度予算で22年ぶりの収支均衡を達成した(一時的な可能性も高く、予断を許さない)のですが、つまりは21年間はずっと赤字だったわけです。
この赤字を埋めるために行ってきたのが「特別の財源対策」と呼ばれるもので、法律違反ではないが、行うべきではない錬金術です。そのうちの1つが、行革債の発行です。
平成14年から数十億円単位で毎年発行し続けており、直近の令和3年度決算時点でも発行をしています。
先述の通り、行革債は交付税措置率が0%です。京都市は、他にも調整債や退職手当債、経営健全化出資債など、同じく交付税措置率が0%の「特例的な市債残高」を多く発行しており、その残高は、政令指定都市で断トツに多くなっています。
例えば数字上の見た目は同じ100億円の借金だとしても、他都市はそのうちの30%場合によっては50%国が返してくれるけど、京都市は全額自分で返さないといけないという状況なのです。
これが、京都市の財政を硬直化させている大きな原因の1つです。
京都市持続可能な行財政の運営の推進に関する条例
京都市は、令和5年の2月市会で財政規律のための「京都市持続可能な行財政の運営の推進に関する条例」が制定されました。
条例の中で「持続可能な行財政の運営の推進に関する計画」を定めなければいけないと規定し、この「計画」の目標を定めるに当たって、「行財政改革推進債及び調整債の発行の状況」に配慮しなければならないと定めています。
「禁止」ではなく「配慮」に表現が留まっています。当面は、事実上の「禁止」として機能すると思われますが、時間が経過すれば、ほころびとなるリスクを孕んでいます。
なお、地域政党京都党としては、「禁止」の文言を入れるべく修正の提案をしたかったのですが、議会からの「禁止」の文言を入れる修正提案は「首長の予算編成権」を侵害する恐れがあるという理由で断念しています。
学者や有識者の間でも、「首長の予算編成権」への侵害の有無は議論が分かれていますので、今後も研究が必要です。
まとめ
行政改革推進債(行革債)は、公共工事の頭金無しのフルローンにする特例的な市債。
「行革」とは名前ばかりで、実態は改革の果実の前借りであり、事業の付け替えであり、赤字の先送り。
京都市では、赤字の埋め合わせの手段として行革債の発行が常態化。
京都市は、行革債を筆頭に、返済時に国の補助がない交付税措置率0%の「特例的な市債」の残高が、政令指定都市で断トツ1位。
京都市でも「京都市持続可能な行財政の運営の推進に関する条例」を制定し前進するも、不安要素が残っている。
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