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関節包とは❓ー凍結肩を中心にー

突然ですが皆さん、関節包って何❓
と聞かれた際に何と答えるでしょうか。
僕は恥ずかしながら、

「関節の周りにある袋状のやつ‼︎」

程度にしか答えられません。
僕はクリニックで働いているので、特に肩関節周囲炎(凍結肩)を見る機会が沢山あります。そんな時に関節包が拘縮していると評価し、ストレッチをして可動域を出しました❗️などと言っていましたが。本当にそれは正しいのかと疑問にも思い始めてきました。

そこで今回は、、、

そもそも“関節包”って何という根本的な内容を書いてみました。


①関節包って何?

簡単に、、、
関節包とは【線維膜(外層)】と【滑膜(内層)】で構成されている結合組織です。1)

線維膜はコラーゲンが非常に密で関節包の長軸方向にほぼ平行な配列をなしている為、伸長性は少ない。
滑膜は脂肪細胞が存在し、その間をコラーゲンが配列されている為伸長性は大きい。

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また、関節包には「血管」や「感覚受容器」が多く存在しており、血管は関節包を貫き滑膜まで到達し、滑膜辺縁で吻合し関節血管輪を形成します。
感覚受容器(パチニ小体、ゴルジ小体、マイスネル小体、自由神経終末)は繊維膜や靭帯に多く存在し、共同して運動の速度や方向、関節の過剰な機械的ストレスを感知しています。

つまり、関節包は【関節の安定化】【栄養供給】を担っています‼︎

ちなみに、結合組織は下記図のように分類できます。

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膠原繊維(コラーゲン)は強靭だが弾力がない→靭帯や関節包に多く含まれる
弾性繊維(エラスチン)は強度は低いが伸縮性に富む→血管に多く含まれる


②関節包が拘縮するとは?

では、関節包が固くなる、いわゆる拘縮とはどんな事が起こっているのか❓
拘縮とは、、、

関節が自動的にも他動的にも可動域制限を起こしている状態
市橋 則明(2008年) 運動療法学
皮膚,骨格筋,関節包,靱帯などの関節周囲軟部組織が器質的に変化し,
その柔軟性や伸張性が低下したことで生じたROM制限

沖田 実 関節可動域制限の発生メカニズムとその治療戦力

このように拘縮の定義は統一されていないのが現状です
では関節包拘縮とは何が起こっているのか❓
それは、、、

【滑膜が繊維化したことによる関節可動域制限】

              だと考えます。

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ー拘縮の分類ー
a.発生時期による分類
先天性拘縮→骨・関節・軟部組織の先天性疾患に伴い生じるもの
後天性拘縮→拘縮の原因や病変の存在する組織によりさらに分類

b.原因・病変による分類

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③どうして関節包が拘縮してしまうの?

今回調べていく中で、関節包が拘縮してしまう要因として大きく分けて二つあると考えます。

         それは【不動】と【炎症】です。


順番に説明していきます❗️



(1)不動による拘縮への影響
入院患者さんや骨折後にギプス固定した患者さんが拘縮しないように可動域訓練しましょう。
なんて話は良く聞くのでイメージはつきやすいかと思います。
確かに不動期間が長くなればなるほど、拘縮は進行します。
ではなぜ不動になると関節包やその他の軟部組織が拘縮してしまうのでしょうか?

それは、、、

“不動期間が長くなると関節内で循環障害が起きるから”です。

不動によって、局所の循環障害が生じ軟部組織の細胞浸潤が起こり、結合組織が増殖することで関節包拘縮を促進してしまいます。

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CTFG(結合組織増殖因子)は皮膚組織の創傷治療過程や骨折の修復過程にも認められる一方で、関節拘縮の発生初期においてCTFGが滑膜の繊維化に大きな役割がある。

VEFG(血管内皮細胞増殖因子)は血管形成の一連の過程で血管内皮細胞に特異的に作用する因子で関節拘縮においても関節固定による循環障害により滑膜組織にVEGFの発現が促進され新生血管の誘導やさらなる線維性組織の増生が生じる。
※新生された血管は平滑筋細胞の増殖と遊走がみられず、血管の成熟がしないことからVEGFのみによって誘導された未熟な血管は、やがて破綻し、組織の癒着を引き起こし、関節拘縮を促進させる。


このように不動期間が続くと、病的な滑膜の繊維化が起こることで伸張性が低下して、拘縮が進み、関節可動域制限となってしまいます❗️
※ただ不動による関節の組織学的変化は研究者により報告が多少異なるそうなので注意が必要です❗️

さらに不動期間により異なる組織が拘縮していきます。

不動状態に曝された関節包は1週で線維化が発生し,これは不動期間の延長に伴い進行することが明らかとなった。

不動によって惹起される関節包の線維化の病態解明に関する実験的研究
佐々部 陵, Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 
1ヶ月程度の不動期間では軟部組織の変化に由来した制限が優位で,不動期間が2〜3ヶ月におよぶと関節構成体の変化に由来した制限が優位になることが示唆された。

不動期間の延長に伴うラット足関節可動域の制限因子の変化:―軟部組織(皮膚・筋)と関節構成体由来の制限因子について―
岡本 眞須美ら、理学療法学 31(1), 36-42, 2004社団法人日本理学療法士協会


このことから、、、
不動約4週間まで→筋由来による制限が多い
不動約4週間以降→関節包・靭帯由来による制限が多い
となります❗️



(2)炎症による拘縮への影響
炎症による拘縮と聞くと、凍結肩の患者さんを想像する方が多いのではないでしょうか。
では炎症期において、関節では何が起こっているのでしょうか❓

まず炎症による拘縮の原因を簡単に、説明すると、、、
何らかの要因により関節に負担・不安定性が生じ、滑膜炎の持続がきっかけで繊維化を促進する分子が発現して関節包の繊維化が起こります

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最初に述べた通り、滑膜では滑液の産生行っており、滑液は関節面の潤滑作用と衝撃吸収作用があります。繊維膜では神経繊維(感覚受容器)により関節の制御の役割があります。

これらから予想できることは、、、

関節内の生理的な運動の低下(副運動の消失)
【oblique transiation理論】といいます。
偏った部位の拘縮は上腕骨頭の求心化を乱し、その運動は正常な軌道から逸脱しやすくなるという概念です。
臨床でよくあるパターンは後方組織の拘縮による骨頭の前方不安定性などで投球障害によくみられると思います。

ROM制限や不安定な関節の動きとなり関節周囲筋の筋攣縮が起きる。

感覚受容器の働き低下(求心位が取れず肩関節が不安定)

腱板の攣縮(肩後方組織のタイトネス)

骨頭前方編位

LHBが骨頭前方変異を代償

LHB炎症

の流れなんかも臨床ではよくある光景だと思います。

これらのことが凍結肩の炎症期〜拘縮期において関節内で起こり、ROM制限や疼痛に繋がっているのではないでしょうか。


④どのように関節拘縮を改善していくのか❓

温熱療法直後において拘縮関節の可動性増加は認めないことから,温熱療法によるコラーゲン線維の伸張性増加は不十分であると考えられる.

著者:原口 脩平ら
温熱療法で拘縮関節の可動性増加は得られるか? 
─ ラットによる実験的検証─
理学療法科学 2015年 第 30 巻 4 号

ストレッチは筋性が優位の関節可動域制限に対しては有効であるが,直接的に伸張力を加えることが難しいであろう関節包や靭帯といった関節性の制限に対しては十分に作用しない可能性が考えられた。

著者:渡邊 晶規ら関節可動域制限に対するストレッチ
およびモビライゼーションの効果 
名古屋学院大学論集 医学・健康科学・スポーツ科学篇 第 1 巻 第 1 号 pp.19-25


多くの論文を読むとストレッチや温熱療法などは有効な介入方法とは呼べません。臨床上でストレッチや物理療法で改善するのは、もしかしたら関節包が伸張したのではなく、周囲の筋肉や軟部組織が伸張されて改善されたのかもしれませんね。よくよく考えれば本当に関節包が伸張されて改善したのであれば、翌週に可動域が戻っているなんて事はないですもんね。。。


では理学療法士ができることはなにか、、、
“関節モビライゼーション”は拘縮治療に効果があるようです。

モビライゼーションでは,まさに関節包の伸張を目的として実施されることから,本研究において有意な改善を認めたものと思われた。

著者:渡邊 晶規ら関節可動域制限に対するストレッチおよびモビライゼーションの効果 
名古屋学院大学論集 医学・健康科学・スポーツ科学篇 第 1 巻 第 1 号 pp. 19-25

新鮮肩関節試料を用いてモビライゼーションを想定した反復伸張刺激を加えた結果,後方関節包の剛性の変化を認めた

Muraki T, Yamamoto N, Berglund LJ, Speerling JW, Steinmann SP, Cofield RH, An KN. (2011) The effect of cyclic loading simulatingoscillatory joint mobilization on the posterior capsule of the glenohumeral joint: a cadaveric study. J Orthop Sports Phys Ther. 41: 311―318

⑤モビライゼーションとは


低速度かつ様々な振幅で可動範囲を反復的に動かす他動運動のこと。
軟部組織モビライゼーション、関節モビライゼーション、神経モビライゼーションの3種類があるそうです。


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関節モビライゼーションと聞くと、難しい治療手技なのではと思いますが、患者さんの可動域を評価するときなどは凹凸の法則やLPP、CPPを意識することは大切なことですよね。


では関節モビライゼーションがなぜ効果があるのか❓

メカノレセプターを刺激して、脊髄あるいは脳幹レベルの有害受容器反射を抑制することで疼痛を軽減
著者:竹井 仁 骨疾患に対する関節モビライゼーション
理学療法学 2005年 20巻3号
滑液成分が正常化し、膠原繊維(コラーゲン)の架橋形成が抑制され結合組織が疎性化される
著者:市橋 則明 運動療法学ー障害別アプローチの理論と実際ーp22
振動刺激による感覚刺激入力はラット足関節不動化モデルの閾値の低下(不動による痛覚)を抑制する
著者:濵上 陽平 理学療法学Supplement 2011(0), Aa0892-Aa0892, 2012

このように関節モビライゼーションにはさまざまな効果があります。
肩関節は特に不安定な関節なので、“疼痛が出ないように”行う事が大原則ですね。
過度なROM訓練やストレッチ、徒手での介入には十分注意が必要ですね。


ただ、凍結肩に対しては疼痛を出さないようにするだけではなく、疼痛を出さずにかつ関節不安定性を助長しないように慎重に介入していく必要があると思います。

上記でも記載した通り、骨折後の固定や廃用による不動期間を除けば、関節自体が何らかの要因で不安定になり、関節周囲へのストレスが強くなり、炎症が起き関節包拘縮に繋がっていきます。
肩関節など不安定な形状の関節は関節包や靭帯、筋肉による安定化機構に強く依存しています。
つまり、、、

関節が不安定な為に周囲組織を固めて、関節の安定化を図ろうとした結果
【関節包拘縮

に繋がると僕は考えています


このように考えると、ストレッチをして可動域だけを広げたら関節の不安定性を助長してしまいますよね。

・翌週には可動域が戻ってしまう
・介入の翌週に疼痛が強くなった

などは上記のような要因が考えられます。

なので、モビライゼーションがなぜ有効なのか?

骨頭の生理的な運動(安定した関節運動)を患者自身に学習させることで神経筋の協調性が改善され、日常においても安定した関節運動を行う事ができ(不安定性の改善)、可動域改善・疼痛軽減に繋がる
のではないかと思います。

その他の対応としては、、、

⑥サイレントマニュピレーションとは

凍結肩に対する外科的治療ではサイレントマニュピレーション(SM)があります。

「サイレントマニュピレーション=肩関節受動術」とは、、、
超音波ガイド下での頸椎神経根ブロックを行い、拘縮している関節包を破断させ肩関節の動きを取り戻していくという方法のことです。
凍結肩の第一選択には保存療法が選択されるが、長引く夜間痛やROM制限(挙上120°未満)が残存する症例ではSMが選択されます。

リハビリテーションは、、、
・術翌日から積極的なROM訓練を開始する。
→PTによるROM訓練のほかに、自己訓練も積極的に行っていただく。
・自己訓練はテーブルに置いた手を前方に滑らせて行う挙上運動、下垂位での内・外旋運動を行わせる。

治療成績は、、、
非常に良好で術後の感染・LHB断裂等も確認されず、患者満足度も高い(夜間痛が強いほど満足度も高くなる)。

ー参照ー 関節外科 Vol.36No10(2017)

と上記のように患者さんの満足度も高い成績が出ています。

簡単に言うと、、、

『肩への局所麻酔を行い、徒手的に拘縮した関節包を破断』

させるという方法です。

SMのメリットは、、、

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・早期から可動域の改善を図ることができる
・医療費の大幅な抑制
・手術は日帰り
・術後の感染、CRPSのリスクが少ない

などが挙げられます。

これだけ聞くと、SM最強やん❗️ってなりますが、デメリットもあると考えます。

SMのデメリットは、、、
まず関節包の役割を思い出してみてください
【関節の安定化】【栄養供給】と今回のnoteでは説明させてもらいました。
この役割を持つ関節包を破断させてしまったら。。。

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(1)レセプターの消失により、生理的な関節運動の破綻
・破断した関節包が元に戻ることはないので、関節包に存在している感覚受容器は無くなります。
⇨感覚受容器からにフィードバックが中枢に送られなくなり脱臼のリスクが高まる
・生理的な関節運動の破綻(副運動の消失)
⇨関節内でのメカニカルストレスの増加

(2)関節内の滑液や滑膜細胞の減少
・関節腔内の老廃物や炎症物資が溜まり炎症などが起こりやすくなる。
⇨慢性炎症のリスクやメカニカルストレス増加

破断した関節包は元には戻らないので、このように二次的な関節疾患に繋がるのではないでしょうか。



⑦最後に

ここまで読んでいただきありがとうございました❗️
いかがだったでしょうか?
日々の臨床で何気なく使っている言葉を再考することは大事だと僕は考えます。
学生の頃は解剖や生理学などは苦手な分野でしたが、臨床に出てみると改めて大事さを痛感しています。
今後も自身のアウトプットの為にちょくちょく記事を更新していきますので、興味のある方は是非今後も見ていってください❗️

また今回の内容で間違っていることやアドバイス、ご意見いただけるととても嬉しいです。

改めて読んでいただきありがとうございました。


参考文献

1)著者:市橋 則明 運動療法学ー障害別アプローチの理論と実際ー

2)著者:F.H.マティーニら カラー解剖学人体学



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